争いではない戦い
話を少し戻そう。
一真がネイアと一緒に民家に入ると、赤ちゃんと女性が一人ずつ倒れていた。
床には、生々しい血液が大量に流れている。
(この出血じゃ赤ん坊は助からない!女性の方は??)
女性は、腹部に大きい切り傷がある。
しかし、内臓の損傷は無いように見えた。
一真は女性の首筋に指を当てる。
トクン……………………トクン……………
僅かだが脈がある!!
一真は着ていたTシャツを破り、傷口を圧迫した。
白いTシャツが、みるみる赤く染まる。
「くそ!!」
一真が叫ぶ。
「ネイアさん、傷口を消毒するような魔法はないですか?」
「えっ??」
ネイアは思わず聞き返す。
戦場ではでは傷口を閉じるのが最優先で、感染まで考える余裕は無い。
しかし、一真は感染予防を最優先に考えていた。
「この状態で感染したら体力が持たない。消毒と水分補給が先決だ!!」
圧迫止血を試みる一真の手は、真っ赤になっていた。
「もう………手遅れだと思います……」
ネイアは女性を見ながら言った。
「なら、捕われの姫や家族や仲間が同じ状態でも、同じ事が言えるの??人間の命はみんな一緒だ!!諦めるのは、手を尽くしきった後だ!!」
一真はネイアに訴え続ける。
ネイアはそんな事考えた事もなかった。
毎日何人も死んでいく戦場で、助からない命があっても仕方ないと思っていた。
ネイアは意を決して、魔法を唱える。
女性の体が緑色に光、傷口が少しずつ閉まっていく。
「……!!」
一真がネイアを見るが、ネイアは構わず詠唱を続ける。
傷口が閉まると「ふうっ」とネイアは肩で息をした。
「傷口は後でいいって言ったのに!!これで消毒が出来なくなったじゃないか!!」
一真がネイアの肩を掴み言った。
「一真様……大丈夫です。二重詠唱で消毒と傷口、両方対応しましたから……」
よく見るとネイアの額から、汗が吹き出ている。
(そうか…魔法で消毒と傷口を塞ぐの…2つやる事は難しいんだ…それを…随分無理させたんだな……ゴメン……)
一真は、改めて女性の方に向き直り、意を決する。
(絶対助ける!!)
一真は心に誓うと、女性の状態を確かめる。
出血は止まったが、依然脈は弱い。
(体の中に、とりあえず血液と水分を入れなきゃヤバイ!!)
一真は家の中で使えそうな物を探し始めた……
家の中を探し回った一真だが、点滴が出来そうな物が見当たらなかった。
(くそっ!!とりあえず針と管と水!!それさえあれば……)
その時、一真は閃いた。
神剣【グラム】を持ち、近くにあった大きいガラス製のグラスを斬りつけた。
すると、グラスは溶けだし、グニャグニャになった。
一真は、溶けたガラスをストローのように丸め始めた。
「ぐっ……………」
素手で灼熱と化したガラスを触ったため、火傷しガラスと皮膚がくっつく。
皮膚の焼ける臭いが、家中に広がった。
さらに先端を尖らせ、針のようにする。
「ぬあぁぁぁぁ!!」
一真が熱さに耐えきれず、絶叫する!
「一真様!!」
ネイアが魔法で冷気を集め、一真の手とガラスを冷やす。
手にくっついたガラスを皮膚ごと引きはがすと、床に血が滴り落ちた。
「一真様。なんでそこまで……それにこの道具は??」
ネイアは不思議そうに、一真が手を犠牲にして作った道具を見る。
「これを血管に刺して、血液と水分を流し込む!!」
しかし、水がない。
なんとかして水を……そう思った時、玄関が開いた!
助け船か??
一真が期待して玄関を見ると……
「あ~~~~~!!人が死んでた民家だったでしゅ~~。しまったでしゅ~」
ガーゴ………
一真は、肩を落とす………
(どうする……このままじゃ……)
一真が考えていると……
ザー
雨が降ってきた!!
正に、恵みの雨だった!!
しかし一真は手を火傷して、とても雨水を持ってくる事はできない……
ネイアには水を確保した後に頼みたい仕事があり、体力を使わせたくなかった……
「ガーゴ!!水を汲んできてくれ!!」
一真はガーゴに言う。
「無茶でしゅ~~。ガーゴはヌイグルミでしゅよ~~」
(都合のイイ時だけヌイグルミになりやがって!!)
「ヌイグルミだから出来るんだ!!体いっぱい雨を浴びて戻ってくるんだ!!」
一真が怒鳴る。
「一真恐いでしゅ~~。行くでしゅ~~。水吸うと重くなるでしゅよ~~」
ガーゴはブツブツ言いながらも、裏口から外に出た。
「ネイアさん。床にある血液に水分を含ませて、綺麗にさせる事は出来ますか??」
「大丈夫、そのぐらいの体力は残ってるわ」
一真の問いに、ネイアが答える。
ネイアは、彼に託そうと心に決めていた。
「ありがとう!よし!!」
一真はポケットに突っ込んでいたビニール袋を取り出した。
それに穴を開け、ストロー状にしたガラスを通す。
ネイアに魔法で穴に封をしてもらい、ガーゴの帰りを待つ。
ガラガラ!!
裏口の戸が開き、ガーゴが入ってきた。
「もービチャビチャで重いでしゅ~~。もー嫌でしゅ~~」
ブツブツ言ってるガーゴに一真は
「サンキュー!!ガーゴ」
と言い、ネイアに目配せをする。
ネイアは頷くと、魔法でガーゴの体から水分をとり、床にある渇いて固まった血液と水分を混ぜた。
そして再び液体となった血液をビニールに運び、封をする。
そして違う魔法を唱え、全ての道具・血液を消毒する。
「一真様、もう大丈夫です!!」
ネイアが、疲労困憊で座り込んでしまう。
「ありがとう!!」
一真はネイアに感謝を伝えながらも、女性の上腕を片手で力いっぱい握り、血液の流れを止める。
あまり浮き出ない血管を探し出し、看護学校から持ってきていた使い捨てのアルコール綿で皮膚を拭く。
そして針状になったガラスを刺し、血液の入った袋を上げ、血液を流し込む。
奇跡的に血管に入ったのか、刺入部は腫れてこない。
高さを調整しながら血液を流し込むと、少しずつ脈が戻ってきた。
「やった!!」
ネイアが叫ぶ。
一真がビニールの血液が無くなったのを確認し、ガラスの針を抜き、アルコール綿で針を抜いた場所を押さえた。
「ふう……」
一真は安堵のため息をつく。
女性はうっすらと目を開け始めた。
「大丈夫ですか?自分の名前、分かりますか!!」
一真が女性に話かける。
「名前………名前は【ティア・ノースラン】」
そう言うとティアは再び目を閉じた……




