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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
Myth of The Wind
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次なる一歩

 炎の壁の前で、ティアは崩れ落ちていた。


 滴り落ちる涙が、炎で一瞬に蒸発していく。


 それでも、涙は止まる事を知らなかった。


「約束……したのに……優しい心のままで帰って来るって……約束……したのに……」


 焦点の合わない瞳で、独り言のようにブツブツと同じ言葉を繰り返す。


 そんなティアの横では、ルナが大声で泣いていた。


 そんな2人の周囲には、言葉すら発する事が出来ない航太達が炎の壁を見つめている。


 その中には、アクアを肩に乗せたフレイヤの姿もあった。


「フレイヤ様……ありがとうございました」


「いや……ミルティの言う通り、あの剣がエルフフォーシュ様の加護を受けた剣ならば、必ずバルドル様の力になってくれる筈だ。ガイエンが見せた力……あの力が本物なら……」


 周囲の人達に聞こえない声で話すと、アクアとフレイヤも消える事のない炎の壁に目を向ける。


「鳳凰天身……あれだけの力を使って得たモノって、いったい何だったんだよ? ゲームなら、ラスボス倒して世界が救われてるぐらいの力……戦闘だったんだぞ! それが……敵の武器をふっ飛ばしただけって……」


 突然、航太が沈黙を破り声を上げた。


「航太……一真の戦いが、本当に敵の武器をふっ飛ばしただけって思ってる?」


 炎がゼークの綺麗な銀髪を赤く染める……その姿から紡がれる言葉に、航太は何故か聞き入ってしまう。


「バロールとロキ……神級を相手に連戦させて、無理させすぎちゃったね……航太、今回の遠征軍は全滅する事が前提に編成されたって話、したよね? 一真は敵の武器をふっ飛ばしただけなんかじゃない……その心を犠牲にして、ここで死ぬ筈だった全ての人の世界を救ってくれたのよ。私も含めてね。一真がいなかったら、全滅してもバロールすら倒せてなかったかもしれない……」


 ベルヘイム遠征軍は、ヴァナディース姫……フレイヤを奪還する為に編成された部隊である。


 その部隊の多くはバロールの魔眼の餌食になる為の部隊であり、死んでも問題ない者達で編成されていると、確かに以前ゼークに聞いていた。


「航ちゃん……きっとゲームだと、勇者はラスボスを倒す為に力を使うんじゃない? 勇者が志半ばで倒れそうになったら、仲間達が身代わりになる。でも……私達の誰一人、身代わりになれる力すら無かった……」


 ゼークの言葉に被せるように、智美が口を開いた。


 智美の声には悔しさと……ゼークの言葉に甘えてしまいそうになる自分への戒めのようにも聞こえる。


「そう……だな。この怒りは、そう言う事なんだな……一真の事をサポート出来たって、ちょっと満足していた自分がいた。一真は次元が違うって、仕方ないって思っている自分がいた。だが……そうじゃない。戦う意味も信念も持ってない人間が、1つの命でも救いたいって戦っている奴に追いつける筈がない……世界と命を天秤にかけて、どんな未来を夢見て一真は戦っていたのかな……」


「カズちゃんは、答えなんて出せて無いんじゃない? ただ、ロキの思い描く未来に希望を見いだせなかった……だから、航ちゃんに託したんでしょ? んー、航ちゃんだけじゃないかー……私達全員に問い掛けているのかも? 自分で見て聞いて調べて……誰かに言われたからとか、皆がやってるからとかじゃなくて、自分の考えで判断しろって……」


 絵美の言葉を聞きながら、航太は考える。


 ヨトゥンが敵だと、なぜ思ったのだろう?


 ガイエンがヨトゥン兵を率いて、人間を虐殺しているのを見たからか?


 なら、ガイエンが人間の兵を率いてヨトゥンを虐殺していたなら、どうだったのだろう?


 最初に優しくしてもったのがヨトゥン兵だったとしたら……そのヨトゥン兵達が戦場で倒されていたら……


 ヨトゥン側に付いて、ゼーク達と戦っていたかもしれない。


「俺は……大切な人を守りたい。だが一真みたいに、全ての人を守ろうなんて思えない。そんな事は出来る筈ないって、心のどこかで思っちまう。それに、まだ実感が全く湧いてこねぇ……未来の地球に、宇宙人が襲来してくるなんて……」


「私も、全く実感ないよ。でも、環境破壊とかで地球の寿命が減ってるとかニュースで聞くじゃない? それも実感無かったよね。でもさ……カズちゃんやロキさんみたいに、環境破壊の問題とかでも必死に戦ってる人達っているんだろうね……私達は、そんな人達の気持ちも知らないで、平気でビニール使って、ガソリン使って……でもさ、カズちゃんから宿題を出された今なら分かる。誰も知らないけど、地球崩壊のカウントダウンは始まってる……私達は何を成さなきゃいけないのか、本気で考えないとね」


 航太の目を見ながら、智美が真剣な面持ちで誰に言う訳でもなく、ただ問い掛けた。


「ホントに……実感ない。でも、冗談であんな戦いする筈ない……ロキって人の創造する未来をカズちゃんが納得いかないなら、私達も調べようよ……一番多くの人が幸せになれる未来を……」


「そうだな! そして、同時に一真の心も取り戻す! 諦めたら、そこで終わりだ! 諦めるかよ……ぜってー、諦めねーぞ!」


 絵美の言葉に頷き、そして決意の篭った航太の声が、周囲に木霊していった……

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