最後の魔法3
ドオォォォン!!
先に放たれた小さな複数の火の玉は、ベルヘイム兵の足元に次々と着弾し、着弾した場所からは火柱が立ち昇った。
ベルヘイム兵とゼーク達の間に、火の壁が立ち塞がるように吹き上がっている。
「これで邪魔は入らんな……死んでもらうぞ、ゼーク!!」
巨大な火の玉が……ゼークの身長より大きな火の玉が、その身体を覆い尽くすかの如く襲いかかってきた。
火の玉は巨大であり、そのスピードは早いとは言えない。
ゼークであれば躱す事は容易であるが、躱してしまったらテューネに当たってしまう。
遅いといっても、跪いているテューネが回復して回避行動に移れる程の余裕は無い。
死を覚悟したゼークは、それでも一矢報いようとバスタード・ソードをガヌロンに向かって投げ付けようと腕に力を込めた……その時、巨大な火の玉は四散した。
正確には、小さな複数の火の玉に分離したと言った方が正しいか……
その小さな火の玉は、ゼークの横を擦り抜けていく。
「最初から、テューネが狙いだったの??避けて、テューネ!!」
振り返ったゼークの目に飛び込んで来たのは、跪いているテューネを取り囲むように浮かぶ複数の火の玉であった。
「さて……これで詰みだ。テューネは間違いなく死に、ゼーク……貴様もテューネを助けに入って死ぬ事になる」
「ゼーク様……悔しいけど、ガヌロンの言う通り……私は逃げれないし、私を助けに来たらゼーク様も犠牲になってしまう。なら……ゼーク様は、ガヌロンを討って!!奴を倒して、この戦いを終わらせて……」
テューネを取り囲む火の玉の数は、数えるのも面倒臭い程の膨大な数である。
助けに行っても、どうにもならないのは明らかだ。
ゼークは唇を噛み、俯きながらガヌロンの方に向き直る。
「ガヌロン……私は許さない。テューネを殺そうとしている貴様も、テューネを救う事すら出来ない私自身もっ!!」
怒りで震える腕を抑えようともせず、ゼークはガヌロンに向かって大地を蹴った。
「馬鹿な……テューネを見殺しにするのかっ!!こんな筈では……」
ガヌロンは迫って来るゼークに火の玉を放つが、かなりの数の火の玉を既に出している為、魔法が単発になってしまう。
1つ1つ迫る火の玉など、ゼークは容易に躱す事が出来る。
足止めする事すら出来ず、ゼークのスピードは衰える事なくガヌロンの懐に入った。
「くそっ、これなら……どうだっ!!」
ガヌロンは自らの手の平から炎を出し、目の前に来たゼーク目掛けて横に払う。
ガヌロンの手の動きに合わせて炎が伸びるが、ゼークは屈んで炎を避ける。
その瞬間、火の粉がゼークの髪を結わえている紐を燃やし、綺麗な銀の髪が花が開くように咲き誇った。
咲き乱れる髪を気にもせず、ゼークはバスタード・ソードを構え直す。
「これで終わりだ!!死の世界で皆に詫びろ、ガヌロン!!」
「もう、駄目か……せめてテューネだけでも!!」
ガヌロンが右手を伸ばし、その手を握るのと同時に、ゼークが繰り出したバスタード・ソードの一撃が胸に突き刺さる。
「ぐっ……はぁ……」
ドオオオォォォォォォン!!
ガヌロンの呻き声と後方の爆発音が、同時にゼークの耳を支配した。
ゼークの瞳からは、自然と涙が流れる。
その涙を振り払い、ゼークはガヌロンの胸に突き刺さっているバスタード・ソードを引き抜こうとした。
そのバスタード・ソードの刀身を、血まみれの手でガヌロンが強く握る。
「まだ……まだ抜くな……これを抜いたら、出血で死んでしまう……」
「死んで当然の事をしただろ!!たった今、テューネも殺した!!自分だけ命乞いなんて……みっともないわよ!!」
ゼークはバスタード・ソードを引き抜こうとするが、ガヌロンの力は強く引き抜く事が出来ない。
死の間際の筈なのに、どこから力が出ているのだろうか……バスタード・ソードの刀身を握って離そうとしなかった。
「まだ……まだ死ねないんだ……この剣が、私の胸に突き刺さっていれば……魔眼で私を監視しているバロールの力も、私の魔力を使って監視しているロキにも……知られずに、伝える事が出来る……」
ゴホッと咳をしたガヌロンの口からは、血が吐き出される。
魔導師の指輪の魔力を使っているのか……赤く輝く指輪の力で、なんとか意識を保っているようにも見える。
「バロールとロキに監視??いったい、何を言っているの??」
バスタード・ソードを握る力を、ゼークは無意識に弱めていた。
「時間が無い……まずは、アムルサイトの名を持つゼーク……キミの秘密を……」
朦朧とする意識の中で、ガヌロンは力を振り絞り口を開く。
そしてガヌロンは語り始めた……




