異世界での夜
「でも、ホントに来ちゃった………てゆうか、来れちゃったんだね………」
智美が、周囲を見回しながら言う。
「まだ実感ないけどね…………あんまり驚いてないって事は、少しはこの世界の事信じてたのかもな………」
最後は独り言のように、航太が呟く。
「オレ、ちょっと辺り見てくる!みんなは危険があるといけないから、そこから離れないでね!」
そう言うと一真が走り出し、すぐに闇の中へ消えていった…………
「おい一真!!ってもういねぇよ!!普段大人しいのにな…………」
航太は「はぁ」っと溜息をついた。
「でも、いてもたってもいれない気持ち、私分かるなぁー。だってカズちゃんは先祖様からの意思を継いでるんだから…………この世界があったってコトは、カズちゃんのおじ様の話だって事実なワケでしょ??」
絵美は、航太の持っている剣を見つめた。
一真の父親は先祖の話を、航太達が子供の頃に何度も話てくれていた。
一真の先祖は神話の世界では英雄で、神話の世界の人間界を滅ぼそうとするヨトゥンを倒す為に立ち上がった7人の英雄の1人であった。
神の力に匹敵するヨトゥンを倒すため、7人の英雄は神の力の宿りし武器を探す旅にでる。
何個かの武器を手に入れた時、ヨトゥン側に計画がバレてしまい、一真の先祖達はヨトゥン軍に囲まれてしまう。
一真の先祖は【エアの剣】と【グラム】
後に一真の父と結婚する女性が3又の槍【トライデント】を持ち、空間を切り裂き、航太達とは逆の順路でヨトゥン軍から逃げ出したと言う。
空間を移動する前に【トライデント】はダメージをおっており、その為【トライデント】は3つ(槍、剣2つ)に分離してしまった。
ただでさえ神の力を宿す剣など、なかなか見つからないのに、それが今の航太達の手の中にある。
一真の父親は、神話の世界の話をした最後に必ず【エアの剣】と【グラム】を神話の世界に戻したいと言っていた。
おそらく、一真の父親は自ら神話の世界に来ようとしてたに違いない。
しかし【エアの剣】【グラム】を見つけた後、事故にて亡くなったのだ。
その意思を継いでる一真は、確かに自分達とは違うと航太は思った。
そんな事を思い出してると………
ドオオオォォォォン!!!
一真が走って消えた方角から、耳をつんざくような爆発音が響き渡った。
「ちょっと……………今の爆発!カズちゃんに何かあったんじゃ……………」
「やめてよ!来た早々にそんな事……………」
絵美の言葉に、真面目な智美の顔が真っ青になる。
「とりあえず、一真の後を追うぞ!まだ何も分からないんだ。何かあってからじゃ遅い!」
航太は言葉を言い終わる前に走り出した。
「そだね!とにかく急ごう!」
絵美も智美も神話の世界に来たばかりで、言いようのない不安が心を支配している。
そんな時の、謎の爆発音。
とにかく、一真の無事を確認して不安を解消したかった。
しかし…
「きゃーーーー!!!!!」
急いでいる時に限って、何かが起きる。
明らかに異常を訴える、女性の甲高い悲鳴が進行方向から聞こえてきた。
「何、今の悲鳴!」
走りながら、智美が両手に持つ剣を強く握る。
「まさかカズちゃん………女の子襲っちゃった??私ならいつでもオッケーなのにー♪♪」
一真が無事であって欲しいのと、自分の不安を消したい絵美がおちゃらけた言葉を使うが、その声は震えている。
絵美のふざけた話を真剣な表情できいていた航太は、自分の持つ【エアの剣】をジッと見つめた後、声のした方へ走り出した!!
「ちょっと航ちゃん!カズちゃん探さなくていいの?」
智美が大声で航太を静止しようとするが、その行動に迷いはない。
砂浜で走りにくかったが、航太は一心不乱に走る。
悲鳴の起きた現場に行けば、この世界の事が分かるかもしれない……………闇雲に一真を探すより、今のこの状況を利用しようと考えた。
何より、困っている人を見捨てて一真を探す事を優先すれば、一真は怒るだろう…………
どのみち進行方向で起きている事なので手早く解決して、一真を探す手がかりを聞こう…………そう思った。
そんな思いが、航太の走るスピードを加速させる。
少し走ると、人影が見えてきた。
月影が、鎧をつけた男2人が2人の女達を見下ろしてる姿を写し出す。
「爆発音を聞いて見に来たら、いい拾い物ができたなぁ!」
男の1人が、1人の女の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
「何してんだ!!やめろ!」
航太は思わず叫んでいた。