歯痒い心
一真とネイアはシェルクードの治療の為に先に戻り、現場での役目を終えたティアとエリサは、航太達の事が心配で一緒に戻る事にした。
「私……………ヤな奴だね……………」
焼け野原となった大地を歩きながら、絵美は俯きながら呟く。
ホワイト・ティアラ隊の必死な治療を目の当たりにして、絵美は自分のとった行動が恥ずかしかった。
シェルクードの態度は、どうしても許せない。
ただ、それとは別に、ティアやエリサの必死の看護に心を打たれていた。
そして航太も、それは同じ思いであり、絵美の呟きに頷く。
「いや…………オレも同じだ。でも、まだ複雑だな…………結局は、一真は智美の事には冷たかったのに、アイツを助けるのは必死だったしな……」
ティアやエリサには、憤りを感じてはいない。
しかし供に異世界に来た義弟が、幼なじみの女の子が行方不明な状態にも関わらず、その捜索に不満を口にしていた人間を必死に助ける姿に、航太は複雑な気持ちを拭い去る事が出来ないでいた。
「航太さん………絵美…………気持ち、分かります。部隊の治療を担っている私だって、仲間を侮辱するような人、看病したくないって思っちゃいます」
エリサは、2人の気持ちに寄り添いたかった。
航太にとっては、幼なじみ…………絵美にとっては、双子の姉………
そんな大切な人が、戦場で敵の真っ只中で消息を絶った………そして、仲間である筈の兵は、まともに助けようともしない………
そんな兵達と同じベルヘイム国出身のエリサは、関係のない国の為に戦ってくれている航太達に申し訳ない気持ちが溢れていた。
「けど、一真さんだって辛いのに頑張ってる………どんな時も必死に、分け隔てなく傷ついた兵隊さん達を治療してる………それなのに、大切な人達に冷たい態度をとられていたら………」
ティアは胸の前で手を合わせ、そこで言葉を止めた。
そう………きっと、そんな事は言わなくても皆分かってる…………それでも、納得出来ない事がきっとある………
ティアは、そう思うと言葉が出なくなってしまった。
「アリガト、ティア!!一真の事を理解してくれて!!私、ダメだなー。分かってるハズなのに………ね………」
ティアに抱きつきながら、しかし絵美の言葉の最後はやはり呟くような声になってしまう。
「おい、何か聞こえないか?何か………嫌な予感がする………」
航太達の話を静かに聞いていたランカストの突然の緊張感のある声に、その場の空気が張り詰めた。
静かにすると、焼け野原を走る数騎の馬の蹄の音が確かに聞こえる。
そして、その音はドンドンと近づいて来ていた。
「将軍!!コッチは5人しかいないし、2人はほぼ戦えないぞ!!どうする?」
航太の声に、皆の緊張が否応なしに高まっていく。
「どうするも何も………相手がヨトゥンなら、戦うしかないだろう。エリサとティアは、必ず守り抜くぞ!!」
ランカストを中心に、前衛に航太・絵美が並び、エリサとティアを後衛にして、守りの布陣を素早く作る。
布陣を整えると直ぐに、騎馬隊が視認出来る位置に迫って来ていた。
「ガイエンかっ!!あれだけ殺しておいて、まだやんのか!!」
怒りの篭った航太の視線の先………
そう………その騎馬隊の先頭にいたのは………紅の鎧に身を包むガイエンだった………




