宿命の戦い12
「一真の動きが……が変わった! これなら、やれる!」
「凄い! カズちゃん、本当に神様に勝っちゃうかも!」
地面に突き刺したエアの剣から放射状に流れ出す穏やかな風には、草薙剣・天叢雲剣・天沼矛から発する水の力も宿していた。
他人の為に力を使う者にだけ、涌き水のように無限の力を付加する神秘的な風……
その風は、一真に絶大な力を与えていた。
ただ、その姿を見て瞳に涙を溜める者の姿がある。
「ティア姉ちゃん、カズ兄ちゃんなら大丈夫だよ! だって、ヨトゥンの将軍からお母さんを助けてくれたし、あのバロールにだって私を守りながら倒したぐらい強いんだもん! それに、今は智姉ちゃん達が力を借してくれてる……だから、あんな神様もどきに負けないよ!」
涙を流すティアを元気付ける為に、ルナは大きな声で……満面の笑顔をティアに向けた。
「うん……一真は負けない……どんなに傷付いたって、必ず負けない……私達の事を守ってくれる……私達の事は……」
ティアは身体を震わせながら、ルナの小さな身体を抱いた。
自分の身体や心は犠牲にしても、絶対に守ってくれる……ただ、ティアは言葉に出来なかった……言葉にしてしまったら、抑えている感情が溢れ出てしまいそうで……
そう、ティアには直感で分かっていた。
エアの剣の発する風で復活した様に見えるのは、最後の力を纏めて放出しているに過ぎない。
戦いが終わったら、その代償を受けるのではないか……
ただ強くなれるなんて、そんな都合の良い話がある訳ない……
ならば祈るのは、一真が少しでも早く勝利する事。
その代償を、少しでも軽く終わらせる事……
その願いが届いたのか、グラムがロキの身体を捉える!
「ぐっ! うおぉぉぉぉ!」
袈裟斬りの如く、グラムがロキの右肩から左の腰まで斬り裂いた。
それでもロキはグングニールを手放さず、逆に雷を全方位に放つ。
「なりふり構わず……くそっ! 間に合え!」
撃ち落とされる雷に向かって、一真は光輝く鳳凰の翼を広げる。
戦場が光の翼に覆われて、落雷を防いだ……ように見えたが、翼の隙間から数発の雷が抜け、ベルヘイム騎士達に直撃した。
「もう……やめろっ! 人の命を奪う必要なんて無いだろ!」
「貴様は……甘いんだよ! この世界を全て無にしなければ、この星は救われない! 2つの世界を救う事は不可能なんだ! 非情になり、早く事を進めなければ手遅れになる!」
再び、グラムとグングニールが激突する。
「何故、片方の世界を絶滅させる必要がある? 確かに、神々のやろうとしている事は間違っているかもしれない。でも生物であれば誰だって、身の保身を考えてしまう事は仕方の無い事だ!」
「身の保身を考える神、その神に操られる人間……そんな奴らの為に、貴様の大切な人が暮らしていた世界は宇宙人に滅ぼされるんだぞ! 盾の様に時間稼ぎをさせられてな!」
ロキはグングニールで、グラムごと一真の身体を押し返す。
「科学と神器が1つになれば、宇宙人に抵抗出来る力を得られるかもしれん。その為には、神器を無限に精製出来るこの身体は必要だ。そして、宇宙人と繋がるヨトゥンは滅ぼさなければならん」
そのロキの言葉を、地上で目を見開いて聞いている者達がいた。
「おいおい……宇宙がどうとか、世界が滅びるとか、壮大な話を上でしているんだが……」
「この目の力なのかしら……カズちゃんとロキさんの会話は、確かに聞こえる……でも、これって……」
凰の目・皇の目を発動し、更にエアの剣から発する風の影響で、ロキと一真の会話は航太達3人にも聞こえていた。
「簡単に言うと、宇宙人が攻めてきて、地球が滅びる的な話をしてるんだよね? これ? ここ、ファンタジー世界でSFじゃないよね?」
パニックに陥っている絵美を見ても、突っ込む気にもなれない。
「よく分からねぇけど、ロキは俺達の世界を救って宇宙人の侵略に備えたいらしい……」
「で、カズちゃんは両方の世界を救いたいって事だね。話だけ聞いてると、カズちゃんに正義はありそうだけど……」
智美の言葉を聞きながら、航太は神話の世界の戦いを思い出していた。
なぜヨトゥンは神の世界に進攻を始めたのか?
なぜ人間は神の世界を守る為に戦っているのか?
なぜ神器が人間の世界に存在するのか?
「俺達は、この世界の事……何も知らないで、ただ戦ってたんだな……神や人間が正しくて、ヨトゥンが悪だと……ただ言われるがままに……」
「私はロキさんに捕まって、ヨトゥンも悪者ばかりじゃないって思った。この戦い、色々と裏がありそうね」
上空では、一真とロキが激突している。
その戦いを見上げた航太は、大きく息を吸う。
「今は……あの戦いを終わらせるのが先だ! そして、一真とロキに聞こう。この世界の事……宇宙からの侵略の事……」
「そうね。あの2人、戦う必要が無いのかもしれないし!」
そして、決着はつく。
右肩を斬られたロキは、グングニールを持つ力が弱くなっていた。
魔眼の力も付与された一真の一撃を受けたロキは、グングニールをついに弾き飛ばされる。
遥か遠くの森の中に落ちていくグングニールを見送って、ロキは笑った。
「バルドル……この戦い、貴様の勝ちだ。だが、目的を果たしたという事に関して言えば、私の勝ちだ。ビューレイスト!」
「はっ!」
突然、素早く動き出したヨルムンガンドはビューレイストを飲み込み、その長い身体を天高く伸ばしてロキの身体も飲み込んだ。
その素早い動きに、一瞬何が起きたか分からなかったアルパスター達だったが、我に返ると攻撃に転じる。
しかし、時すでに遅く、ヨルムンガンドの姿は大地に消えていった。
「くっ……後退するのも早い……たったの2人に、ここまでやられるのか……」
アルパスターが唇を噛んだのと同時に、一真の身体も地面に下りてきた。




