表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
Myth of The Wind
207/221

宿命の戦い4

 鳳凰天身で戦っている一真は、自らの記憶が少しずつだが失っている感覚を自覚していた。


 それでも、鳳凰天身を解く訳にはいかない……隙が出来れば、そのタイミングを逃すロキではない。


 大地を穿つ雷を発生させるだろう……そうすれば、それだけで何十人もの命が消える事になる。


 雷を撃たせる隙を与えない……オーディンと化したロキを相手に、それだけの連撃を繰り出す為には、鳳凰天身を使い続けるしかなかった。


「くそっ! このままじゃ……オレの心が折れる前に、倒しきれない……」


「不死身の者同士が戦い続ければ、終わりは無い。だが、一方が時間制限付きの力であれば、話は別だ。その力を使い続ける限り、私に貴様の刃が届く事はない!」


 グラムとグングニールが、激しい火花を散らしながら交錯する。


 鳳凰天身した一真と、オーディンと化したロキ……


 力は、互角だった。


 人間の身でありながら、神の頂点に立つオーディンと互角……どんな力を使っていたとしても、本来なら有り得ない状況である。


 仮に限界を超えた力を使ったとしても、人間が神に抗える筈がない。


 しかし一真は、それだけの力を使っている。


 人間の身体が悲鳴を上げるのは、当然と言えば当然だ。


 自分の身体が限界を迎える前に、地上にいる人々がオーディンの雷の射程外に出て欲しい……そう願っても、神話の世界の人々は神に逆らう一真を執拗に攻撃し、その場を離れようとはしてくれない。


(苦戦しているなぁ……力を貸してやろうか?)


 頭に直接響いてきた声に驚き、一真はグングニールの一撃をグラムでまともに受け止めてしまう。


「しまった! また雷を落とされる!」


 間合いの開いた為に、グングニールの槍先に力を蓄える余裕を作ってしまう。


 脳に直接響いたような声を掻き消すように一真は頭を振ると、力を溜めたグングニールを弾こうとする。


「遅いなっ! 絶望を味わいながら、暗闇に堕ちて行け!」


「くっ!」


 間に合わない……そう思った一真の目の前が、突然闇に包まれる……いや、知覚だけが暗闇に迷い込んだ感覚……


(儂と契約しろ……さすれば、ロキを打ち倒す力を授けるぞ。凰の目はヨトゥンの力だ……もう1つ増えたところで、問題なかろぅ?)


 そして再び、脳に直接流れ込んでくる声……


「今、この場の全ての人間を守れるなら……救うと約束するなら、契約してやる! 魔眼よ、ロキを倒せ!」


 その叫び声と共に、一真の額から第3の瞳が開く。


 魔眼から発する圧力が、ロキの動きを一瞬だけ封じる。


「うおおおぉぉぉ!」


 一瞬で充分……閃光と化した一真の動きは、雷を放つ前にグングニールを弾き飛ばす。


「魔眼……だと? 成る程……形振り構ってはいれん、と言う事か……しかしバロールの奴、そこまでサタンに忠誠を誓っているとはな……」


 ロキは空中でグングニールをキャッチすると、魔眼の開いた一真を見る。


「鳳凰の翼に、第3の瞳か……ますます悪魔の様になってきたな。光の神の面影すらない。そこまでして、守る価値があるのか? この世界の人間は? 聖杯の力に捕われ、自分の意思も無く神に忠誠を誓う愚かな人間共に……神の保身の為に楯となる人間は、これからの戦いに必要ない。この世界そのものが、これからの戦いには邪魔なのだ!」


「そんな事は無い! この世界にだって、自分の意志で闘おうとしている人はいる! 聖杯の力に抗って、自分達で考えて行動している人達もいる! 絶望するのは、まだ早い!」


 ゼークとテューネが航太達と戦うのを止め、ティアが主神に逆らっている一真の心配をしている……魔眼を得た事で、一真には様々な情報が手に取るように分かった。


 だからこそ、一真は信じられる……この世界の人達を……


 宇宙から来る侵略者が、神剣を搾取しに来る未来は必ず訪れるのだろう……


 そして神々は、その侵略に備えて盾の様に人間の世界を配置している……


 なぜ神は、元の世界を捨てて異世界を造ったのか……


 アースガルズという、世界の果てに引っ込んでいるのか……


 中央の囲いと呼ばれるミッドガルドと、自分達が元いた世界……文明が発達した世界と行き来出来るようにしているのか……


 ロキが知った真実……それは、来るべき侵略に備えた神々の策略……


 地球が侵略される時、表に出ている文明が発達している世界が、最初に攻撃に晒されるだろう……


 表の世界が侵略された時、必ず裏の世界の存在に気付く。


 侵略の目的は神器なのだから、その目的の為に探し回る筈……そして、裏の世界……神話の世界まで侵略して来た時……ミッドガルドごと、表の世界を吹き飛ばす……


 侵略者は全滅し、死ぬのは人間のみ……そして、ヨトゥンヘイムで生きているヨトゥンを使って、失われた世界を再構築する……


 この計画を知った時、ロキは震えた。


 そして、神々と戦う事を決意する。


 救うべきは神ではない……自立した人々だと……


 神と、神に強制的に従わされてる人間は必要ない……


 表の世界の人々が必死で戦っている中、裏では普通に生活している人がいると知ったら、どうなるか?


 もはや、戦いどころでは無くなってしまう。


「分かっているのか? 貴様が暮らしていた世界が滅ぶかもしれんのだぞ? それを救ってやろうと言っているのに、まだ逆らうか!」


「それでも、まだ変われる筈だ! この世界の人達も、神達も馬鹿じゃない! 諦める前に、まだ……やれる事があるはずだ!」


 グラムとグングニールが、再び激突する。


「なっ……私が……圧されている?」


 そう……一真の背後から、その翼を後押しするように、凄まじい風が吹いて来ていた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ