開かれし異世界の扉
ザザー…………ザザー…………ザザー…………
定期的に、波の音が聞こえてくる。
音と言えば、波の音と、遠くで車の走る音が微かに聞こえてくるぐらいである。
町側には街灯が見えるが、海側に目を移すと海辺と砂浜の境目が分からないぐらい真っ暗で、月と星が綺麗に見える。
4人は小田原の、とある砂浜に来ていた。
道路から少し離れており、駐車場のないこの海辺は、地元の人が花火を楽しんだりするが、深夜のこの時間は人影はない。
「こんな人のいない海始めて…………みんなでいるから綺麗に見えるけど、1人だと怖いぐらいだね………」
智美が辺りを見回しながらつぶやく。
「剣持ってるトコ見られる訳にはいかないし………こんな変な事に巻き込んでゴメン…………」
後から合流した一真が、謝罪の言葉を述べた。
「何言ってんだ!こんな事ぐらいどって事ねーって!!海に向かって剣振るだけだし、みんな向こうの世界の事気になってんだよ!」
航太は少し強めの口調で言う。
航太の横から絵美がヒョコっと顔を出し
「そーそー。まぁ神社で奉ってある神器を勝手にパクってきたから、家帰ったらメチャ怒られるくらいだし♪♪」
と、明るく言って【天沼矛】を軽く振る。
「オレらは怒られねーしな。人のいない間に早くやっちまおーぜ!見つかったら銃刀法違反が…………」
「えー何それ!!航ちゃんが持ち出したって置き手紙したから、怒られるのは航ちゃんだけだよー♪♪」
航太の言葉を遮って、絵美がサラっと大変な事を言う。
「まぢか…………オレ殺されるかも……」
航太はそう言いながらも【エアの剣】を手にとった。
「じゃあやってみよう!一真の願いを叶える為にも、全力でやるよ」
智美が【草薙の剣】と【天叢雲剣】を両手に持つ。
あえて「全力」という言葉を使ったのは、智美自身恥ずかしさがあったからである。
「1回だけだしね♪お菓子も持ったし、早くやろー♪」
右手に【天沼矛】を持ち、左手にアヒルのヌイグルミ【ガーゴ】を抱えて絵美が言う。
「ありがとう、みんな。じゃあ合図したら、全員武器を思いっきり振って!」
一真は【グラム】を持ち、真剣な目で暗い海を見つめる。
「じゃあ、いくよ!!」
一真が【グラム】を振り抜く!!
それと同時に、3人も各々が持つ武器を振り抜いた!!
同時に、目の前の空間がパックリと開き、その開いた空間の中は真っ暗で、暗い中に渦のような何かが見え、異様な空気を醸し出している。
何か、宇宙空間と繋がったような……………そんな不思議な感覚だ。
「何これ!!引っ張られる!」
航太が我に返ったのは、絵美の声が突然耳に飛び込んで来た時である。
航太が視線を向けると、絵美が真っ先にその空間に引きずり込まれるところだった。
「絵美!!」
それにつられるように、智美も空間の中に入る。
「オレらも入るぜ!!」
意を決し、航太と一真も後に続く。
ビシャン!!
(冷た!)
空間に入ると突然足首ぐらいまで水に浸かり、正面に空間を渡る前に立っていたような砂浜が見える。
後ろを向くと徐々に開いていた空間が閉まっていった。
……………………
みんな一言も発しないで、陸に上がった。
砂浜に立ち、全員呆然と立ちつくす。
「空間が開いた時は驚いたケド、意外と普通な感じだね♪」
絵美が最初に声を上げる。
「これって、違う世界に本当に来たのかな?なんか、あまり変わった感じしないけど……………」
智美の言う事ももっともで、空間を渡る前との違いは車の走る音がないぐらいで、それ以外は風景もそれほど変わりない。
「けど、明かりがまったくねーな」
航太は、周りを見回して言った。
確かに、空間に入る前に目にしていた街灯や家の明かりが全くなかった。