続・スラハト解放戦2
ドオオオオオォォォォォン!!
デュランダルの一撃で、大地が……城門からコナハト城へ続く大きな一本道が、綺麗に裂けていく……
そう……皇の目を使ってないにも拘わらず、大地が大きく裂けた。
「ひゃ~、テューネちゃんスゴーイ♪ 一瞬で覚醒したか~♪」
「いえ……私の力というより、これは……」
はしゃぐ絵美の横で、テューネは冷静に裂けた道を見つめる。
「これが、ガヌロンの描いた絵図だろう……よく見ると、この一本道には火が来ていない。両側の家々が激しく燃えているから気付かなかったが……確かに、燃える物の無い場所だしな。この道は新しく作ったのだろうから、大地は緩かった。だから魔法で、道の下に空洞を作れたんだ……この空洞を通れば、コナハト城まで行ける筈だ……」
オルフェはそう分析すると、よく気付いたなと言わんばかりにテューネの頭を撫でる。
「ガヌロン様は、わざとデュランダルの力を押さえ込んだ。そして、私に仲間を頼れと言っていた……今の私の力なんて、皇の目を使わなければ普通の騎士様以下……新たな聖遺物を得て力を増したデュランダルの力を隠すなら、デュランダルを鞘に収めて私に戦場に出るなって言えばいいだけ……それでも、私の力に存在意義があるなら……」
「皇の目を使わなくても……パワーアップしたデュランダルの力を使わなくても、役目があるって考えた訳ね。そこまで考えられるなんて……凄いねテューネは……でもね、デュランダルを使う事だけがテューネの存在意義じゃない。そんな事を言ったら、私だって神剣を持っていない騎士達よりも弱いわ。そして、その騎士達だって、ヨトゥン兵より弱い人が殆ど……でも、それで自分の存在意義が無いって思っているのかな? 今でもスラハトの町の人達を必死に助けようとしている人達は、存在意義が無いのかな? 私は、凄いと思う。力が無い分を皆でフォローしあって、立ち向かって行く姿が……」
智美は笑顔をテューネに向けると、ウィンクしながら可愛いガッツポーズを作った。
智美の言葉で周りを見渡したテューネは、火の海の中を走り回るベルヘイム兵達の姿が写る。
「本当だ……私は、何て失礼な……」
普通の騎士以下……テューネは、そう言ってしまった自分を後悔した。
普通の騎士以下ところか、人として最低だ……よく見れば助かったスラハトの住人達の中にも、兵達に力を貸して人々の救出にあたっている人達もいる。
「テューネちゃんは、真面目過ぎだぞ~。自分の出来る事を精一杯やればいいだけなんだって♪ で、間違ってたら、周りの大人が注意してくれるからねっ。あっ、でもでも、たまーに頭の悪い大人がトンチンカンな事を言うかもしれないから、そこはスルーで♪」
「で……何でソコでオレを見た? まだ城壁飛び越えた事を根に持ってんのか? あの時の判断は間違ってねーし、それにテューネとオレ達は同い年ぐらいだろ? てか、頭の悪い大人って何だ? だいたい……って、人の話を聞けよっ!」
航太が必死に話をしているにも関わらず、話を振った絵美はテューネの方を向いて笑っていた。
「ねっ、頭悪そうでしょ? 自分で考えられないから、ハテナマークばっかり」
絵美の笑った顔を見ていると、テューネも自然と笑顔になっている。
「はぁ……あんた達は、緊張感が無いのか何なのか……まだ、結構ヤバイ状況に変わりないんだよ!」
「まぁ……あれで、そこそこしっかりやってるからな……スラハトの住民の大多数は航太達が救ったようなモンだ。それで、ガヌロンはどうなった?」
航太達を見て呆れていたゼークの肩を軽く叩いたオルフェは、ガヌロンの顛末を聞いておきたかった。
ゼーク達と一緒ではないと言う事は、おそらく命は失っているのだろうと……
それでも、最後にガヌロンの考えをゼークに伝えたのではないかと思ったのだ。
ゼークはガヌロンの最後をオルフェに話すと、魔導師の指輪を見つめる。
「そうか……だが、これで安心出来た。このまま、この道を進んで間違いなさそうだ。ゼーク、そろそろ一真がコナハト城に侵入する時間帯に入ってくる。一気に駆け抜けるぞ!」
オルフェは叫ぶと、先頭を切って走り出す。
「火の下を走って行くって、なかなかスリルあるねー♪ こんなアトラクション、どっかになかったっけ?」
「絵美、余計な事を言わないの! 航ちゃん、火の粉が降ってくるかもしれないから、水の膜を頭上に張りながら行くよ。纏まって走って!」
智美は走る人達の上に水の膜を張るが、縦に長くなっている部隊の全てを覆うのは不可能である。
「火の粉ぐらい、いいんじゃねーか? 髪が命な女性陣だけ固まって行ってくれ! オレも大丈夫だ!」
航太も、オルフェの後を追って走り出す。
スラハトの中心を抜けた辺りで、空洞の横の壁にボコボコと穴が開き始めた。
そこから、人々が続々と出て来る。
「おい、ガヌロン様の言われた通りだ! 地下に身を隠しておけば、火の海から救われる……この道は、城門に続いているぞ! あの人は、本当の天才だ!」
「本当に……ベルヘイム軍が、助けに来てくれたんだわ……地下の空気が薄くなってきた時は、どうしようかと思ったけど……流石は、天才軍師ガヌロン様ね!」
スラハトの人々が、口々にガヌロンを讃える言葉を発していた。
今日を生き延びる術を、ガヌロンはバロールに隠れながら……魔眼による監視をすり抜けながら、スラハトの住人達に伝えていたのだろう。
人々が口を揃えて天才と言っているのは、おそらく今日起こるであろう危機を、バロールを欺きながら準備をしていたからだと想像がつく。
空洞を作ったり、地下を作ったり……策があると、バロールを騙しながら作ったんだろう……
「これも、ガヌロンが考えたって訳……でも、アイツがランカスト将軍を危機に追い込んだのは間違いない……くそー! 悪役でいてくれれば、恨んで終わりだったのにっ!」
ガヌロンが嫌いな絵美は、スラハトの人々の言葉に苛立ちが隠せない。
「ホントよ……最後まで、嫌な奴……」
ゼークはそう呟くと、喜びながら空洞に出て来る人々を眺める。
「ぐはっっ!」
歓喜に湧いている場所の先で、突然に人の断末魔のような叫び声が聞こえた。
その瞬間、喜びの声が沈黙する。
「何があった? 前方の状況を確認出来る兵は、報告してくれっ!」
「はっ! どうやら、前方にヨトゥンの兵が現れて、空洞の横の壁から出て来たスラハトの住人達を矢で攻撃しているようです!」
オルフェの側にいた兵が、状況を確認して報告してきた。
「くそっ! なんでこんな……智美、絵美! 前に出て非戦闘員を守るぞ!」
航太は叫ぶと、矢の向かってくる戦場へ向けて走り出す。
ただ、人の命を守りたい一心で……




