親しき者との戦い2
「グラムでは戦えない………自分が嘘をついていたんだ………航兄達を傷つける訳にはいかない」
一真は小さな声で呟くとグラムを大地に突き刺し、ネイアの形見でもある短剣を懐から取り出す。
「ん………バルデルス、何かあったかにゃ??」
「アクア………ゴメン、起こしちゃったね。でも、もう少し懐に入ってて………航兄達に正体がバレて、大変な事になってるから………切り抜けたら、ちゃんと説明する」
短剣を取り出した時に起きたアクアが懐から顔を出すが、一真はその頭を懐に押し込む。
「何をブツブツ言ってやがる!!短剣を取り出したって事は、グラムは使わないって事か??舐めやがって!!」
「まぁいいわ………私達も強くなってる。後悔するわよ!!」
智美は、草薙剣と天叢雲剣………両手に剣を持って一真に向かって走り出す。
「やぁぁぁあ!!」
縦と横………十字に交錯するように2つの剣を交錯させ、その刀身から水の刃が発生する。
ガキィィィ!!
十字に発生した水の刃の中心………十字の真ん中に、一真は短剣の切っ先を当てて、その反動で後方に跳ぶ。
「智美………やっぱり、本気なんだね………本当に、そこまで怒らせてしまったんだ………」
一真は、その一撃から智美の本気度が伝わった。
出来れば、冗談であってほしかった………しかし、仕方ない。
偽っていたのは、自分自身なのだから………
「強いのは本当みたいね………私の一撃を軽々と凌ぐなんて………余計に苛つくわ!!」
「智ちゃん、カズちゃん相手だから無意識に手加減したんじゃない??私は容赦しないよっ!!」
一真相手に飛び込んだ絵美は、その勢いのまま天沼矛を横に振る。
智美の剣同様に矛の先端から水の刃が発生するが、一真はその刃の攻撃範囲ギリギリで躱す。
「バロールの支配から人々を開放する事………そして、この世界を守る事………オレになら出来ると、多くの人から托されてる。だから………航兄の言う通り、ここで倒れる訳にはいかない!!ゴメン、みんなっ!!」
一真は心を決めて息を大きく吐き出してから、絵美を目掛けて突進した。
「ゴチャゴチャ言ってたケド、結局はコッチの世界の事しか考えていないのねっ!!もう容赦しないわっ!!」
勢いのついた一真の横から襲い掛かった智美が、2本の剣を交互に振り下ろす!!
絵美しか見ていなかった筈の一真だったが、決して遅くないその剣を難無く躱した後、その動作の流れで智美の腹を蹴りとばした。
「くうぅぅっ」
鳩尾を蹴られた智美は背中から地面に倒れ、身体を曲げてのたうつ。
更に智美を蹴った反動を利用して、一真は天沼矛を振ろうとしていた絵美との距離を詰める!!
「なに………速い!!」
智美の攻撃で出来た隙を突こうとしていた絵美は、一真の予期せぬ動きに、咄嗟に後方に跳びながら天沼矛を振った。
しかし明らかに体勢の崩れた攻撃は弱く、一真は天沼矛を短剣の腹で軽々と受ける。
次の瞬間、一真は急速に反転し絵美にショルダータックルを浴びせた!!
「ふにゃ!!!」
絵美が奇妙な声を出し、尻餅をつく。
(2人を助けるスキすら無い!!将軍の言ってる事は嘘じゃなかった………)
そう思いながら一真の瞳を見た航太は、自分の目を疑った。
(瞳が黒いままだ………凰の目を使ってないのに、成長した智美と絵美を簡単に………コッチは神剣を使ってるのに、相手にすらなってねぇ………)
航太は智美と絵美を助ける為に、一真に目掛けて鎌鼬を放つ。
シュン!!
渾身の力を込めて放った鎌鼬は、いとも簡単に短剣で真っ二つにされた。
鎌鼬の力点を瞬時に見抜けなければ出来ない芸当である。
更に、倒れてる智美と絵美に分断された鎌鼬が当たらないように配慮までして………だ。
「凰の目なんか使わなくても………神剣であるグラムなんか使わなくても、オレ達ぐらい簡単に倒せるって事かっ!!余計にムカつくぜっ!!」
航太は叫ぶとエアの剣の力で自分の後方に風の渦を発生させ、その風に自らの身体をぶつけ、一真に向けて弾け跳ぶように突っ込む!!
「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
跳びながら地面に擦れるかのようにエアの剣を振り、縦の鎌鼬を発生させる。
鎌鼬が土煙を上げながら一真を強襲し、その鎌鼬が分断された瞬間に航太はエアの剣を突き刺す!!
鎌鼬を分断する動作をした直後の攻撃であり、土煙で航太の攻撃は見えてない為に躱される筈がないが………その一撃も短剣の刀身で受け止められていた。
まるで航太の攻撃する位置が分かっていたかのように、鎌鼬を分断する動作から連動して防御動作を行っている。
しかし、神剣であるエアの剣の攻撃をまともに受けたら、短剣は粉々に破壊され、刃は一真を捉える筈だ。
が………その衝撃を吸収するように短剣を柔らかく後ろに引かれた結果、航太の体は勢いそのままにバランスを崩し、今度は自分の身体で土煙を上げながら絵美達の倒れてる場所まで滑っていく。
「痛てててててて………」
擦り傷のできた右腕を抑えながら起き上がろうとした航太の鼻先に、剣先が突き付けられていた。
「うをっ!!」
驚いて、航太は尻餅をついて後退る。
「航兄………もうオレに戦いを挑まないでくれ………皆を傷つけたくない………バロールを倒し、この世界の脅威が去ったら、皆の怒りは受けるから………それまでは………」
涙を流しながら一真はそう言うと、航太の鼻先につけていた短剣を鞘に戻す。
涙の溢れ出る一真の瞳は黒いままであり、凰の目を使っていない事を示している。
航太は一真の心の痛みを強く感じ、流れそうになる涙を堪えて立ち上がった………




