表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
Myth of The Wind
210/221

宿命の戦い7

 フレイヤの背中から水の翼が生え、その力がミュルグレスへ注がれていく。


「ロキの姿が晒されたら、全軍に後退命令を出す! 航太達は、引き続き一真をフォローしてくれ! ロキが簡単に逃す筈がないからな!」


 航太が頷いた事を確認し、オルフェは再びベルヘイム騎士達の元へ馬を走らせる。


「みんな、カズちゃんの為に必死に動いてくれてるんだ……私達も、もう一踏ん張り頑張らないとねー」


 絵美の言葉が終わらぬうちに、ミュルグレスの力がオーディンの姿をしたロキに注がれていく。


 程なくして、オーディンの姿の皮が剥がれ、ロキの姿が現れた。


「ほう……ミュルグレスを引っ張り出して来たか。だが、一歩遅かったかな? そろそろ、後戻り出来ぬだろう?」


「それは……どうかな? まだ理性は保てているし、色んな人達の思いが力をくれている。まだ……倒れる訳にはいかない! それに、追い詰められているのは、あなたの方だろ?」


 一真は無意識に、胸の辺りで赤く輝くペンダント……ファブニールの涙を握り締める。


 そんな一真の姿を見ながら、ロキは首を横に振った。


「残念だがな……仲間がいるのは、私も同じだ。使命を持つ者同士……その傍らに、仲間がいるのは当然だ」


 眼下ではオーディンの姿が急にロキの姿に変わり、混乱するベルヘイム騎士達の姿が見える。


 混乱する騎士達をオルフェとアルパスターが中心となって、収束に努めていた。


「私の行いをただ黙って見ていてくれれば、この戦いは必要ないのだがな……だが、貴様が引かないのなら仕方ない。この大地が、血で染まるぞ……」


 見た目はロキの姿に戻っているが、身体の組織はオーディンのままである為、まだグングニールは扱える。


 ロキは、グングニールで発生させた雷を誰もいない大地に1度落とす。


「ベルヘイム騎士達の退路を切ろうとしても、無駄だ! 狙った場所に雷は落とさせない! まだ、その程度の力は残っている!」


 一真は高速の動きでグラムを振り下ろし、グングニールと鍔競り合いの状態になる。


「残念だが、もう終わっている。私としても、ビューレイストに頼りたくは無かったのだがな……」


「何を……ベルヘイム騎士達は、後退を始めている! この戦いも、もう終わりだ!」


 一真は後退していくベルヘイム騎士達を見ながら、鳳凰天身を解こうとした。


 が……


 ドオオオォォォン!


 後退していくベルヘイム騎士達の前方に、巨大な蛇が突然現れた。


 シャアァァァァァア!


 大地をも飲み込むのではないかと思わせる程の大蛇は、その巨大な口から紫色の霧……水蒸気の様なモノを吐き出す。


「きゃあああ!」


 ベルヘイム騎士達を先導するように隊の最前線にいたテューネと、その脇を走っていたベルヘイム騎士達が、紫の霧に包まれた。


 霧が晴れると、その中に入ってしまった者は身体中が紫色に変色し、その場に倒れていく。


「下がれ! 一度、その蛇から距離をとるんだ!」


 アルパスターは全軍に指示を出し、その脇をオルフェが駆け抜ける。


 キシャアァァ!


 大蛇に向かって走るオルフェは、その図体に似合わず高速で繰り出される攻撃を躱し、オートクレールで一太刀入れた。


 掠り傷程度だが、大蛇の気を逸らすには充分である。


 その隙に、オルフェは綺麗な白い肌を紫色に変色させたテューネを拾い上げると、アルパスターの元まで素早く後退した。


「テューネ! 皇の目で、ノアの治癒能力を最大で使うんだ! 死ぬんじゃないぞ!」


 呼吸が荒くなり、オルフェの言葉に応える事すら出来ないテューネであったが、その瞳は青くなっていく。


「この化け物は……一体何だ?」


「ロキにより生み出された化け物……そして、ビューレイストの操り人形の大蛇……ヨルムンガンド……」


 歯軋りしながら大蛇を見るアルパスターに、フレイヤが答えた。


 その大蛇の傍らに、1人の男が姿を現す。


「オルフェ将軍……ご無沙汰しております。我がヨルムンガンドに一太刀入れ、仲間を救出するとは……流石ですね。この私と、互角に戦えるだけの事はある」


「ビューレイスト……」


 オートクレールを構えてビューレイストを睨むオルフェだが、今は戦える状態で無い事は分かっていた。


 全軍でビューレイストとヨルムンガンドに挑んだところで、大勢の犠牲者を出すだけで状況は変わらない。


 ベルヘイム騎士とスラハトの住人達の命を救う為に、懸命にロキと戦っている一真の思いも無にする事になる。


「私は、あなた方と戦うつもりは無い。ただ、この場に留まってくれていれば良いのです。この先に行こうとしなければ、ヨルムンガンドにも手はださせませんよ」


 ビューレイストの顔には、余裕の表情が浮かんでいた。


 そう……ロキ陣営としては、一真の心さえ破壊出来ればいい。


 その間、人質を逃がさなければいいのだから……


「オルフェ、とりあえずノアの娘を救う。ミュルグレスならば、その娘の潜在能力を引き出せる」


 オルフェの前で倒れるテューネの傍らに立ったフレイヤは、ミュルグレスを振った。


 テューネの身体が一瞬光り、その背中から水の翼が出現する。


「ぎゃあぁぁぁああぁぁぁぁぁ!」


 水の翼が生えた瞬間、テューネは叫び、大地をのたうち回った。


 ノアの治癒能力で、身体の毒素は一瞬で体内から消え失せた……が、テューネの悶絶は続く。


 毒素が消えた事を確認したフレイヤはミュルグレスをもう一度振って、その効果を中断した。


 水の翼が消えたテューネだったが、肩で息をして、とても立ち上がれる状態ではない程に疲弊してしまう。


「ちょっ……航ちゃん……今の……」


「ああ……龍皇覚醒ってヤツだな……あの一瞬で、テューネの体力を根こそぎ持ってった感じだったぞ……」


 顔が青ざめた絵美は、航太の言葉で瞳に涙を溜め始めた。


「今のカズちゃんの身体って……どうなってるの? もう……もう止めなきゃ……天身って、覚醒の何倍もの負荷がかかるって……」


 智美の声も、震えている。


 一真もフレイヤも、自然に覚醒の翼を使っていた。


 だから、心を失うとか言われていても、実際は大丈夫だろうと心のどこかで思っていた……なんとかなるのだろうと……


 しかし、今のテューネの姿を見てしまうと、そんな思いはどこかに飛んで行ってしまった。


 目を逸らしていた現実が、突然、突き付けられた……


「そうだ……オルフェ将軍! そのミュルグレスって剣で、ロキの人格を崩壊させて操っちまえば早い! フレイヤさん、頼む!」


 叫んだ航太の視線の先で、2人は同時に首を横に振った……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ