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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
スラハト解放戦
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迷う心

「まぢぃな……そりゃ……」


 一部始終を聞き終わり、航太は事の重大さを理解した。


 ルナが一真に好意を持っていて、更に一真が兵達に酷い事を言われている上に1人で戦いに行った事を知れば、その後を追う可能性は高い。


 子供は、残酷な程に純粋な生き物だ。


「もし一真の後を追ったのなら、ルナはコナハト城の方に行った可能性が高い。航太、お願い!!ルナを追いかけて連れ戻して!!」


「ああ……そうだな。ルナが運良く一真と合流出来たとしても、結局はバロールと戦う邪魔になる。連れ戻す以外、方法はねぇ……」


 懇願するエリサに応えた航太の胸ぐらを掴んだゼークの瞳は、先程までとは違い険しい物になっている。


「航太……本気で言ってるの??ルナの事は心配だけど、今日の戦いは時間を守らないと……私達がスラハトに敵を引き付けないと、一真がヨトゥン兵に囲まれて、バロールどころじゃなくなるのよ!!」


 泣きつくような視線のエリサに、突き刺さるようなゼークの視線……


 航太の頭はフル回転するが、答はまるで見えてこない。


 ルナの事は、もちろん心配だ。


 しかし、この作戦を実行する為に、一真は必死に自分の力を隠し続けた……そして、その一真を守る為にネイアは命を失った……


 いや……それだけではなく、これから救われるであろう多くの人の命が一真の肩に乗っている。


 それを、たった1人の少女を救う為に失わせるのか……


 最悪、一真とルナが出会わなければいい……そんな考えが頭を過ぎり、航太は頭を強く振った。


(オレは一体、何を考えている??ルナが助からなくても、一真の邪魔にならなければ良いって考えちまってんのか??くそっ、まぢで考えが纏まらねぇ!!)


 ドーン!!


 ドーン!!


 焦る航太に構わず各隊集合の太鼓の音が、その焦りを加速させるように聞こえてくる。


(畜生!!ここでルナを見捨てたら、智美が捕まった時に一真にとった自分の態度を否定しなきゃなんねぇ……人の命を左右する選択って、こんなに重いのかよっ!!)


「ちょっと航太、早く鎧を装着して!!集合、かかってるよ!!」


「別に、全員で探してって言ってる訳じゃない!!航太だけでもルナを探してっ!!お願い!!」


 とりあえず鎧を装着して出撃準備を整える航太は、2人の声を聞きながら迷う。


 確かに自分だけ合流が遅れても、作戦前に追いつけば支障はそこまで無いかもしれない。


 しかしヨトゥンに認識されている自分が一真を追っていけば、作戦を感づかれる可能性がある。


「航太、今回の作戦は時間を合わせる事が重要なのは分かってるでしょ??行くわよ!!」


「ゼーク……ルナを見捨てるの??馬で助けに行けば、子供の足なんだし……まだ間に合うでしょ??」


 追いすがるエリサの瞳には、自分の責任だという後悔の念が篭ってるように見えた。


 俯いたままエリサの瞳を直視出来ない航太は、ゼークの方に歩を進める。


 航太とは逆に、ゼークはエリサの瞳を真っ直ぐに見て口を開いた。


「エリサさん……仮にルナがコナハト城の西門に向かったとしたら、助けに行くのは得策じゃない。ベルヘイム軍の兵士が1人でも近付けば、それだけヨトゥンに発見されるリスクは高まるし、西門を警戒されてしまう。この作戦は色々な事に一真が耐えに耐えて……自分を犠牲にして、私達にチャンスをくれたのよ!!全世界の……全ての人間の明日がかかってる作戦なの……エリサさんだって、分かってるでしょ!!」


 ゼークの正論であり強い言葉に、エリサは力無く膝から崩れ落ちる。


 自分のせいでルナが犠牲になる……


 そんな自責の念に苛まれるように……エリサは顔を覆う。


 そんなエリサを見ようともしないで、ゼークはテントの外に出て行く。


 ゼークの後ろ姿を目で追った航太は、エリサの肩に触れようと伸ばした腕を引っ込めた。


 慰めの言葉も励ましの言葉も、何も出てこない。


 いや、今の自分が何かを言える立場では無い事は理解していた。


 航太は無言で鎧を装着し、ゼークの後を追ってテントの外に出る。


「進軍中に周りを意識して、もしルナを見つけたら戻るように言うから……」


 航太はそれだけ言うと、テントから離れて集合場所に急ぐ。


 自分を頼りに来てくれたエリサに、何も出来なかった悔しさが……自分に対する惨めさが襲ってくる。


「今の状況じゃ仕方ないよ……ルナは可哀相だけど、エリサさんも分かってる筈だよ……」


 横を走ってるゼークが、航太には冷徹な人間に見えた。


 しかし、それは自分も同じだ……


(一真……お前は、こんな事にずっと耐えてたんだな……心が痛ぇよ……)


 走りながら、航太は自分の心臓の上を強く握る。


 自分がその立場に立って、ようやく分かる事は沢山ある……何も知らないで、一真に好き勝手言っていた自分が恥ずかしくなった。


「航太、ゼーク!!遅いぞ……お前らが遅れてどうする!!」


 オルフェの声に、航太は自分の頬を叩いて気持ちを切り換える。


(自分で決めた道だ!!中途半端な思いじゃ、何もできねぇ。今は……集中しろ!!)


 ルナの事を完全に忘れる事は不可能……


 しかし、航太は感情を心の奥底に押し込み、戦いに集中する事を優先する事を決める。


 いよいよ、コナハト城の戦いが切って落とされようとしていた……

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