初めての戦闘
「あんだ、てめぇ!オレらがヨトゥン軍の先兵だと知って言ってんのか?」
ヨトゥン…………つまりは巨人族である。
巨人族とは言われているが、人間より一回り大きいぐらいだろうか。
しかし、その力は人間の2倍も3倍もあると言われており、独特の黒いオーラを纏っているようにも感じる。
そのうちの男の一人が、航太を睨みつけて言う。
「なんの兵でも関係ねぇ!!女性に手を挙げる男は最低だぜ!!」
特に捻りのない言葉を並べて、身体が一回り大きいのも、独特のオーラを纏っているのも見えていないかのように、航太は普通に【エアの剣】を構える。
自分より屈強そうな男2人と対峙してるのに、不思議と恐怖はない。
「おもしれぇ!ヨトゥンに人間1人で挑んでくるとはな!オレ1人で相手してやんよ」
航太を睨んでいたのとは別の男が、前に出て来て言った。
漆黒の鎧を纏い、筋肉が隆起しているその姿は、歴戦の勇姿さながらだ。
しかし航太は剣先を相手に向け、引こうとしない。
それどころか、眼光が鋭くなっていく。
集中しているのか、一真の事で焦っているからか【エアの剣】の重さを全く感じなくなっていた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
気合いを入れるように、航太が叫ぶ!!
すると、一陣の風が吹き荒れる!!
砂を巻き上げ、2人の姿を隠す。
その瞬間、航太がヨトゥン兵に向けて突進した!!
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
航太が突進しながら【エアの剣】を横から水平に振る!!
高校時代、剣道をやっていた航太らしい胴打ちだ!
しかしヨトゥン兵は余裕を持って、半歩下がり余裕でかわした。
「戦い慣れてねぇ雑魚か…………つまらんな!!」
ヨトゥン兵が航太に剣を振るおうとした瞬間!
シュっっっ
ヨトゥン兵の腹部から、剣が当たってないにもかかわらず鮮血が飛び散る!!
砂浜が赤く染まり、血が砂に染み込み黒くなる。
「何だ??」
ヨトゥン兵は血が出ている腹部を押さえようとした時……………
「たぁぁぁぁっ」
左右から、凄い勢いでヨトゥン兵に人影が飛び込んでくる!
左から、閃光のような槍の一突きが襲いかかる!
ヨトゥン兵は自らの腕を犠牲にして、槍の一撃を防ぐ!
左腕に槍が刺さったまま、右からの攻撃に備える。
二刀流であるのだろう、二つの太刀筋が見える。
しかし、槍の一撃のようなスピードはなく、余裕を持って防御できる……………はずであった。
グシャ!!
防御に回した剣からは水に触れた感触だけが残り、ヨトゥン兵の胸部を切り裂いていた。
漆黒の鎧をいとも簡単に切り裂いて…………だ。
「なんだこいつら…………Myth Knightか!!」
ヨトゥン兵は後ずさりする!
「おい、Myth Knight3人も相手にしたら殺されちまう!!引き上げるぞ」
もう一人のヨトゥン兵が怪しげな言葉を発すると月の光が光り輝き、眩しくて航太達は一瞬目を閉じる。
目を開くと、ヨトゥン兵が逃げ出していた。
元々追う気もなかった航太は、頼もしい援軍の方に目を向けた。
「まったく航ちゃんたら、何も言わずに走り出すから、追っかけるの大変だったじゃん!!」
絵美が頬をプクーと膨らませて言う。
「突然の事だったから、咄嗟に剣を振るっちゃったけど、人を傷つけるなんて……………」
智美は体が震え、両手に持っている剣を今にも落としそうだった。
「しかし、絵美は流石だな。神藤流槍術最後の伝承者だけの事はあるよ!」
航太はチラっと智美を見たが、航太自身も人を斬った事実に恐怖を覚え始め、話を逸らしたかった。
事実、絵美は神藤流槍術を幼少の頃から父親に叩き込まれており、槍を使わせればかなり強い。
智美は剣を使う舞踊をやっており、2本の剣を持っても苦にならない。
「あの~~~」
ヨトゥン兵に囲まれてた、栗色の綺麗な長い髪と優しげな笑顔が特徴的な女性が航太に声をかける。
「助けてくれてありがとうございます!!Myth Knight様に助けられて光栄です!!我が軍に合流するために来て下さったのですか??」
女性は敬意を払った視線で、3人を見つめた。
「ところで、さっきの男も言ってたけど、Myth Knightってなんでしょう??」
智美が首を傾げる。
女性は驚いたような表情をした。
「Myth Knightって名前をご存知ないのですか?あなた方のような神剣や神槍を使う騎士様の事です」
それを聞いて、絵美が吹き出す。
「航ちゃんが騎士様??ウケるね♪」
「ちょっと、笑ってる場合じゃないでしょ!カズちゃんの事、何か知らないか聞かなきゃ!」
智美が思い出して、慌てて話題を修正する。
「そうだ!!あんな物騒な奴らが徘徊してるような場所で、1人きりなのはヤバい!スイマセン、俺らより少し若い男、見ませんでした?」
航太も慌てて、一真の事を2人の女性に聞いた。
今の戦闘の緊張感で、一瞬でも一真の事を忘れていた自分を少し恨めしく思う。
「見てないけど………………その人は大切な人なのですか?」
先程話していたのは違う…………………こちらは黒髪のショートで、少しキツイ顔立ちの女性が航太に尋ねた。
「ああ………………俺の義理の弟なんです。さっき、逸れてしまって………………」
その女性はその言葉を聞くと頷き、一真の特徴を聞くと、先程のヨトゥン兵のような奇妙な言葉を発した。
「その方は無事のようですね。今【伝心】でこちらの位置を伝えたので、すぐ合流できますよ」
その言葉に、3人は顔を見合せる。
「いや、しかし、そう言われても信じられねぇな」
航太が呟くように言うと、その小声を聞き逃さなかった智美が、航太の耳に口を寄せる。
「今、彼女達に私達を騙すメリットも見当たらないし、数分待ってみよう。こっちの世界の事も何も分からないし、闇雲に探すより可能性のある方にかけてみよ?」
智美の言葉に頷き、航太が話題を変えようと考えてると………………
「私疑問なんだけど、現地の人と普通に話せてるのおかしくない??某ネコ型ロボからコンニャクもらったっけ??」
と、絵美が冗談ポク言った。
何も考えてなさそうな絵美は、こういう時に頼りになる。
それに、その疑問は航太も感じていた。
何故、航太達は現地の人と話せるのだろうか??




