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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
コナハト攻城戦
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凰翼2

 スラハトの町が燃える炎が、バロールの部屋を赤く染めている


 炎の赤を映し出す壁が揺らめき、一真とバロール……対峙する2人の顔を仄かに赤く……黒く……交互に色付かせていく。


 ゴゥゴゥゴゥ……


 パチパチパチ……


 緊張感漂う静寂の中、スラハトの町を燃やす炎の音だけが部屋の中を支配する。


 2人は微動だにせず、音も立てずに向かい合っていた。


 凰の目と魔眼……


 その力は、拮抗している……


 一真はグラムを構え直すと、フゥっと息を吐いた。


 立ってるだけで、自然と汗が吹き出していく。


 まるでサウナの中のように、息苦しく感じた。


 一真は顔の汗を上腕で拭うと、凰の目に力を込める。


「さて……ジッとしていても、何も始まらんからのぅ……」


 呟いたバロールは、魔眼の力を発動させて一真を見た。


「ん……これが魔眼の力か……まるで重力が倍になったようだ……けど、動けない程じゃない!」


 魔眼の力に晒されていても、凰の目を発動させている一真の動きは早い。


 バロールとの距離を一瞬で詰めると、その頭にグラムを叩きつける。


 ガキィィィィ!


 金属同士が擦れ合う、激しい音が部屋中に響き渡った。


 一真が繰り出した高速の一撃を、バロールは簡単に受け止める。


「ふむ……魔眼の影響を受けていても、このスピードで打ち込んでくるかの……ただの自信過剰では無さそうじゃな。後は、お互いの隠している力の深さが明暗を分けそうじゃ……」


 口角を少し上げ、バロールは楽しんでいるかのように少し笑う。


 一真が凰の目を見せた時の焦った表情は、バロールから消え失せている。


「7国の騎士と……アスナと戦った事があるなら、オレの切り札は知っている筈だ。それで、余裕があるのか……」


「さて、どうかのぅ……隠している力が、アスナと同じとは限らんしのぅ……結構、期待しておるぞ」


 そう言うと、バロールは魔眼の力で炎を発生させた。


 その炎が地を這いながら、一真に襲い掛かる。


「今度は、グラムの力を見定める気か?」


 グラムを振ると土の壁が一瞬で立ち上り、一真を護るかのように炎の攻撃を食い止めた。


 そして土の壁に丸い穴が開いた瞬間、その穴から閃光の如き雷が発生しバロールを襲う!


「神器を使い熟せるのは、凰の目を持っていれば当然じゃ。そして、力も申し分無いがの……」


 バロールは余裕を持って自らの周囲に雷を張り巡らせ、一真の放った雷を相殺した。


 雷が激突し、激しい雷鳴が轟く!


「くそっ! この程度じゃ、ダメージも与えられないかっ!」


「そんなに悲観する事もなかろぅ? 既に、アスナが鳳凰覚醒している時と同等の力は感じるからのぅ……人間にしては、充分過ぎる力じゃ」


 鳳凰覚醒か……


 一真は大きく息を吐くと、グラムを構え直す。


「まだ切り札は使わんか……鳳凰覚醒は、その代償が大きいからのぅ……しかし出し惜しみをしていたら、儂には勝てんぞ?」


「そうかもね……でも、まだその時じゃない!」


 一真はグラムを握り直すと、紅い瞳でバロールを強く睨む。


「むっ……何と言う剣気……じゃがな……」


 普通の人間ならば、身体が震えて倒れているだろう……それ程の圧力のある剣気をぶつけても、バロールは平然としている。


 そして、炎に包まれたグラムで斬りかかった一真の攻撃を難無く躱す。


 グラムから放たれた炎と剣圧はバロールの直ぐ横を通り抜け、コナハト城の壁に亀裂を走らせる。


「火、土、雷……神剣としての能力は充分じゃ。じゃが、ソード・オブ・ヴィクトリーの時は風の力も使えたもんじゃ。まぁ、儂が魔眼の力で能力を半分にしたんじゃが、風の能力とグラムの3つの能力に分かれた。これが、どういう意味か分かるじゃろ? グラムに付加されている火・土・雷を操る力は、風を操る力より1つ1つは劣るんじゃ。儂に致命傷を与えるには、力不足かもしれんのぅ……」


 そう言うと、バロールは2つの魔眼で一真を見た。


「ぐっ……2つの魔眼で、この威力……3つ目の魔眼が切り札って訳か……けど、切り札を使うのを待ってあげる必要も無い! 力不足と侮ったグラムの力、その身に受けてみろっ!」


 一瞬……一真の背中に焔の翼が具現化する。


 攻撃のモーションに入った一真の姿は、その場から消えた。


 瞬間移動……そう勘違いしてしまう程のスピードでバロールの懐に入った一真は、炎を纏ったグラムを振り抜く!


 その一連の動作の後に、空間が歪んだような凄まじい音が鳴り響き、床や壁に亀裂が走った。


 一真のスピードに、音が……衝撃が追いつかない……


「ぐおおおぉぉぉぉおおお!」


 肉の焼かれる様な、嫌な臭いが部屋に充満する。


 バロールの腹部に炎が走り、その身を焼いたのだ。


「貴様……嘘つきじゃのぅ……鳳凰覚醒を使わないとか言っておいて、普通に使いおる。それにしても魔眼の影響下で、このスピード……少し侮り過ぎたのぅ……」


 腹部に黒く太い傷を負ったバロールだが、まだ表情に余裕がある。


「一撃で終わる訳がないとは思ってたけど……これで、皮膚を焼いただけか……やっぱり強い」


「では、次は儂の攻撃じゃ。この身体に傷を付けた代償を払わせてやるでの」


 バロールは魔眼を怪しく光らせながら、攻撃体勢に移っていた。


 魔眼が強く光り輝き、大量の氷柱が一真に襲い掛かる。


「氷だろうが火だろうが、やってる事はワンパターンだ。バロールがオレを舐めているうちに終わらせる!」


 凰の目発動中は、動態視力が飛躍的に高くなる。


 迫り来る氷柱の矢の中を、一真は尽く躱しながらバロールに近付いていく!


 凰の目を輝かせる一真には、氷柱がスローモーションで動いているように見えていた。


 まるで踊りを踊っているように、氷柱の矢をくぐり抜けていく。


「ふむ。単発では、やはり捉えきれんか……」


 氷柱を躱し続けながら近付いて来る一真に向けて、バロールが雷を矢のように放った。


「はあぁぁぁ!」


 一真はグラムの刀身に雷を流し、電撃の帯びた剣を作り出す。


 バババチィィィィ!!


 バロールの雷をグラムで受けた瞬間スパークし、プラズマが発生する。


 しかし一真は動じる事なく、スパークするグラムを携えてバロールに突っ込んでいく!


「うおおぉぉぉ!」


 雷の力を付加したグラムで、一真はバロールに斬りかかる!


「ぐわぁぁぁ!」


 グラムの一撃を剣で受けたバロールだが、その巨体は電撃の力で弾け飛び、城の壁に身体を打ち付けた


 バロールの剣は無名だが、ヨトゥンの名工が鍛えたクレイモアである。


 2メートル近い剣を軽々扱うバロールを弾き飛ばし、更にそのクレイモアには傷がついていた。


「強いのぅ……アスナより遥かに……」


 そう呟くバロールだが、力強く立ち上がっていた……


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