激戦再開!風対恐怖!!
………………………
「な……長かったでしゅ~~~。あまりに長くて寝るトコだったでしゅ~~。校長の話より長かったでしゅよ~~」
最初に声を発したガーゴが、場の雰囲気を台なしにする。
(なんつー緊張感のない……ってかヌイグルミでも眠くなるのか??)
航太もつい無駄な事を考えてしまう。
「付き合いきれんでしゅ~~。あの民家で一休みするでしゅよ~~」
一真達が入った民家に、ガーゴもヒョイっと入る。
「あ~~~~~!!人が死んでた民家だったでしゅ~~。しまったでしゅ~」
民家からガーゴの声が聞こえてくる。
(一真……ご愁傷様……)
航太は一回民家を見て、それからガイエンの周りに目をやる。
智美は震えは止まっているようだが、話を聞いて泣いている。
「…………馬鹿にしてるのか!いい度胸だっ!!」
ガイエンが少し顔を赤くして、怒りの声をあげる。
「いや、すまない……アレにはオレも手を焼いてるんだ……。オレ達は決して馬鹿になんかしてないさ…」
航太はそう言って、智美を見る。
ガイエンも智美の方に視線を移す。
「お前ら…なんか不思議な雰囲気を持ってるな……」
ガイエンの表情が一瞬柔らいだ感じがした。
「誰かに自分の心の奥底にある物を聞いて欲しかったんだよ♪誰かに話を聞いてもらうだけで、心が救われる事もあるんだよ♪」
絵美がいつもの軽い感じで、しかしガイエンの事を考えた発言をした。
「そうだ。人間は弱いかもしれない。でも、助け合ったり、思いやったりする事で何倍の力も出せるし、安らげるんだ。少しずつでも信じてみないか?」
航太もガイエンに訴えかける。
その時…
茂みの中から、クレイモアのような大剣を持った男が飛び出してきた。
「貴様が…貴様がティアの!!人の心を潰した罪を償え!!」
大声を上げながら、男は軽く飛び上がり大剣の重さを利用してガイエン目掛けて振り下ろす!!
バシュっ!!
決着は一瞬でついた。
ガイエンの【ヘルギ】が男の大剣を豆腐のように切り裂き、その先にある胸まで剣先が届く。
男の胸から鮮血が吹き出し、周囲の木や草を赤く染める。
「いやぁぁぁぁ!!」
智美が顔を覆って、その場にしゃがみ込んだ。
「ガイエン!!てめぇっ!!」
航太は【エアの剣】を無意識に構える。
「ふん…貴様ら甘いな……人が助け合えるのは自分に危害が加わらない時だけだ。自分じゃ敵わない大きな力の前では保身に走る……それが人間だっ!!」
ガイエンは【ヘルギ】を強く握りしめると、航太に斬りかかった!
ガキィィ!!!
【エアの剣】と【ヘルギ】が交錯する!!
航太は剣と剣の間に風を発生させ、剣圧を軽減させる。
両手に痺れはない。
「ガイエン!オレ達に戦う理由はないだろ!!」
航太は倒れた男に視線を少し移し、それでもガイエンと戦う事はない…戦争中に自らに刃を向けられれば、殺されても当然だと思った。
「どうかな?お前らがヨトゥン軍に入れば…な。ベルヘイム軍にいる限り、その男と変わらない。敵だっ!!」
ガイエンは自らに言い聞かせるように言うと、高速で剣撃を繰り出す!!
「うわぁぁぁ!」
風を身体の周囲に発生させ太刀筋をズラしながら必死に防戦するが、徐々に【ヘルギ】が航太の皮膚を切り裂き始める。
航太の体から、無数の出血が見られ始めた。
「なんで分かんないのよー!!」
ガイエンの横から絵美が【天沼矛】を突き出す。
しかし、弾かれる。
経験値が圧倒的に違う。
ガイエンが航太に対し、止めとばかりに【ヘルギ】を赤く灯し、斬りかかる。
ガキィィン!!
航太が恐怖で目を閉じた時、柑橘系の香りが風に乗って流れてきた……
航太の目の前で、綺麗な銀色の髪がなびく。
「ちっ!!ゼークか……もう戻ってきたのか!!」
ゼークはオゼス村の生き残りを救い出し、急いで航太達の救援に駆け付けたのだ!!
その細い腕のどこにそんな力があるのか、ガイエンを押し返す!
その時……
ポツリ……ポツリ…………
ザー…………
雨が降り出した。
「航太さん、大丈夫ですか??」
ゼークは航太に声をかける。
雨で濡れた影響もあるのか、ゼークの髪が揺れる度、柑橘系の爽やかな香りが流れてくる。
その香りが、何故か航太に安らぎを与えていた。
「エリサ!航太さんの傷を見てあげて!!」
ゼークがエリサに向かって言う。
「まだ大丈夫です。オレもまだ戦えます!」
航太が【エアの剣】を握りしめる。
おそらく自分より若い少女に、助けられるだけは避けたいという航太のプライドもあるのだろう。
「航太様。傷だけでも治します。すぐ終わりますから…」
エリサが魔法を唱え始めると、航太は薄い緑に包まれ、傷が消えていく。
「エリサさん、ありがとう」
すぐにゼークに加勢しようするが、ゼークが明らかにガイエンを押している。
雨の影響で【ヘルギ】の赤い光がボヤけて、効果が半減しているようだった。
そして、剣の腕はガイエンよりゼークの方が強かった。
(すげぇ……可愛いうえに強いのかよ!!)
航太はゼークの戦いに圧倒された。
銀色の長髪を振り乱して戦うその姿は、戦いの女神のようだ。
「【ヘルギ】の効果が弱まるこの状況は不利か……」
ガイエンが【ヘルギ】を一瞬だけ強く光らせる。
「くっ!!」
ゼークの足が止まる。
その瞬間に、ガイエンは逃げ出した。
「今日は退屈凌ぎで隊を離れて遊んでただけだからな。次は勝負をつけるぞ」
ガイエンはどんどん小さくなるが、航太達は追う気力はなかった。
通り雨だったのか、ガイエンの姿が見えなくなると同時に雨が止み、少しずつ明るくなってきた。
「おい、あんた大丈夫か?エリサさん!!この人も診てもらえるかい?」
航太が胸を切り裂かれた男に声をかけながら、エリサに協力を求める。
エリサは魔法を唱えようとするが、すぐに首を横に振った。
「航太様…この人…生命力が尽きかけています。これでは…」
その男は薄れていく意識の中で、ティアと出会った時の事を思い出す。
戦火の中、ボロボロになった少女との出会いを…




