復讐の種火
話は少し巻き戻り、ランカスト達が慰霊碑に手を合わせる少し前…………
同じ慰霊碑に、手を合わせる男の姿があった。
軍師ガヌロン……………彼もまた、レンヴァル村の出身である。
「ソフィー……………帰ったよ……………今回の遠征軍は、お前を見殺しにした男もいる……………忌ま忌ましいが、同じ軍の味方同士…………どうしたもんかな…………」
ガヌロンは持っていた花を【ソフィーア・ルンドホルム】と書かれている下の献花台に供えると、再び目を閉じて故人に祈りを捧げる。
そんなガヌロンの後ろに、男が歩み寄って来た。
黒き鎧を着込み、綺麗な黒髪をたなびかせながら歩く男……………ビューレイストは、口元に少し笑みを浮かべる。
「ガヌロン殿、ヨトゥン領にようこそ……………いや、貴殿にとっては故郷…………でしたな」
後ろからかかる声に振り向いたガヌロンは、1枚の手紙を懐から取り出した。
「ビューレイスト殿だな。この手紙……………高位魔法を使って、私以外には読めないように………………と言うより、私以外の者が読むと全く別の文章になるように仕組まれたこの手紙………………ここまで手を込ませて、こんな場所に呼び出して、どうするつもりだ?」
ビューレイストを睨みながら、ガヌロンは少し間合いをとる。
剣を使わせればロキ軍の中でも1・2を争うと噂されるビューレイスト相手に、戦ってしまったら自分ではとても敵わない。
戦ったら殺される………………そこまでガヌロンは理解しているが、それでも……………敵国の領土に1人で来る事になっても、屈強の剣士と対峙しなくてはいけなくても、それでも手紙の指定された場所に来た。
それだけ、その手紙の内容はガヌロンにとって魅力的だった。
「その手紙の内容通りですよ。貴殿と接触する機会を伺っていたが、我が領内で貴殿が不自然に思われずに軍を抜けられるこの地…………貴殿の娘が眠るこの地なら、問題なく我々と会えるだろうと、ロキ様の配慮です」
恐怖もあるのか、少し声が震えるガヌロンとは対象的に、ビューレイストは憎たらしいくらいに落ち着いている。
「手紙には、水のMyth Knightを我が軍に戻す代わりに、1人………将軍級を差し出せと………………書いてある意味が分からんな」
手紙をヒラヒラさせながら、なんとか自分が優位に立てるようにガヌロンは強い口調で言った。
「本当に意味が分からないと?ベルヘイム1の頭脳が、おかしな事を。意味が分かっていなければ、私と会う訳がないでしょう。貴殿の娘……………ソフィーア様の無念を晴らす機会を与えましょう……………そう言っているつもりですが?」
どんなに語気を強めても、冷静さを崩さないビューレイストに、ガヌロンは唇を噛んだ。
「だいたい、貴様らはソフィーがどうして死んだのか、分かっていないだろう!!ベルヘイム軍に、ソフィーを殺した将軍がいるとでも思っているのか!!」
「確かに、殺した将軍はいないですね…………見捨てた、という事が殺した事にならなければですが………」
心に突き刺さるような視線を浴びせられるガヌロンは、唇を噛む力を強めた。
交渉しようが、何をしようが、相手の持っているカードが強い…………
自分の知略で、智美の引き渡し時に、ロキの軍勢の誰かに将軍を殺させる……………そうすれば、誰にも疑われずに、自分の復讐が果たせる。
だが…………………しかし………………人として、そんな事をしていいのか…………
「我々の考えは、やはり理解されているようだ。ベルヘイム1の頭脳…………流石ですね。アルパスター隊は強くなりすぎた。我々の希望は、捕われの姫とミステルテインを手に入れる事……………その為には、バロールと人間の軍の勢力は均等ぐらいが都合がいい」
そう言うと、ビューレイストはガヌロンに近づき、その肩に手を乗せる。
「貴殿に迷惑はかけませんよ。改めてベルヘイム軍に、正式に水のMyth Knightをお返しする伝令を送ります。その時に、怪しまれずにお1人で我が軍に来れるような文面を添えておきます。詳しくはその時に………」
そう言うと、ビューレイストは颯爽と去っていく。
ガヌロンは何も言えずに、その場に立ち尽くしていた。




