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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
コナハト攻城戦
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凰翼10

「ちっ、このオレが力負けしている? 女の細腕だが、流石は神ってトコか。だが、対ヨトゥンを想定して磨き上げてきた赤枝の力は、力だけじゃ崩せないぜ!」


 フレイヤの振り回すクレイモアのパワーは、男で……更に筋肉質で太い腕を持つガイエンですら止める事は出来ない。


 クレイモアとヘルギが激しく火花を散らす度に、ガイエンの身体は後退させられていた。


 これまでのガイエンであれば、女性に力負けする事などプライドが許さずに、正面から突っ込んでいただろう。


 しかし、今のガイエンは違う……力で負けている事を受け入れ、戦い方を変化させる事が出来る。


 クレイモアとヘルギが再び交わるが、今度は火花が散るような激突は無い。


 クレイモアの力をヘルギの腹で柔らかく往なし、相手の体勢を崩す。


 そしてヘルギに頼らず、体術を駆使してフレイヤに攻撃を仕掛ける。


「ガイエン兄ちゃん……凄い……まるで踊ってるみたい……」


「赤枝の騎士の剣術は、剣舞とも言われていたニャ……防御から攻撃に移るまでにロスがニャい……ここまで、赤枝の剣術を会得してるニャンて……」


 ルナとアクアが、揃って驚きの声を上げた。


 直線的なガイエンの戦い方しか見てこなかった為でもあるが、どちらかと言うと踊るように戦っている姿の方が違和感が無い事に驚いた。


 ヨトゥンの剣術を使いながらも、赤枝の剣術も磨いていたのだろう……


「くっ……ガイエン、こんな戦い方も出来るなんて……」


「親父は……オレの中では、ずっとヒーローだったんだよ! その親父から教わってた剣だ……磨いてない訳ないだろっ!」


 ガイエンの動きに圧され始めたフレイヤは、たまらずに後ろへ跳んだ。


 間合いが開いた為、ガイエンは動きを止めて呼吸を整える。


「皮肉なモンだな……ヨトゥンに騙されてたオレが目を覚まし、今度はバロールの幻術に囚われている奴と戦ってる……だが、フレイヤはオレとは違う。魔眼の影響が薄れたら元に戻るんだ。それまでは、付き合ってもらうぜ!」


「私は、あなたに付き合うつもりはないわ……大切な夫を助けに行く! 私の幸せの邪魔をするなら、容赦はしない! そこをどいてっ!」


 大地を蹴って加速したフレイヤは、再びガイエンの間合いに飛び込んだ。


「だから、どかねーって! 戦いが終わったら色々と説明してやっから、少しの間大人しく寝てろっ!」


 ガイエンの声に応えるように、ヘルギが赤く輝いていく。


 そして赤い光がガイエンの軌跡を辿り、剣舞に彩りを加え始めた。


 ヘルギの恐怖の力は、ヴァン神族であるフレイヤには効果的ではない。


 それでも、多少でも影響があるのなら……効果があるのなら……ガイエンは力を振り絞っていた。


「神に逆らう人間め……退かないのなら、容赦しないわよ!」


 ガイエンを難敵と認めたフレイヤもまた、力を解放する。


 瞳が青く染め上げられ、綺麗で長い金髪の奥に隠された背中から、水の翼が生えていく。


「龍皇覚醒……フレイヤ様も本気ニャ! ガイエン、気をつけるニャ!」


「化け猫、ここまでは狙い通りだっ! 龍皇覚醒すりゃ、幻術の影響から解放される時間が短くなる筈だ!」


 ガァキィイ!


 ガイエンの言葉が終わらぬうちに、フレイヤの高速の打ち込みがガイエンを襲い、ヘルギとクレイモアがぶつかり合う。


「ぐっ! このスピードとパワー……やべぇ!」


 往なす事すら出来ず、剣と剣が交わる度にガイエンの身体が後ろに下がる。


「だが、ここで引けるかよ……龍皇覚醒した奴がバロールの援護に入ったら、均衡が崩れちまう……どんなにキツくても、オレが食い止めるんだ……」


 ガイエンは呟くと、ヘルギに自らの力を注ぎ込む。


「うおおおぉぉ!」


 ガイエンは吠えた……目も眩むようなスピードで襲い掛かるクレイモアの閃光の如き一撃を狙い、気迫で受け流した。


「一真の邪魔はさせねぇ……奴は、自分の心を犠牲にする覚悟で戦ってんだ! だったらオレは、命を賭けて戦うぜ!」


 ガイエンの覚悟に、ヘルギの赤き輝きが増す!


「人間の分際で……いい加減に、道を開けなさい!」


 フレイヤもバロールを救おうと、必死でガイエンに挑みかかる。


 この日、数えきれない程ぶつかりあってきたクレイモアとヘルギ……


 だが……2人の渾身の一撃を宿した力は、これまでと違う結末を見せる。


 クレイモアと重なった瞬間ヘルギの赤い輝きが更に増し、暴風の様に荒ぶる風がフレイヤに襲い掛かった。


「なっ……龍皇覚醒した私が……押し負ける……」


 荒ぶる風が、水の翼を持つフレイヤの身体を持ち上げ……そして、城の壁に叩きつける。


「がはっ!」


 城の壁にヒビが入る程に叩き付けられたフレイヤの身体は、力なく床に転がった。


 ガイエンもまた、力を全てヘルギに注ぎ込んだ為に、立っているのも辛い状態である。


「これで駄目なら、もう打つ手なしだぜ……」


 呟くガイエンの視線の先で、フレイヤはクレイモアを杖の様に支えにして、立ち上がろうと動き出していた。


「まじかよ……水の翼は消えちゃいるが……」


 大きく息を吐いたガイエンは、力無くヘルギを構える。


 構えたはいいが、もう戦える気がしない。


 フレイヤが攻撃を仕掛けてきたら、なんとか躱して時間を稼ぐしかない……覚悟したガイエンだったが、フレイヤは動き出さないでいる。


「私は……一体、何をしているの? ここは……」


 そんなフレイヤの反応を見て、ガイエンの身体は膝から地面に崩れ落ちた。


「間一髪……まじでヤバかったぜ……だが、後は一真がバロールに勝ってくれれりゃ、この戦いは勝利だ」


 ガイエンの言葉が終わるか終わらないか……その時、閃光の槍が城の壁を貫いてきた……

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