宿命の戦い4
鳳凰天身で戦っている一真は、自らの記憶が少しずつだが失っている感覚を自覚していた。
それでも、鳳凰天身を解く訳にはいかない……隙が出来れば、そのタイミングを逃すロキではない。
大地を穿つ雷を発生させるだろう……そうすれば、それだけで何十人もの命が消える事になる。
雷を撃たせる隙を与えない……オーディンと化したロキを相手に、それだけの連撃を繰り出す為には、鳳凰天身を使い続けるしかなかった。
「くそっ! このままじゃ……オレの心が折れる前に、倒しきれない……」
「不死身の者同士が戦い続ければ、終わりは無い。だが、一方が時間制限付きの力であれば、話は別だ。その力を使い続ける限り、私に貴様の刃が届く事はない!」
グラムとグングニールが、激しい火花を散らしながら交錯する。
鳳凰天身した一真と、オーディンと化したロキ……
力は、互角だった。
人間の身でありながら、神の頂点に立つオーディンと互角……どんな力を使っていたとしても、本来なら有り得ない状況である。
仮に限界を超えた力を使ったとしても、人間が神に抗える筈がない。
しかし一真は、それだけの力を使っている。
人間の身体が悲鳴を上げるのは、当然と言えば当然だ。
自分の身体が限界を迎える前に、地上にいる人々がオーディンの雷の射程外に出て欲しい……そう願っても、神話の世界の人々は神に逆らう一真を執拗に攻撃し、その場を離れようとはしてくれない。
(苦戦しているなぁ……力を貸してやろうか?)
頭に直接響いてきた声に驚き、一真はグングニールの一撃をグラムでまともに受け止めてしまう。
「しまった! また雷を落とされる!」
間合いの開いた為に、グングニールの槍先に力を蓄える余裕を作ってしまう。
脳に直接響いたような声を掻き消すように一真は頭を振ると、力を溜めたグングニールを弾こうとする。
「遅いなっ! 絶望を味わいながら、暗闇に堕ちて行け!」
「くっ!」
間に合わない……そう思った一真の目の前が、突然闇に包まれる……いや、知覚だけが暗闇に迷い込んだ感覚……
(儂と契約しろ……さすれば、ロキを打ち倒す力を授けるぞ。凰の目はヨトゥンの力だ……もう1つ増えたところで、問題なかろぅ?)
そして再び、脳に直接流れ込んでくる声……
「今、この場の全ての人間を守れるなら……救うと約束するなら、契約してやる! 魔眼よ、ロキを倒せ!」
その叫び声と共に、一真の額から第3の瞳が開く。
魔眼から発する圧力が、ロキの動きを一瞬だけ封じる。
「うおおおぉぉぉ!」
一瞬で充分……閃光と化した一真の動きは、雷を放つ前にグングニールを弾き飛ばす。
「魔眼……だと? 成る程……形振り構ってはいれん、と言う事か……しかしバロールの奴、そこまでサタンに忠誠を誓っているとはな……」
ロキは空中でグングニールをキャッチすると、魔眼の開いた一真を見る。
「鳳凰の翼に、第3の瞳か……ますます悪魔の様になってきたな。光の神の面影すらない。そこまでして、守る価値があるのか? この世界の人間は? 聖杯の力に捕われ、自分の意思も無く神に忠誠を誓う愚かな人間共に……神の保身の為に楯となる人間は、これからの戦いに必要ない。この世界そのものが、これからの戦いには邪魔なのだ!」
「そんな事は無い! この世界にだって、自分の意志で闘おうとしている人はいる! 聖杯の力に抗って、自分達で考えて行動している人達もいる! 絶望するのは、まだ早い!」
ゼークとテューネが航太達と戦うのを止め、ティアが主神に逆らっている一真の心配をしている……魔眼を得た事で、一真には様々な情報が手に取るように分かった。
だからこそ、一真は信じられる……この世界の人達を……
宇宙から来る侵略者が、神剣を搾取しに来る未来は必ず訪れるのだろう……
そして神々は、その侵略に備えて盾の様に人間の世界を配置している……
なぜ神は、元の世界を捨てて異世界を造ったのか……
アースガルズという、世界の果てに引っ込んでいるのか……
中央の囲いと呼ばれるミッドガルドと、自分達が元いた世界……文明が発達した世界と行き来出来るようにしているのか……
ロキが知った真実……それは、来るべき侵略に備えた神々の策略……
地球が侵略される時、表に出ている文明が発達している世界が、最初に攻撃に晒されるだろう……
表の世界が侵略された時、必ず裏の世界の存在に気付く。
侵略の目的は神器なのだから、その目的の為に探し回る筈……そして、裏の世界……神話の世界まで侵略して来た時……ミッドガルドごと、表の世界を吹き飛ばす……
侵略者は全滅し、死ぬのは人間のみ……そして、ヨトゥンヘイムで生きているヨトゥンを使って、失われた世界を再構築する……
この計画を知った時、ロキは震えた。
そして、神々と戦う事を決意する。
救うべきは神ではない……自立した人々だと……
神と、神に強制的に従わされてる人間は必要ない……
表の世界の人々が必死で戦っている中、裏では普通に生活している人がいると知ったら、どうなるか?
もはや、戦いどころでは無くなってしまう。
「分かっているのか? 貴様が暮らしていた世界が滅ぶかもしれんのだぞ? それを救ってやろうと言っているのに、まだ逆らうか!」
「それでも、まだ変われる筈だ! この世界の人達も、神達も馬鹿じゃない! 諦める前に、まだ……やれる事があるはずだ!」
グラムとグングニールが、再び激突する。
「なっ……私が……圧されている?」
そう……一真の背後から、その翼を後押しするように、凄まじい風が吹いて来ていた……




