宿命の戦い8
「どうして……その剣で人を操れるなら、航ちゃんの言う通りロキさんを操って戦闘を止めさせちゃえば、戦いも終わるんじゃないの?」
首を横に振ったオルフェとフレイヤを見て、智美も訴える。
もはや、一刻の猶予も無い。
藁にも縋りたい程なのに、どうしてミュルグレスの力を使ってもらえないのか……
焦る航太達の方へ、ミュルグレスを持ったフレイヤが近付く。
「ミュルグレスは……と言うより神剣は、持ち主の力に大きく影響するの。私の力では、ロキの正体を暴く事が精一杯……人格を崩壊させて操るなんて、ロキと同等か、それ以上の力がないと不可能だわ」
「分かり易く言うと、アルパスター将軍のブリューナク……7国の騎士だったランティスト様は5本の閃光を操ったと言われているが、アルパスター将軍は3本しか扱えない。航太のエアの剣も、アスナ様が使っていた時は暴風を吹かせる事も、真空を作り出す事も出来たと言われている。神剣は、持ち主の力量に大きく影響するんだ。ロキを操るなら、少なくとも一真ぐらいの実力が無ければ……」
フレイヤの横まで歩いて来たオルフェは、航太に辛い現状を伝えなければならなかった。
「じゃあ……ビューレイストさんを操っちゃえば? ロキさんより、操り易いんじゃない? フレイヤさんの龍皇覚醒を使った力なら……」
「ビューレイストの実力も、かなり高い。人格崩壊させる為には、かなりの犠牲と時間が必要になるだろう……それまで、一真の心が持ち堪えられるかは……」
一真の心が、後どの程度の時間堪えられるか……数秒後か数分後か……とにかく、あまり時間が無い事は確かだ。
時間のかかる事をやっても、何にもならない。
「でも……何もしないより、何かしないと! このままカズちゃんを見捨てるなんて、出来ない! だってカズちゃんは、私達を見捨てれば助かるんだよ……逃げだそうと思えば、直ぐにでも逃げ出せるのに……」
そう……一真は逃げられる。
だが逃げたら、この場にいる者は全て殺されるだろう……
いや……逃げた一真を呼び戻す為に、残虐に少しずつ殺されていくかもしれない……
一真は、自分の為に戦っている訳じゃない……
一真の事を大切に思っている人は勿論、自分を虐げて来た者や、罵声を浴びせて来た者……そんな人達も、守ろうとしている。
絵美の言う通り、そんな義弟を見捨てる訳にはいかない。
ガァァァァァァ!
空では、稲妻……電撃が激しく絡み合い、大気を劈く程の爆音が、一真の心を蝕む音にも聞こえた。
「くそっ! 何か……何か出来る事は無いのかよ! 今のままじゃ、いずれ一真の心が壊れて終わっちまう!」
一真に風を送り続けても、ロキを倒す力にはならない。
一真の心が失われる時間を延ばしているに過ぎない……航太は、自分の行動が無意味なモノに感じてきた。
「航太……私に1つだけ考えがある。だが……危険な賭けでもある。この場にいる全ての鳳凰、龍皇の力を使う覚悟が……な」
「フレイヤさんとテューネの力を使うってのか? フレイヤさんは力を使いこなせているが、テューネは……」
先程の苦しみ方を見た直後に、さすがにテューネに龍皇覚醒をしてくれとは言い難い。
そもそも大地を砕くデュランダルの力は、空での戦闘には向いていないのは明白だ。
「2人の力も借りるが、お前達3人の力もだ。どこまでやれるか……いや、どれだけ力を保てるか……だが」
「って、オルフェさん……どういう事? 私達にも、鳳凰や龍皇の力が宿ってるって……」
半信半疑で聞く智美に、オルフェは頷く。
「ガヌロンがバロールに聞いたらしい……真実は分からんが、その力が使えれば、一真のサポートにはなる筈だ。ミュルグレスによる潜在能力の解放……だが、一歩間違えれば……」
「いや……その手があった! オレに鳳凰の力があろうが無かろうが、能力を最大まで解放出来れば、今より一真に力を与えられる! フレイヤさん、やってくれ!」
フレイヤは静かに頷くと、軽くミュルグレスを振った。
航太の身体が一瞬だけ光り、瞳が赤く変色する。
「な……んだ?」
突然、身体にブラックホールが出来て、その中に強制的に吸い込まれて行くような感覚……
身体ではなく、中身が吸い込まれていく恐怖……
抗おうとしても、とても抗えない程の強制力……
跪く航太を見たフレイヤは、直ぐにミュルグレスの力を解いた。
「今のが、凰の目……その恐怖に抗っている間、力を使う事が出来る。どう?」
「どう? って……こんなの、どうやって抗えばいいんだよ? こんな恐怖の中、どうやって戦えば……」
航太は、そう言いながら一真の戦いを見上げる。
「私はノアの始祖……神の力で、恐怖は薄い。でも、だから壁を突き抜けられない。バルドル様は人間に身を堕とした事で、鳳凰天身を身につけられた。バルドル様は世界の平和を考えていられるのでは無く、1人1人の世界を尊く感じられている。どんなに世界を救っても、その戦いで死んでしまった人の世界は、そこで終わってしまう。それでは、意味が無いと……だから、ロキに反抗しているのです。私も生きている者として、その考えに賛同したい……」
「フレイヤさん……分かってんだ……だが、震えが止まらねぇ……どうしたら一真程の覚悟が出来るのか……」
フラフラと立ち上がり歩いて来たテューネが、言葉すら震えている航太の肩を抱いた。
「航太様、私も一真様程の覚悟は無いです。でも、ランカスト様とソフィーア様が支えてくれている。航太様にも、支えてくれる人達がいるでしょ?」
テューネはそう言うと、智美と絵美を見て笑う。
「はぁ……私達が航ちゃんを支える訳? 嫌だなぁ……」
「ってか、航ちゃんが鳳の目を持ってるって事は、私達も皇の目が使える可能性が高いんでしょ? 面倒見きれないよー。男って、偉そうにしてて肝心なトコがダメダメだから嫌になっちゃう!」
そう言いながらも、智美と絵美は航太の横に歩み寄った……




