命の選択
巨大な火球が落ちた現場は、航太達の想像を絶していた。
火葬場のような独特な臭いに混じって、金属やゴムが溶けた様な嫌な臭いが辺りを支配している。
円状に焼け野原になったこの場所は、その部分だけを白黒カメラで撮ったかのように、モノクロの世界になっていた。
その臭いと現状に、思わず絵美も顔をしかめる。
しばらく歩くと、白と黒の大地に動く物があった……
焼け野原の地面から突き出て、動いている物体…………
それは人の手だった!!
「おい!!大丈夫か??」
ランカストが慌てて声をかけて、急いでいるからなのか、ぎこちない動きで地面を掘り起こし、黒い土の中から突き出た腕で助けを求めるその人を掘り起こした。
人の影になったうえに巻き上がった土に埋もれ、奇跡的に火球の直撃を避けられたのだろう。
その身体は全身真っ黒で、その下の皮膚は赤く爛れており、体中に火傷を負っている。
だが、か細い呼吸音が聞こえ、言葉は発せないが、その腕は微かに動いている。
そして、その顔をよく見ると………真っ黒で分かりづらくはあるが…………智美の捜索に否定的な態度をとっていたシェルクードで間違いなかった。
(よりによって、コイツ??)
絵美は不謹慎と思いつつも、そう思わずにはいられなかった。
その時、異常事態に気付いたホワイト・ティアラ隊が猛然と駆け付けた。
「航兄!!ミーちゃん!!無事か??」
到着するやいなや、駆けてきた馬が巻き上げた灰を身体に浴びる事も気にもせず、航太を見つけた一真が馬から飛び降りて声をかけた。
「ああ、オレ達は無事だぜ!!怪我もしてない…………だが……………」
改めて周囲を見渡して、航太は更なる絶望を感じる。
嫌な奴は見つけた…………シェルクードは本当に奇跡的に見つけたに過ぎない。
この灰だらけの大地の中…………気道が焼けて呼吸が難しい状態で、この大地の中に埋もれて呼吸出来るはずがない。
医療の知識の無い航太でも理解出来るぐらい、他の生存者の存在は絶望的だった。
「これは…………本当に酷い状態だね………でも、とりあえず無事で良かった…………」
航太達も当然巻き込まれたと思っていた一真は、安堵の表情を浮かべたが、周囲の状況が生還を心から喜ばせない。
「辛うじて、生き残りが1人いるよ」
普段の明るい絵美の声とは違うのは当然だが、心が通ってないような、ぶっきらぼうな言い方に、一真は戸惑った。
「??」
絵美らしからぬその言い方に疑問を感じながら、一真はシェルクードを見る。
シェルクードは、生きているのも困難な程に呼吸状態が悪化し、全身の火傷が皮膚からの呼吸すら妨げていた。
「酷い火傷だ!!このままじゃ死ぬぞ!!」
シェルクードの状態を見た一真の顔色が、一瞬で変わる。
「おそらく、気道も火傷を負ってる!!呼吸状態も怪しい!!」
一真はシェルクードの肩の下にタオルを丸めた様な物を入れて気道確保すると、口の中に管を入れ始めた。
一真は使えそうな道具を魔法で加工・滅菌処置を施してもらい、常に持ち歩いていた。
シェルクードの口に入れた管も、その1つだ。
「挿管なんて見よう見真似だけど、何もしないよりマシだ!!」
一真は、汗だくになって処置続けている
口に管を入れて気道を広げないと、火傷による浮腫で気道が閉塞して呼吸困難になってしまうのだ!!
「ネイアさん、患者の体を冷やして!!ミーちゃんは水をかけてあげて!!」
一真がシェルクードの処置に集中しながらも、2人に指示を出す。
ネイアはその指示で直ぐに魔法でシェルクードの体を冷やし始めるが、絵美は動かなかった。
「ミーちゃん!!【天沼矛】で水を!!流水をかけないと!!」
一真の必死な訴えに、絵美が長い髪を振り乱しながら首を横に振る。
「この人、智美の捜索も適当にやったし、批判もした…………他の人を助けようともしないんだから…………自業自得だよ……………」
普段の絵美なら絶対に言わないその言葉に、一真は驚いた。
「その気持ちも分からなくないけど………それじゃあ絵美も、この人と同じじゃないか!!今は命の危機なんだ!!力を貸して!!」
一真は必死に訴えるが、絵美は首を横に降り続けた………




