見送った背中
「結局、止めれなかったな………」
小さくなっていく一真の背中を見ながら、航太が呟く。
「あの強さだからね………コッチの人が期待しちゃうのも分かるケド………」
絵美の言葉には仕方ないという思いと、一真を想う気持ちが複雑に絡み合っていた。
「強いって事よりも、一1人で孤独に戦わなきゃいけないって事の方が重要じゃない??私も、捕まった時は心細かった………ロキさんや世話をしてくれた娘がいたからまだ良かったけど、1人でこの世界に放り出されたら、不安で不安で仕方ないよ………」
智美の言葉に、2人が頷く。
智美はロキに捕まる前、ゼークと離れ離れになってビューレイストと戦った時の孤独と不安が心を支配していた時の事を思い出していた。
航太と絵美を不安にさせまいと智美はあえてその事を口にはしなかったが、一真の状況を考えると胸が痛む。
「電気も携帯も無ければ、コンビニどころか街灯もねぇ………それに、知ってる土地でも無いからな………」
文明が発達している自分達の世界ですら、電気が無い夜は不便で不安で仕方ない。
それを見知らぬ土地で1人で旅立つ恐怖は、航太には想像も出来ない。
それでも、その先に楽しい事でも待っていればいい………しかし一真の目指す先には、勝てるかどうかも分からない………死ぬかもしれない戦いが待っているのだ。
「辛い………ね………」
ポツリと、絵美が呟く。
そのたった一言が、今の航太や一真の心を映し出していた。
一真の姿が見えなくなると、航太達は踵を返す。
「オレ達は、ただ待ってるだけじゃない………一真がバロールとの戦いに集中出来るようにしてやんねーと………」
航太の言葉に、智美と絵美が強く頷く。
航太達は、そんな事が一真の助けになるとは思っていない。
ただ、一真の為に自分達も何かしている………何か出来ると思わなければ心が押し潰されそうだった。
リーン………リーン………
辺りから、鈴虫のような鳴き声が聞こえてくる。
今まで気付かなかったが、何か心地良く、心に染み込んでいく。
「何かイイね………鈴虫………じゃないんだろうけど、心が落ち着いていくみたい………」
目を閉じた絵美は、その音を体中に吸い込む。
「この世界でも秋………なのかな??カレンダーが無いから分からないけど、コッチ来て1ヶ月は経ってるよね………」
智美も絵美と同じように目を閉じ、今まであった出来事を頭の中で反芻する。
神話の世界に来て、ガイエンとヨトゥン軍が殺戮を行う戦場で戦う決意をして、ロキに捕まって色々な話をして、ランカスト将軍に命懸けで助けて貰って、バロール軍本隊と戦って………
しかし、その思い出の殆どに一真が出て来ない事に気付く。
もちろん、ホワイト・ティアラ隊での活躍は聞いていた。
それでも、一番近い存在である自分達ですら、その程度の存在感しかないのだ。
航太や絵美は、ベルヘイム軍での知名度もそうだが、ヨトゥン軍にまで存在が知られているに………
「カズちゃん………この作戦の為に、必死に自分の存在を消してたんだね………」
ただならぬ一真の決意を、智美は改めて感じた。
ゆっくり歩く航太達の前方に、ベルヘイム軍の幕舎の灯かりが近付いてくる。
「明日………決戦だな………」
その灯かりを見ながら、航太が呟く。
「カズちゃん………どんな思いで今晩過ごすんだろ??なんか心配だなぁ………」
星が舞う夜空を見上げ、絵美はフゥっと溜息をついた。
「一真の心は、そんなに弱くないぞ!!心を喰らう凰の目の力を制御出来る程に強いんだ。それに、お前達の気持ちを受け取った一真は、更に強くなった筈だ!!」
「なんたって、一真はアスナ様と同じ力を宿してるんだよ??バロールなんてチャチャッってやっつけて、城外で戦ってた私に『ゼーク、大丈夫か??』って赤い瞳で見つめてくれるのよ☆☆キャーー!!」
突然現れたアルパスターとゼークに、航太達は驚きの顔をする。
「ゼークが稽古をつけてくれって言い出したから、そこの林の中で稽古をつけてた。一真に変な格好は見せれない!!なんて言ってな」
アルパスターはそう言うと、豪快に笑った。
「てかゼーク、キャラ変わってない??どうしたの??」
智美が首を捻る。
「ゼークは7国の騎士アスナのファンで、その力を受け継いでる一真も好きになったみてーだぜ!!」
「ぷっ!!航ちゃん、面白くなさそう!!ゼークちゃんの事が好きだったのかなぁ??」
絵美が冗談ポク言うと、航太の顔が赤くなっていく。
「航太はゼークが好きか!!あれで結構モテるから、早めに告白しといた方がいいぞ!!」
「な………将軍まで何言ってんスか!!」
航太の焦りまくった言葉に、全員が爆笑する。
3人の顔に、笑顔が戻っていった。




