金と銀の騎士
【カラドボルグ】の攻撃に衝撃を受けていた航太は、ゼークがフェルグスに気付いて飛び出した事に全く気付いていなかった。
航太の周りでは、ゼークの軍が混乱を起こしている。
まるでバーゲンセール中のデパートのような混乱に、人混みの嫌いな航太は何とか混乱を鎮静化しようと試みた。
しかし………
「一体何が起きたんだ!!」
「そっちに行くと、さっきの攻撃に晒されるぞ!!」
「やばい…死ぬ…死んじまう!!」
ゼーク軍は【カラドボルグ】の突然の攻撃で、大混乱は留まる事を知らない。
さっきまでの士気が嘘のように、軍全体が騒然となった。
(今の攻撃……何なのか突き止めないと……この戦い負ける!!)
軍の状態を見て、航太は危機感を覚えた。
しかし、そんな事を考える余裕も、それほど無かった。
既にヨトゥンの陣に入り込んでいるため、次々にヨトゥンの兵士が襲いかかってくる。
中軍までが混戦に巻き込まれ、至るところで叫び声や金属が重なり合う音がする。
(ヤベっ!!混戦になったら真空の刃は使えねぇ……各個に倒すしかない!!)
航太は風の力を制御しながら、味方に被害が出ないように戦う!!
戦いに集中していた航太は、横にいた筈のゼークがいなくなっている事に気付いていなかった。
ゼークがいなくなっている事に気付いたのは、自分の周囲の敵を吹き飛ばし、一息ついた時だった。
航太は周りを見るが、至る所で戦闘が行われ、ゼークらしき人影を見つける事が出来なかった。
(くそっ!!ゼーク、早まるなよ!!)
航太は、近くにいたヨトゥン兵に斬りかかり、死なない程度の傷を負わせる。
「ぐはっ!!」
倒れるヨトゥン兵の首元に【エアの剣】を突き付け……
「フェルグスはどこだ!!」
と、早口で叫んでいた。
「大将の居場所を言う馬鹿がドコにいる??殺すなら殺せ!!」
その言葉に、航太は急に冷静さを取り戻す。
(何やってんだ??オレ??)
首元に突き付けていた【エアの剣】を引くと、ヨトゥン軍の陣の中央に向かって走り出した。
(いくら敵でも、あんな事やってたらガイエンと同じになっちまう……)
戦争に慣れていく自分に航太は恐れを感じながら、それでも走り続ける。
ガキィィン!!
必死にゼークを探す航太の耳に、他の戦闘とは明らかに違う金属音が聞こえてきた。
それと共に、凄まじい風切り音も聞こえてくる。
(間違いない!!ゼークが戦ってる)
音がする方に全力で走ると、銀髪の少女が金髪の騎士と対峙している所だった。
銀髪の少女……ゼークは、右肩の鎧が溶けて、中の肉から微かに煙りが立ち上っている。
肉の焼ける嫌な臭いが、場に充満していた。
右腕は動かないのだろう。
左手一本で、バスタードソードを構えている。
その表情は、明らかに苦痛と……心の痛みが入り混じっていた。
一方、金髪の騎士フェルグスは、白に黄金の装飾を施された鎧も、体にも傷一つなく、平然と立っている。
(ここまで実力差があるのか??とにかくゼークを助けないと……)
航太は【エアの剣】を構えた。
「お前が噂の、3人の新星Myth Knightの一人か??」
金髪の騎士は戦っている最中なのに、息も切らさず穏やかな口調で航太に問う。
「あんたがフェルグスか??ゼークから話は聞いてるぜ!!なんでゼークと戦わなきゃならない!」
航太はフェルグスとは逆に、感情の篭った声で言った。
「ならば【エア】に選ばれたMyth Knightに問おう。お前は何のために戦っている?人間を守る為か?大切な人を守る為か??」
「そんなもん!!両方に決まってんだろ!!」
フェルグスが話終わらないうちに、航太が叫ぶ。
「なら、自分が守りたいものが、自分の所属している所で守れないとしたら……どうだ??」
航太は、何も言えなくなった。
(畜生!!なんでオレは何も言えない!!)
航太には、フェルグスの言い分も分かっていた。
それでも、それを抑えつけるように、強く発言していた。
しかし、最後のフェルグスの問いのように、戦争中に複数の事を思い通りにするのは難しい。
自分の選んだ道を自信を持って進むフェルグスが、どうしても間違ってるとは、航太には思えなかった。
「フェルグス……どうしても人間側に戻る事は無理なの??」
ゼークは負傷した右肩を抑え、痛みを我慢しながらも柔らかい口調でフェルグスに聞く。
「ゼーク……もう分かるだろ……オレがヨトゥン軍を離反すれば、今ヨトゥンに投降している人達に危害が加えられるかもしれない……それにロキ殿の政策で、民は安定して平和に暮らしている……今の民の生活を……私は壊したくない!!」
決意の篭った声を上げ、フェルグスが【カラドボルグ】を構えた瞬間、閃光が走った!!




