ゼークの帰還
「将軍!!智美は!!」
幕舎に入ってくるアルパスターを見つけ、航太が駆け寄りながら聞いてく。
「ゼークと離れ離れになっていてな………一度ゼークだけ連れて戻ってきた…」
アルパスターは、抱えているゼークを見て言った。
「っ…………」
何かを言いかけた航太だったが、ゼークを見て何も言えなくなった。
アルパスターに抱えられて意識を失っているゼークは、ヨトゥン兵の返り血を全身に浴び、そして自らの体も傷だらけで真っ赤に染まっていた。
(こうなるまで、智美を守ろうとしてくれたのか………)
航太は、唇を噛んだ。
航太の後に駆け付けた絵美も、ゼークを見て息を呑んだ。
「こんなになるまで、智美を守ろうとしてくれたんだね………」
絵美はそう言うと、アルパスターの方を向いた。
その表情は、普段の絵美からは想像もつかない、真剣そのものである。
「私に、智美を探しに行かせて下さい!!」
始めて見るかもしれない真剣な表情の絵美に言われ、アルパスターは少し考え込んだが………
「分かった。絵美は怪我をしてないようだし、捜索隊に合流してくれ!ただし、単独で動くなよ!!」
絵美の心も察し、アルパスターが答える。
「アリガト!!将軍!!」
アルパスターにウィンクで返し、絵美は捜索隊が編成されている場所に駆け出す。
「将軍!!オレも!!」
絵美を追おうと航太も走り出そうとするが、アルパスターが止める。
「お前は傷を治すのが先決だ!!ろくに動かない両腕で、何をする!!」
アルパスターに言われ、航太の動きが止まる。
(確かに、足手まといになるだけか………こんな状態でフェルグスやスリヴァルディと戦ったら、殺される………)
航太には足手まといになる心配より、恐怖が心を支配していた。
立ち止まった航太の足に、冷たい手が触れる。
「航太…………ゴメンね……智美……守れなかった……」
ゼークの意識が少し戻り、動けなくなった航太に声をかけた。
「いや、オレの方こそ……無理な事言ってゴメン!!そんなになるまで、智美を守ってくれたんだな……」
ゼークはボロボロになりながら、智美の為に戦ってきてくれた。
自分はどうなんだ………?
航太は、恐怖で支配された自分の心が恥ずかしかった。
そんな航太を見ながら、もう一度「ゴメンね……」とゼークは言って、再び目を閉じた。
(しかし、こんな劣勢の時に捜索隊なんて出して大丈夫なのか??)
ふと、航太に疑問が過ぎる。
わあああぁぁ!!
その時、幕舎の後方から、大勢の人の歓喜の声と馬の蹄の音が聞こえた。
「ユングヴィ王子の軍が、間に合いましたな」
どこから現れたのか、軍師・ガヌロンが自慢気な顔でアルパスターに言う。
後退しながらガイエン軍と戦っていたランカスト軍と、ベルヘイム本国から駆け付けたユングヴィ王子の軍。
ガイエン軍を、この2つの隊が挟撃!!
これを敗走させ、アルパスター軍の加勢に現れたのだ。
ランカスト軍をわざと後退させながら戦わせ、アルパスター軍の近くで戦わせる事によって、援護に早く来れるようにしていたのだ!!
このため、ギリギリのタイミングで加勢が間に合った。
ゼーク軍を壊滅状態に追い込んだヨトゥン兵達も、予想外の援軍に一時的に後退を強いられた。
ガヌロンの知才を認めざるを得ない、見事な戦術だった。
(みんな、やっぱり凄ぇ……あとは智美が無事なら……)
ヨトゥン軍が後退した大地を航太は見つめながら、智美の無事を強く願った……




