9つの首
不意をつかれた航太は、その叫び声で体が硬直したが、対峙するフェルグスに無防備になるにも関わらず智美の方を向いた。
フェルグスが攻撃を仕掛けたならば、簡単に殺されていただろう。
ただ、無意識に……智美の方を向いてしまった。
ゼークは流石に体勢を整え、フェルグスと智美、両方に対応出来るように2人が視野に入るポジションをとり剣を構えなおす。
「フェルグス……あの男は……誰??」
ゼークの視線の先には、智美と傍らにいる両手に剣を持った、細身のいかにも悪人面した男を捉えていた。
智美の足からは出血しているのが見え、相手が動けなくなった所を殺そうという意図が伝わってくる。
「スリヴァルディ……」
フェルグスの放ったその言葉に、憎しみが篭ってるように航太には聞こえた……
「くそっ!!フェルグスに気を取られすぎてた……私が気付かなかったなんて!!」
元フィアナ騎士のフェルグスは、後ろからは攻撃して来ない……ゼークは咄嗟に判断し、スリヴァルディと呼ばれた男に狙いを定め突っ込んでいく。
スリヴァルディの腹部を狙って、ゼークは今ある全ての力で剣を突いた!!
しかし、片手で剣を持つゼークに対し、細身だがスリヴァルディは二刀流である。
簡単に防がれ、押し返される。
航太がフェルグスを見ると、スリヴァルディを睨んでおり、こちらを攻撃する意思が失せているように見えた。
(何だか分からねーけど……とりあえず、智美を助けるのが先決か!!)
フェルグスから不意打ちを受ける事は無い……航太も何故だか確信めいた思いがあり、スリヴァルディに標準を定める。
「ゼーク伏せろ!!」
スリヴァルディと抗戦中のゼークに航太は叫び、激痛の走る中、利き腕ではない左腕で風の刃を発生させた。
右腕で放つソレとは違いスピードが遅いが、ゼークが一瞬スリヴァルディの視界に入り、タイミングを計って地面に倒れ込んだ。
スリヴァルディからすれば、突然目の前に風の刃が現れた感じである。
「…………………!!!!!」
何かを発する時間もなく、スリヴァルディの首と胴体は離れ離れになった。
(やっちまった……でも仕方ない…智美とゼークを護る為だ!!今は戦争中なんだ……)
始めて人を殺してしまった感覚に、航太は胸が潰されそうになるのを、理屈で抑え込もうとしていた。
その時……
「あ~~~首が一つ吹き飛んじゃったじゃないか!!Myth Knightが不意打ちとは、良くないぞ~~」
首のないスリヴァルディが………喋ってる!!!
確かに血も吹き出す事なく、首から上のないスリヴァルディが歩き回っており、航太は体が固まった。
(なんなんだ??こいつは??この世界は何でもアリなのか??)
サーカスでも、あまりお目にかかれない状況に、航太はパニックになっる。
「驚く事はない。ヤツは【9つの首】のスリヴァルディ。9回首を落とさなきゃ倒せんぞ」
フェルグスが無表情に……感情の篭ってない声を出す。
「て……驚くわ!!ってか、敵に情報流していいのかよ!!」
航太は言った後にフェルグスを見るが、あまりスリヴァルディに関わりたく様子である。
「まぁ……知った所で、お前達の敵う相手ではないしな……」
フェルグスが航太を一瞥した後、スリヴァルディを見た。
「後は任せたぞ。オレは一度兵を立て直す」
スリヴァルデイを援護したくないのか、フェルグスはそう言うと歩き出した。
航太もゼークも、フェルグスを止める余裕はなかった。
「相変わらずクールだねぇ~~。満身創痍3人じゃ、あまり楽しめないけど」
スリヴァルディが、フェルグスの反応など気にも止めず二刀流を構える。
既にスリヴァルディの首は元に戻っており、先程の攻撃など無かったかのように、自然と元通りになっていた。
普通なら目を丸くしてツッコミたい状況ではあるが、それを気にする余裕すら今の航太達には無い。
「ゼーク、ここはオレが引き受けるから、智美を連れて引いてくれ!!」
航太は、頼りない左腕のみで【エアの剣】を構えた。
戦場にはスリヴァルディのヨトゥン軍も入り込んできており、混戦になっている。
「分かった。智美はなんとか連れて行くから!!無茶しちゃ駄目だよ!!」
意識が朦朧としている智美を抱えて、ゼークは歩き出した。
「逃がしませんよ!!」
スリヴァルディが、ゆっくりと歩くゼークと智美に襲いかかる。
「空気読みやがれ!!この女好きが!!」
叫びながら、航太は風の刃をスリヴァルディ目掛けて放つ!!
スリヴァルディは二本の剣で力のない風の刃を切り裂くが、その間に航太がゼークとスリヴァルディの間に入った。
「邪魔しますか!なら、まずお前から始末してやる」
「なんか、戦隊ものの悪役の台詞みたいだな!!」
航太が痛みを堪えながら、余裕を見せるように「プッ」と笑うと、スリヴァルディが怒りの表情になった。
「悪役とは何ですか!!許しませんよ!!」
スリヴァルディが一瞬で航太との距離を詰めると、二刀流で攻撃を仕掛けてくる!!
二刀流と戦った事のない航太は、ジリジリと後退させられていく。
動く度に鈍痛と血が飛び散る右腕と、剣の衝撃の度に握力を失っていく左手……。
航太は、意識が朦朧としてきた。
(やべぇ………すげぇ痛ぇ……目が霞んできやがった…)
力を失っていく左手で、懸命に【エアの剣】を振り続ける。
風圧でスリヴァルディの剣をズラしてはいるが、航太の体には擦り傷が目立つようになってきた。
(戦う度にピンチの連続だ!!なんで強ぇ奴らとばかり戦わなきゃいけねーんだ!!)
こんな愚痴を思いながら、航太は必死に活路を探す。
すると………
「航太!!」
大きな声がした。
声がした方向を微かに見ると、そこにはアルパスターが立っていた。




