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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
漆黒の騎士と水の神剣士
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怠慢の捜索隊

ランカスト隊、ユングヴィ隊の合流でヨトゥン軍を押し返し始めた頃、ようやく捜索隊が動き出そうとしていた。


「私は捜索隊の指揮をとる【パシェード・シェルクード】だ!神剣に選ばれただけで軍の上位に位置するようになった奴だが、それでもMyth Knightだ。皆真剣に探すように!」


シェルクードはふざけた物言いで、捜索隊の面々からも少し笑いも漏れている。


(なんなのコイツら!!本気で探す気あるの!!)


イラっとする絵美だったが、ここで事を荒立てると捜索が遅れると思い、ささやかな抵抗でシェルクードを睨みつける事だけに留めた。


(ガーゴを連れて来なくて良かった……絶対に文句の一つは言ってたよね)


絵美は本気でそう思いつつも、後でガーゴに愚痴を言おうと心に決めた。


斯くして、捜索は始まった。


案の定ゆっくりとした捜索、戦闘が起きている場所には近づかない事を徹底され、更には無駄話をしている兵士が多く、捜索には時間がかかった。


先程まで戦場に出ていた兵士も多く、捜索など止めて早く休みたいという雰囲気が絵美には感じられる。


そんな中、目の前の兵士が倒れている人を見つけて走り出した。


もはや亡くなっているのだろう………友人か家族か…………力の入らなくなったその体を抱きしめて、自らの身体を震わせている。


もし、倒れていたのが智美だったら………その体が冷たくて動かなかったら………


絵美は、胸が強く掴まれるような感覚………そして、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


ゼークがアルパスターに助けられた場所は、まだ戦闘が続いているとの理由で、捜索隊は立ち入らない事を決めた。


絵美は無理にでもその場所に行きたかったが、先程航太に「絵美まで居場所が分からなくなったらどうする!!」と言われた事を思い出し我慢した。


(私たち双子だもん………何かあったら分かるよね………絶対、大丈夫だよね………)


絵美は、ゼークが智美と別れた場所を思いながら、その場を離れた。


その後、数時間ゆったりとした捜索が続いたが、そのような捜索では当然智美が見つかる訳もなく、日が落ちはじめた頃に捜索隊は戻ってきた。


「絵美!!どうだった!!」


絵美が幕舎に戻ると、良い報告を待ちわびていた航太と一真が駆け寄ってきた。


一真の頭には、何故かガーゴが乗っている。


「どうもこうもないよ!!捜索は遅いし、捜索隊の隊長にはイラつくし、智美は見つからないし、もーサイテー!!」


怒りに任せた絵美の言葉で、智美が見つからなかった事が皆に伝わった。


「智美……見つからなかったんだ……大丈夫かな??」


表情を曇らせた一真が、絵美の怒りを抑えるようにガーゴを手渡す。


「畜生!!あの時………オレがゼークと智美を守りきれれば、こんな事にはならなかったんだ!!」


近くにあった机を叩き、握りしめた拳が航太の悔しさを物語っている。


「ミーちゃんは、何でそんなにイライラしてるでしゅか~~」


怒りに満ちた絵美の腕に抱かれたガーゴは、恐る恐る聞いた。


元よりガーゴに愚痴を言おう決めていた絵美は、その体を口の前に持って行き、声を張り上げる。


「ガーゴ!!よく聞いてくれた!!捜索隊の隊長、私達の事神剣に選ばれただけで軍の幹部になったって!!智美がいなくなったのに、笑ってるヤツもいたんだよ!!」


絵美が怒りの全てをぶつけるように、捲し立てる。


「わ………分かったでしゅ~~。災難でしゅたね……(^-^;」


ヌイグルミなのに何故か汗をかいているガーゴには誰も突っ込まず、捜索隊の怠慢に憤りを感じていた。


「絵美も大変だったね………でも、捜索隊の人達も自分が辛い中で智美を探してくれたんだから、感謝しないとね」


ただ1人、捜索隊の事も気に止めた一真の言葉に、絵美は見つけた遺体を抱きしめて身体を震わしていた兵士を思い出した。


「分かるけど………私はヤッパ納得できない!!」


それでも絵美は、自分に全く関係ない戦争に協力してあげているのに、何故こんな仕打ちを受けるのか………頭では分かっていても理解したく無かった。


「おい一真!!絵美の話を聞いてたのか?智美を真面目に探さなかった奴らの肩なんて持つな!!」


そんな絵美の気持ちを代弁するかのように、航太は一真の襟首を掴んで、今にも殴りかかるかの勢いで力任せに言葉を放つ。


「分かってる。でも………仲間同士で争ってたら、見つかるものも見つからないよ………今は兵達の力を借りて捜索してもらわなくちゃ……」


正論を言う一真に、航太は深い怒りを覚えたが、あまりの正論に振り上げた拳の着地場所はなく、襟首から力強く手を離す事しか出来なかった。


「智美……絶対生きてるよね………?」


襟を正ながら、一真がポツリと言う。


「たりめーだ!!死んでたまるかよ!!ゼッテー生きてる!!」


航太が自分に言い聞かせるように………怒りの吐き出し場所はココだとばかりに大声で答える。


「そうだね………オレ達が信じなきゃ……」


俯きながら………自分の手を悔しそうに眺めながら一真が呟く。


「私、明るくなったらもう一回探してくる!!あんな捜索じゃ、ヤッパリ納得できない!」


絵美は興奮気味で、居ても立ってもいられない状態であった。


しかし、いつの間にか夜の帷も落ち、街灯も町の明かりも無く、本当に真っ暗な場所で捜索する事も出来ず、ただただ無事を祈る気持ちのみが募っていった……

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