慌てるエリサ
「航太!!ルナ……見なかった??」
戦の準備をしている航太の元に、顔を青くしたエリサが慌ただしく飛び込んできた。
「な……エリサさん、どうしたんですか??顔色悪いケド……」
航太はエリサの表情を見て、ただ事じゃない事態が起こったと直感で感じる。
息の切れ方、言葉の切迫感、深刻な表情……
「エリサさん、取り敢えず落ち着きましょう」
鎧を装着する手を止めた航太は、エリサの呼吸が整うのを待った。
「ルナが……ルナがいなくなっちゃったの!!」
「ルナって、あの小さな女の子か??だけど、いなくなったぐらいで、そんなに慌てなくても……」
航太には、事態がそれ程切迫しているようには思えない。
ヨトゥン領内に入っているとはいえベルヘイム軍の中にいる訳だし、戦闘準備で忙しないが、それでも誰かが見つけて連れて来るだろうと……
そんな航太とは裏腹に、エリサの慌てっぷりは変わらない。
「航太……エリサさんが凄い勢いで入ってったのが見えたけど、何かあったの??」
長い銀色の髪を邪魔にならないように束ねたゼークは、既に鎧を装着しており、戦闘準備を万全に整えた状態で航太のテントに入ってきた。
テントに入って直ぐに目についた……自らの身体を抱くように両手を回し、深刻な表情でその身を震わせるエリサを確認したゼークは、軽蔑するような瞳で航太を睨む。
「……ん??いやいや、ちげーぞ!!なんか勘違いしてるみたいだが、オレは何もしてねーし、そもそもエリサさんは今来たばかりだ!!……って、とりあえず、その軽蔑の眼差しをやめろ!!」
明らかに航太を疑っているゼークだったが、それよりもエリサの事が心配で震える肩を抱き寄せた。
「エリサさん……何があったの??航太の馬鹿が何かしたのなら、私が天誅を食らわせてやるけど……」
「ゼークさん……まずオレの話を聞いてくれ……ルナって女の子がいなくなっちまったんだと。その辺で見なかったか??」
軽蔑の眼差しで睨んでいたゼークの瞳が、今度は恐怖に染まっていく。
「航太……あんた、ロリコンだったの……」
「だから違う!!状況を見て、真面目に会話をしてくれ!!多分、ホワイト・ティアラ隊の管轄外に出ちまっただけだと思うんだが、エリサさんの心配の仕方が普通じゃないんだ。そこまで心配しなくても、大丈夫じゃねーかな??」
そう言いながら、航太がテントの入口を広げ、辺りを見回す。
外には鎧を来た兵士達が走り回っており、土煙も上がっていて、小さな女の子を見つけるのは困難のようにも感じる。
「エリサさん……そんなに心配しなくても、直ぐにヒョッコリ出てきますよ。全軍が出陣したら落ち着くから、それから探せば……」
ゼークが外の様子を見てから、エリサを優しく抱きながら声をかけた。
そんなゼークの言葉に、エリサは強く首を振る。
「一真が1人で戦いに行った事、ルナに聞かれちゃったの……多分、一真を追って飛び出したんだと思う……」
「それって……だって、ここヨトゥン領だよ!!女の子が1人で出歩いていい場所じゃない!!」
事態の深刻さを理解したゼークは、首を振りながら航太を見た。
「けど、一真を追って外に出るかね??一真とルナって娘、そんなに仲いいのか??」
「航太……あんた、馬鹿じゃないの??ルナちゃんが一方的に一真に好意を持ってるの!!レンヴァル村で唯一人一真の戦いを見て、母親も助けられた……だから、本気で一真を追ってく可能性がある」
先程までのふざけていたゼークとは違う真剣な表情に、航太も事態の緊急性に気付く。
「恋は盲目ってヤツかよ!!エリサさん、状況を詳しく教えてくれ!!」
航太の言葉にエリサは頷くと、その時の状況を話し始めた……




