宿命の戦い10
「うおおおおぉぉ!」
一真の持つグラムがロキの操るグングニールと重なり、激しい金属音が波紋のように広がっていく。
「くそっ! オレは何の為に戦っているんだ? って、人間達を守る為だ……航兄や智美や絵美を……それって、誰だっけ? いや……ダメだ、まだ忘れる訳にはいかないんだ……まだ!」
鳳凰天身のまま戦い続ける一真は、少しずつ短期記憶が抜け始めていた。
記憶がぼやけては、また戻っていく。
しかし少しづつ……確実に記憶は削られていた。
「そろそろ、限界だろ? もう後戻り出来ないところまできている。この世界の人間は救えないが、それでも出来る限りの人は救ってやる。だから、早く楽になれ!」
グングニールの槍先から放たれた高密度の電撃が、一真の身体を貫いた。
「ぐはぁ!」
いつしか風の恩恵は消え、ロキの攻撃を防ぎきれなくなっていた一真の身体は傷だらけになっている。
「があぁぁぁ!」
それでも、一真は攻撃を仕掛け続けた。
そうしなければ、大地に雷が降り注ぐ……大切な人達の命が消える……
獣の咆哮のような奇声を発しながら剣を振る一真は、もはや元の人格すら失いかけていた。
ただ、本能で戦っているに過ぎない。
まるで、錆びた剣で叩きつけるような動きで剣を振り続けている。
「航ちゃん……カズちゃんの動き、少しおかしくない? まるで、力任せに剣を振るってるみたい……」
皇の目で一真の動きを追う智美の瞳は、その動きに違和感を感じた。
まだ慣れたとは言い難いが、それでも先程までとは見え方が違う。
一真とロキの高速の動きが目で追える……だからこそ、一真の戦い方が気になった。
「ああ……何だ、あの動きは……剣術もグラムの力も忘れちまった様な戦い方だ……くそっ! 待ってろ、パワーアップした力を届けてやるぜ!」
「航ちゃん、ちょい待ち! パワーアップした力をさっきと同じように届けても、あまり意味ないんじゃない? 今のカズちゃんの戦い方じゃ……」
地面にエアの剣を突き立てた航太の動きを、絵美が止める。
「私も……そう思う。カズちゃん……限界を超えて戦ってるんだよ。今なら分かる……この瞳が、身体を蝕んでいる……これの何倍もの力で、戦っているんだもん……」
「だったら、どうするってんだよ! その限界の負担を、少しでも減らしてやんねーと!」
エアの剣に力を込めて、赤い瞳で一真を見た航太は動きを止めた。
「違う……違うな……力が全てじゃねぇ……そう、言いたいのか?」
凰の目の力なのか、航太の勝手な思い込みなのか……しかし、航太には確かに聞こえた気がした。
力任せに剣を振る一真の、心の叫びの様なモノが……
力を込めていたエアの剣から一度手を離し、息を強く吐くと柔らかくエアの剣を握る。
「智美、絵美……分かった気がする! 一真には、一真に合った力の使い方がある筈だ……その力を……」
「そうね! 昔からカズちゃんの事を知っている私達にしか届けられない力を……」
智美はそう言って絵美を見ると、一真の姿を見上げながら大きく頷いていた。
「それだよ、それ! カズちゃんの本来の力は、敵を倒すモノじゃない! 皆を守ってる姿の方が、カズちゃんらしい!」
絵美の言葉を聞きながら、航太は瞳を閉じる。
力じゃない……柔らかく、心が安らぐような風を……
航太の想いをエアの剣が具現化していく。
戦場に穏やかな風が吹く……心が安らぐような……懐かしいような……いつか誰しもが感じた事のある柔らかな風が流れ始める。
その風は、ベルヘイム騎士達を先導して戦場を離れようとしているオルフェや、ビューレイストと対峙するアルパスター達にも届いた。
ゼークは、その風を受けた時に力が沸き上がる感覚を覚える。
激しい風じゃない……穏やかで柔らかい風なのに、心を奮い立たせる力強さも感じた。
「風のMyth Knightか……暫く見ないうちに、随分と力をつけたようだな……」
砂埃が晴れてくると、黄金の鎧を纏った凛々しい騎士が姿を現す。
「フェルグス? なんで?」
驚きを隠せないゼークは、隆起した大地の上からフェルグスの横に飛び降りた。
「空で戦っている騎士……彼は、私の母を救ってくれた。そして、私のゲッシュは……騎士道は、曲げる事を許されない。たとえ相手がロキ殿であろうと、ビューレイスト殿だとしてもだ!」
カラドボルグを構えゼークを一瞬だけ見たフェルグスは、再びビューレイストを視界に捉える。
「ゲッシュの遵守……ロキ様も認めている事だ。裏切りでは無いと信じているよ。だが、ロキ様の邪魔をするなら容赦はしないぞ!」
ビューレイストは、ダーインスレイブを鞘から引き抜いた……




