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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
スラハト解放戦
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続・スラハト解放戦4

 

「よしっ! いい調子だっ! このまま押し込んでいくぞっ!」


「傷ついた騎士さん達は、後方へ下がって! もう誰も死なないでっ!」


 航太が繰り出す水の矢は、確実にヨトゥンの弓兵の数を減らしていた。


 航太やスラハトの住人達を守る為の盾の役割をしているベルヘイム騎士達に刺さる矢は、確実に減っている。


 それでも、最前線にいるベルヘイム騎士の身体には、次々と矢が突き刺さっていく。


 水球を作っている為、その姿を見ているしか出来ない自分が悲しくて、智美は思わず声を上げていた。


「皆を救う為にも、頑張んなきゃ! 航ちゃん、ガンガンやっちゃって!」


「わーってるよっ! もう1回行くぜっ!」


 額の汗を乱暴に拭った航太は、絵美の言葉に応えてエアの剣を振る。


 しかし空中に跳んで剣を振るのは、なかなか厳しい。


 明らかに跳躍力が減ってきており高くは跳べないが、それでもベルヘイム騎士達の頭上から水の矢を飛ばし続ける。


「はぁ……はぁ……流石にキツイぜ……この熱さで、体力の消耗が激し過ぎだ」


 地面に降りた航太は、肩で息をしていた。


 そこへ……


 バシャアァァァァ


 絵美が作り出していた水柱が、Uターンを描いて航太の頭から降り注いだ。


 ………………


「絵美さん……これは、何の仕打ちかな?」


「暑いから涼しくしてあげようという、心優しい女神の気配りなのだよ。絵美様、ありがとうございます! と、言ってもいいんだよ?」 


 ズブ濡れになった航太だったが、体力が回復し喉の渇きも癒えた感じがする。


 それに、気付くと水柱は四散しており、ベルヘイム騎士達にも降り注いでいた。


 全回復……まではいってなさそうだが、それでも体力を取り戻したのか、ベルヘイム騎士達も足取りに力強さが戻っている。


「サンキュー智美、だいぶ回復出来たみたいだ。これなら、まだいける!」


「って、智ちゃんじゃなくて、私への感謝はドコにいったー」


 再び跳ぼうと航太が準備を始めようとした時、ヨトゥンの弓兵の側面から鬨の声が上がった。


「航太の隊だけに、いい格好させるな! 私達の部隊が、ベルヘイム最強である事を見せつけるぞっ!」


 ヨトゥン弓兵の側面から突然現れた部隊……ゼーク隊は、全員多少の火傷を負っている。


 ヨトゥンの弓隊が出て来た時、航太の部隊の後方にいたゼークは、空洞を出て火の海と化しているスラハトの町を駆け抜ける事を決めた。


 何かをしければ、一方的に矢の的になってしまう。


 一本道の下がった場所の空洞に纏まっているのだ……標的にするには、こんなに楽な事はない。


 ゼーク隊は空洞を進めた分ヨトゥンの弓兵までの距離は詰まっており、行けない距離じゃない……


 死を覚悟しながら、ゼーク隊は火の海へ馬を走らせたのだ。


 そして、その策は見事に的中する。


 火の海を抜けては来れない……そう思っていたのだろう。


 弓兵を守る護衛の姿は無く、ゼーク隊は次々とヨトゥンの弓兵を喰らっていく。


「ふーっ、助かったぜ!」


「ゼークちゃん、凄いね……あの火の中を抜けてったんだ……暑いだキツイだと、ウダウダ言ってた航ちゃんより全然カッコイイ!」


 軽く航太をディスった絵美は、手を団扇のようにして扇ぎながら胸元をパタパタさせて風を送っている。


「キツイとは言ったが、暑いとは言ってねー! てか、最初からウダウダ言ってたのは自分だろーがっ!」


「ほら、2人とも子供みたいな喧嘩をしない! まずは傷ついた騎士さん達を回復させて、それからカズちゃんのフォローに入るわよ! まだ終わってないんだから、気を抜かないで」


 納得のいかない顔で智美を見た航太だったが、自分達のやるべき事を思い出して気を引き締めた。


「うし……智美と絵美は、騎士達の回復をしてくれ。オレと無傷な騎士は、状況を確認しつつスラハトの住人達の護衛と休息だ」


 航太はそう言うと、傷ついた騎士と智美達を部隊の中心にして守りやすくする。


 そして、手の空いている騎士達がスラハトの住人達を城壁から外へ出れるように手回しを始めた。


「ところでさぁ……オルフェ将軍って、何やってんだろ? か弱い乙女達が前線で頑張ってるのに、全く顔出さないじゃん!」


 走り回る騎士達の姿を見ながら絵美は頬を膨らませ、突然オルフェ将軍への不満を口にする。


「確かにねぇ……空洞に入ってから、姿を見てないわ。何か考えがあるとは思うんだけど……」


 智美がそう言って周りを見渡した時……前方より再び悲鳴が上がった。


「おいおい……また、このパターンかよ! 今度は何が起きたんだ?」


「って、何あれ? 黒い……炎? ゼークちゃんの部隊が攻撃されてるんじゃない?」


 航太と絵美が視線を前に向けると、確かに煙と間違えそうな黒い炎がゼークの部隊に襲いかかっているように見える。


 希望から絶望へ……


「もー、なんで! なんで、こんなに簡単に命を奪うのっ!」


 絵美の声は、悲しみで震えていた。


「もう……次から次へと……航ちゃん!」


「分かってる! とりあえず回復は中断! 智美、オレ達で遠距離攻撃を仕掛けるぞっ!」


 智美は頷くと回復している手を止め、航太の横に水球を作り出す。


「くらいやがれーっ! っとぉ」


 ガァキキキキィイィィィィン!


 水の矢を放とうとした航太は、凄まじい程の金属音が響いた為に振ろうとしていたエアの剣を突然止めた。


「何が起きたの?」


「って……あれ、噂のオルフェ将軍……」


 金属音が流れた場所を中心に黒い炎が消えていき、ヨトゥンの将軍と騎士が剣を合わせている姿が見えてくる。


「オルフェ……ロキ殿が名前を覚えた騎士だけの事はある。この私の剣を止めるだけでなく、我がムスペルの騎士の動きも止めるとはな」


「ふっ……弓兵に対して護衛をつけないなど、愚策もいいとこだ。だがコナハト城の足元で、そんな無能な奴が指揮をする部隊などある訳がない。ならば、弓兵の背後に奇襲をかける部隊がある事は容易に想像出来る」


 スルトのレーヴァテインをオートクレールで受け止めたオルフェは、距離をとる為に後ろへ跳んだ。


「全軍、もうひと踏ん張りだっ! スルトを倒し、コナハト城へ向かうぞっ!」


 オルフェの声に、航太は力が漲って来るのを感じた……

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