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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
エピローグ
219/221

エピローグ1

「横から来るぞ! 回り込め!」


 オレの目の前にいる巨大なサソリが、その尻尾を撓らせながら側面から攻撃を仕掛けてくる。


 その攻撃をいつものように側転で躱し、その尻尾にバスタード・ソードを突き立ててから正面に立つ女性騎士に目配せした。


 その女性騎士は頷くと、自分の身の丈程の剣を振り下ろし、サソリの尻尾を根元から斬り落とす。


「手応え無いわね……こんなんで、私達は強くなっていてるのかしら?」


 女性騎士の視線の先では、攻撃手段の失った巨大サソリの頭に剣が突き立てられた瞬間だった。


「オレ達が強くなってるから、余裕で倒せてるんだろ? 昔なら、苦戦していたさ……」


 昔……おそらく、自分達も弱い時代があったのだろう。


 モンスターに倒された記憶なんて無いから、よっぽど昔の話なのだろうが……


「そろそろ、飯にしようぜ! もう暗くなってくるから、野営の準備もするぞ!」


 オレは、いつものように空を仰ぐ。


 空には赤みが増してきており、太陽が姿を隠そうとしている。


 いつものようにキャンプを設営して、焚火を作る。


 そして、先日倒したであろうモンスターの肉を焼く。


「しかし……いつも同じ肉を食ってるよな……そろそろ、町の方にでも戻ってみるか? 風呂にも入りたいし……」


「さんせい! いい加減、汗臭いのよねー。魔法の消臭じゃ、限界あるのよ」


 仲間同士のいつもの会話……一番、落ち着く時間だ。


 肉を炙って食べ、各々眠りにつく。


 何の為に戦っているのか……時々分からなくなる。


 まぁ……生きる為だろ……


 そう納得して、眠りについた。



「横から来るぞ! 回り込め!」


 オレは、その声で我に返る。


 オレの目の前に突然現れた巨大なサソリが、その尻尾を撓らせながら側面から攻撃を仕掛けてきた。


 しかし慌てる事なく、その攻撃を側転で躱し、その尻尾にバスタード・ソードを突き立ててから正面に立つ女性騎士に目配せする。


 その女性騎士は頷くと、自分の身の丈程の剣を振り下ろし、サソリの尻尾を根元から斬り落とした。


「手応え無いわね……こんなんで、私達は強くなっていてるのかしら?」


 いつも通りの戦闘、いつも通りの会話……


 女性騎士の視線の先では、もう1人の騎士が攻撃手段の失った巨大サソリの頭に剣が突き立てる瞬間だった。


「オレ達が強くなってるから、余裕で倒せてるんだろ? 昔なら、苦戦していたさ……」


 昔……本当に昔なんてあったのだろうか?


 モンスターに倒された記憶すら無く、実際に戦った記憶さえ欠落している。


「そろそろ、飯にしようぜ! もう暗くなってくるから、野営の準備もするぞ!」


 オレは、いつものルーティンのように空を仰ぐ。


 いつも見る空は、いつもと同じように赤みが増してきており、太陽が姿を隠そうとしている。


 その間にキャンプを設営して、焚火を作る光景も見慣れた。


 そして、同じ味のモンスターの肉を焼く。


「しかし……いつも同じ肉を食ってるよな……そろそろ、町の方にでも戻ってみるか? 風呂にも入りたいし……」


「さんせい! いい加減、汗臭いのよねー。魔法の消臭じゃ、限界あるのよ」


 仲間同士のいつもの会話……一番、落ち着く時間であり、この後に眠りにつく。


 何故か、今日は気になってしまう。


 同じ日をループしているような、不思議な感覚。


 昨日までは、何も感じる事は無かった。


 まぁ……気のせいだろう……


 既視感みたいなモノだ……


 そう思いながら、眠りにつく。


 そして、目が覚めた。


 ここは……どこだ?


 暗闇の中で手を伸ばすと、直ぐに天井に触れる。


 いや、何か箱のような物の中に入っているのだろうか……


 圧迫感の中で、恐怖に汗が流れる。


 ここは……どこだ?


 先程と同じ疑問が、頭を過ぎる。


 確かに仲間達と野営して、眠りについた筈だ。


 と……同時に、確実に思い出していく現実……


 そうだ……オレ達は、バーチャル・リアリティーの体験会に来ていた。


 ループしていた世界も、それなら納得がいく。


 だが……この静けさは……


 頭の中を渦巻く考えの答を示すように、箱の蓋が自然と開いていく。


 素早く起き上がったオレは……いや、素早く起き上がろうとしたが、身体が付いて来ない。


 重い……今まで、軽やかに戦っていたのが嘘のようだ……


 重い身体を引きずるように立ち上がったオレは、目を疑った。


 廃墟……そう呼ぶに相応しい光景が目の前に広がっている。


 賑やかだった筈のイベント会場には、誰一人いない。


 無数の箱……自分が横になっていた物と同じ、黒い箱が廃墟に並んでいるだけだ。


「何が……起きたんだ? いや、そんな事より……皆を起こさないと!」


 オレは近くの箱に近付いたが……その作業が簡単で無い事が直ぐに分かる。


 箱からは無数のコードが伸びており、箱の小窓から見える人の顔は、亡くなった人のように青ざめていた。


「コールド・スリープ……ただの体験会で、なんで?」


 ガガガガガガァ!


 突然の爆音に、オレは思わず飛び上がる。


 建物が揺れ、天井の一部が崩壊する……その瓦礫の1つが、数個の箱を押し潰した。


「空の箱だったのか? 血も出て来ないから、大丈夫……」


 パニックになりそうになる自分を落ち着かせようと、深呼吸する。


「生存者、1名確認! キミ、大丈夫?」


 破壊された隙間から、1機の巨大人型ロボットが入って来た。


 異常な光景だが、それよりも人の声が聞こえた事に安堵する。


 青い装甲を光らせる機体は、跪くと手を伸ばす。


「乗って! 時間が無い!」


 胸部のコクピットだろうか……開いた装甲からは、青い瞳の女性の姿が見える。


「……美、急……で! オリジナルである神装機を失……には……ないわ! そこ……危険……」


 途切れ途切れに、通信から流れる声が聞こえた。


 オレは伸びてきたロボットの手に乗ろうとするが、身体が動かない。


 一体どれだけの時間、バーチャル・リアリティーのシステムと繋がっていたのだろうか?


 筋力が完全に失われる程の時間である事は、容易に想像できた。


「だめ……間に合わない!」


 ドオオオォォォォン!


 女性の声と同時に、壁が破壊される爆音……そして、ロボットが5機……


 青いロボットは手を引くと、入って来た5機のロボットの脇を擦り抜けて外に飛び出す。


 自分には目もくれず、入って来たロボットは青いロボットを追って外に飛び出していった。


「なん……だったんだ?」


 突然の出来事に状況が全く理解出来ていないオレは、破られた壁の側に寄って行く。


 そして、外の風景を見て愕然とする。


 映画やアニメで見た事のある、滅びた世界がそのまま目の前にあった。


 倒壊したビル、押し潰された住宅、破壊された道路……


 オレは、膝から地面に崩れ落ちた。


 ロボットの戦闘で、世界が破壊されたのか?


 オレの視線の先で、青のロボットは水の様なモノでビームを吸収していた。


 すぐさま攻撃に転じた青いロボットは、ビームで1機倒すと囲みを突破し加速する。


 その時、風が吹いた。


 強い風……その風の勢いに、オレは目を閉じる。


 風が収まり、目を開けると青いロボットはいなかった。


 他のロボット達も撤退していく。


 後ろを振り向くと、瓦礫の間から赤い液体が流れていた……


 やはり、箱の中には人がいたのだ!


 冷凍されてた為か、出血までの時間が遅かったに過ぎない……


 オレは、絶望の中で叫んでいた。


 空には、7色のオーロラが輝いていた……


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