フィアナ騎士との出会い
話は10年前に遡る。
8歳のゼークが、アルスター国へ訪問するベルヘイム王を護衛する父親と供に、アルスター城に入城した時の話である。
ベルヘイム王とアルスター王の対談中、父も王の護衛の為、王の側を離れられず、ゼークは暇を持て余していた。
城内を探検していたゼークは、中庭で戦う二人の剣士に目が釘付けになった。
1人は綺麗な槍を持ち、漆黒の鎧を纏う大柄な男。
1人は、こちらは綺麗なロングソードを持ち、白に金で飾りを施された鎧を纏う男。
この2人が手合わせをしていたのだ。
光の矢のように繰り出される槍の攻撃をロングソードで受けたと思ったら、今度はロングソードが伸び、攻撃した場所に雷が落ちる!!
しかし、槍の尖端から光の矢が三本飛び出し、剣撃・雷の攻撃を防ぎ、さらにロングソードの男にも攻撃を加える。
すると伸びていた剣が一瞬で縮まり、光の矢の攻撃を防ぐ。
ゼークは、この戦いに魅入ってしまっていた。
その時、この可愛い乱入者に槍の男が気付いた。
若き日のアルパスターである。
アルパスターは、ゼークに向かって…
「お嬢ちゃん、どっから来た??」
と、尋ねた。
幼少時代より剣の訓練を積んでいたゼークだったが、凄まじい戦いを演じていた大男が迫ってきたので、体が竦んでしまっていた。
「ははっ!!そんなにドカドカ迫ってったらビックリするに決まってるだろ!」
白い鎧を纏った男は、ゼークに一礼し…
「フィアナ騎士団所属、フェルグス・マクロイヒと申します」
と、挨拶をした。
そして、アルパスターの方をチラっと見る。
「あー、もう!」
と、アルパスターは自分の髪をグシャグシャとして…
「同じく、アルパスター・ディノと申します」
と、名乗った。
先程は恐いとさえ思った大男の少しお茶目な姿を見て、幼いゼークは吹き出してしまった。
「見ろ!!笑われちまったじゃねーか!!」
アルパスターは、フェルグスを睨む。
「ははっ!!いいじゃないか、場が和んだんだし」
そう言うと、フェルグスはゼークに向かって微笑みながら話かける。
「何故、こんな所にいるんだい?」
「お父さんが王様の護衛してるから、待ってるの」
フェルグスの笑みに緊張がとれて、ゼークは普通に答えた。
「じゃあ、あの【銀狼、ファルミア・ゼーク】の娘さんかよ!!」
アルパスターは、驚きの声をあげる。
無理もない。
銀狼の通り名は【ベルヘイムの守り神】とも言われ、ベルヘイム国内に留まらず、アルスター国やコナハト国にまで名声が轟いていた。
ゼークと2人の騎士はこうして出会った……
ベルヘイムに帰ったゼークは【フィアナ騎士団】について調べた。
アルスター王国は、コナハトとムスペルヘイムとベルヘイムの三国の国境と隣接している。
ヨトゥン軍の手に落ちたコナハト・ムスペルヘイムの両国と隣接しているので、国境線は常に激戦が展開されている。
しかし、ヨトゥン軍がアルスター王国を攻め落とせない背景には、フィアナ騎士団の活躍があったからだ。
フィアナ騎士団の騎士になる事は【7国の騎士】の次に名誉な事とされ、人々から憧れの目で見られる存在である。
その中でもフェルグスは、トップクラスと気品と剣の腕を持ち、アルスター国の王子でもあった。
ゼークはフィアナ騎士団を調べるうちに、幼い自分に対しても騎士としての振る舞いを見せてくれたフェルグスに、いつしか恋心を抱くようになっていた。
それからのゼークは、父がアルスター国に行く時に必ず付いて行き、フェルグスとアルパスターと会うようになっていた。
ゼークにとって、フェルグスに剣を教えてもらうのが至高の時間となり、アルスター国に行く時は、ゼークは大ハシャギで父に付いて行った。
ゼークはフェルグスとアルパスターの男の友情にも、羨ましさを感じていた。
実戦形式の訓練を終えると、必ず二人は「何があろうとも、戦場では戦わない」と誓い合っていた。
その友情の厚さに、ゼークは「自分も心から尊敬しあえる友人が欲しい」と願う程である。
この当時、アルスターの王であった【コンフォバル・マクロイヒ】は、贅の限りを尽くしていた。
しかし、フィアナ騎士団のおかげで、王室は普段と変わらぬ生活が出来ていた。
そのため、国境付近の民の事など忘れたかのような豪遊振りを隠そうとしなかったのである。
ベルヘイム国王も自らアルスター国内に足を運び、コンフォバル王を度々説得するが、毎回不発に終わっていた。
そんな状況では、国境付近の民から不満が爆発するのは、自然な流れであった……
この時、ムスペルヘイム側からアルスター国を攻めていたのはロキであった。
ロキはクロウ・クルワッハとは違い、占領した土地はより豊かに耕し、そこに住む人々はヨトゥン軍に占領された後の方が良い暮らしをしていた。
アルスター国の国境付近の住人は、ロキになら土地を任せても良いという考えが膨らんでいた。
そして、その思いはフィアナ騎士であり、王子のフェルグスに向けられる事になる。
フェルグスは必死に民衆を説得するが、国民の声を聞こうともしないコンフォバル王に、怒りは頂点に達しようとしていた。
「フェルグス様!このままじゃ我々は生活していけません!!家や畑を焼かれる者もいるのに、騎士様を支援しつつ、普通の税を払わなきゃいけない。戦争中だから我慢しなきゃいけないのも分かるが、その税で王が遊んでると思うと……」
フェルグスは国民の声を聞きながら、自らの父・現王のコンフォバルでは、国は守れても、国民は守れないという事を感じていた。
国民が守られなくては、もはや国ではなくなる。
フェルグスは何度も父・コンフォバル王に民の重要性を問いた。
しかし、その度に「騎士団を編成して守ってやっている」の姿勢を崩さなかった。
そして、ついに国民の不満が爆発する…




