続・スラハト解放戦7
「全員で仕掛けるぞっ! スルトは、クロウ・クルワッハの部隊の中でも1、2を争う実力者だっ! 手加減している余裕は無いぞっ!」
オルフェは叫び、再びオートクレールを構えてスルトに飛び込む。
その攻撃を援護するように、鎌鼬と炎の矢がスルトに向かって飛んでいく。
しかし、遠距離攻撃は黒い焔の盾によって防がれ、オートクレールはレーヴァテインによって受け止められた。
「レーヴァテインで防御している状態なら、2方向からの攻撃を防ぎきれないでしょ!」
「たああぁぁぁぁ!」
オルフェが攻撃を仕掛けた反対側から、絵美の天沼矛の突きが……スルトの頭上からはテューネによるデュランダルの一撃が襲いかかる。
「その程度の攻撃……躱す必要も無い」
スルトの周囲に発生する黒い焔の盾は、2方向からの攻撃にも対応した。
焔にも関わらず質量があるように刃を通さず、スルトは微動だにせず神器の攻撃を受け止める。
そして、黒い焔の盾は攻撃に転じた。
黒い焔が急激に広がっていき、絵美とテューネを飲み込もうとする。
「危ねぇ!」
航太は咄嗟にエアの剣を振り、風の力で絵美とテューネ黒い焔の攻撃範囲の外へ吹き飛ばす。
絵美とテューネは黒い焔に触れずに地面に落ちたが、助けに入った航太は僅かに触れてしまった。
鎧に燃え移った黒い焔は、生き物のように燃え盛る。
「あっち! 智美、消してくれっ!」
「考え無しに飛び込まないでよ……はい!」
智美が天叢雲剣と草薙剣を振り、航太の鎧を這うように進む黒い焔に水をかけた。
「ふーっ、助かっ……ってない! まだ消えてねぇ!」
「航太、動かないで! 頭は後ろに!」
緊迫したゼークの叫び声に、思わず航太は身体を硬直させて首を仰け反らせる。
その瞬間、首元から……鎧の隙間から、ゼークの剣が飛び出した!
「うわっ!」
「ちょっと痛いケド……我慢してよっ!」
剣の腹が航太の顔面を思いっ切り叩き、梃の原理で開いた鎧の隙間からゼークは腹部を勢いよく蹴り飛ばす。
「ぐほっ!」
顔面と腹部の激痛に、航太は悶絶して地面を這いずり回る。
その傍らには、黒い焔に焼き尽くされようとしている航太の身に付けていた鎧が落ちていた。
「スルトの……レーヴァテインの焔は、消す事は出来ないわ。一度燃えたら最後、焼き尽くすまでは消える事はない……身体に燃え移ったら、切り落とすしかないの。覚えておいてっ!」
「そう言う事は、事前に教えてくれ……焔で死ぬ前に、下手したら2回ぐらい死んでたぞ……」
顔と腹を押さえて、立ち上がる事が出来ない航太の声は力が無い。
「なんか……航ちゃん、顔きたなー……うぇー」
涙と鼻血で汚れた顔は、更に鼻の周囲が腫れ上がり、確かに醜くなっていた。
「絵美さん……うぇーじゃなくて、回復してくれると助かるんだが……」
「はぁ……皆が必死に戦ってるねんだから、緊張感持ってよね……私が回復させるから、絵美はスルトを!」
智美が航太の回復に入り、絵美はスルトに対して戦闘姿勢を整える。
が……黒い焔に守られレーヴァテインを持つスルトに、完全に手詰まりになっていた。
「やはり、この程度か……この戦力で、バロールに勝てる筈がない。フレイも民間人の脱出経路を守る為に、城壁付近から離れられていない。ガヌロンの策であろう煙の魔眼対策も、はっきり言って意味をなさない。だが……バロールに対抗出来る奴がコナハト城に侵入しているなら話は別だ……なぁオルフェ。貴殿程の知将が、無策で突っ込んで来る筈がない」
「その考えが正しかったとして、なら時間稼ぎこそ意味が無いだろ。ムスペルの騎士を使って包囲殲滅すれば、我々など一瞬で潰せただろうに……」
スルトとオルフェは、お互いに腹の探り合い始める。
が……スルトは薄く笑うと、レーヴァテインを鞘に納めた。
「何を……戦闘の意思が無くても、こちらは攻撃するぞ!」
「ふん……ベルヘイム騎士の実力は理解出来た。とてもロキ殿の驚異になるとは思えん。だが……当然、策がある筈だ。見届けさせてもらうぞ……貴様達の切り札が、どの程度の者か……な」
スルトはそう言うと、オルフェを無視して立ち去ろうとする。
「待ちなさい! まだ勝負はついてないわっ!」
オルフェの横から閃光の如く飛び出したゼークは、高速の突きをスルトに繰り出す。
しかし、その攻撃はレーヴァテインの鞘に尽く防がれる。
「ゼークの末裔か……残念だが、実力不足だ。まだまだ、先祖の足元にも及ばないな……もう少し楽しめる程度の実力になったら、また戦ってやる」
そう言うと、スルトとムスペルの騎士は黒い焔に包まれて姿を消した。
「なんだったんだ? 結局、スルトって野郎はバロールを裏切ってるって事か?」
「いや……そんな甘い状況じゃない……確実に一真の存在がバレている……そして、その上で泳がされている。我々は、ロキの手の平で転がされているだけだって言うのか……」
オルフェは唇を噛みながら、煙に覆われたコナハト城の城壁を見上げる。
「ロキの脅威になる……一真様にバロールを倒させて、ロキは何を企んでいるんでしょうか?」
「分からないケド……レンヴァル村に眠る何か……それと関係があるんでしょうね。次は、ロキと戦う事になるかもしれないわ……」
ゼークの声は、少し震えていた。
スルトの圧倒的な神級の力を感じてしまった今、スルトより強いと言われているロキと戦うのは現実的じゃない。
「私達の先祖……7国の騎士は、どうやって神級の敵と戦ったんだろう……それに一真は……バロールに勝てるのかしら……」
ゼークの呟きは、その場にいる全員が感じている事だった。
「カズちゃん……大丈夫だよね? 私達なんかより、何倍も強いんだもん……バロールをやっつけて、戻って来るよね?」
「ったりめーだっ! ついでに、スルトって化け物もいなくなってくれたんだ! こっからは、一真の援護に入るぞっ!」
航太は叫ぶと、エアの剣を構える。
「煙で隠れてるギリギリまで飛んで、そっからコナハト城へ侵入するぞっ! 大した力になれない事は分かってる! それでも……」
「うん……そうだね。行こう、航ちゃん! カズちゃんを1人で戦わせない……この音、カズちゃんの叫び声に聞こえるし……」
見上げたコナハト城からは、気付けば爆音や金属音……明らかに強大な力同士がぶつかり合っている音が響き渡っていた……




