表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
孤独な旅立ち
146/221

ティアの告白

「ねぇ一真………ちょっと………いい??」


 温泉からホワイト・ティアラ隊に戻ったティアは、戻るや否や治療をしている一真に声をかけた。


「ティア、帰ったんだね??ちょっとだけ待ってて。えーと………これでヨシ!!」


 一真は横になっている兵士の傍らで、木の実を点滴の代わりにして血管に栄養と水分が流れてるのを確認する。


 その兵の傷の状態を確認してから、一真はティアの方に顔を向けた。


「どうしたの??そんな真面目な顔して………温泉で何かあった??」


 ティアの深刻そうな表情が、一真を不安にさせる。


「うん………ちょっと………ね。話があるんだけど………」


 そう言うとティアは治療用のテントから離れ、林の方に歩いて行く。


「おーい………ちょっと待って!!」


 よく分からないが、ティアの表情が気になった一真は慌てて後を追う。


 林に少し入った所でティアは足を止め、空を見上げた。


「凄い綺麗な星空………なんか幻想的だね………」


 ティアの立ってるその場所は、小川のせせらぎが聞こえ、更には夜空を見上げるのに木々が邪魔しない。


 蛍のように光を放つ虫が2人の周りを取り囲むように飛び回り、正に幻想的な空間が生まれていた。


「凄い………本当に綺麗だね………近くに、こんな場所があったんだ!!」


 ティアに追い付いた一真は、空を見上げ感嘆の声を上げる。


 航太達と生活していた世界では絶対にお目にかかれない程の満点の星空が、一真とティアを包み込む。


 ひとしきり星空を堪能した後、ティアがその静寂の空間を破る。


「ねぇ………一真………バロールと戦うの??」


 星空を見上げながら静かに声を発したティアを、驚いた表情で一真が見た。


 しかしそれも一瞬で、一真はいつも通りの優しい笑顔をティアに向ける。


「何を言ってるの??オレは航兄みたいに強くないし、そもそもオレが戦場に出なきゃいけない程、ベルヘイム軍は人材不足じゃないよ。バロールは将軍や航兄………それにゼーク達が何とかしてくれる。オレ達はいつも通り、負傷兵達を治療して、1人でも多く助けれるように頑張らないとね!!」


 一真の答えに、星空を見ていたティアが一真に視線を移す。


「嘘つき………ううん、違うね………私には、本当の事が言えないだけか………信用されてないって、辛いね」


「そんな………ティアの事は信頼しているし、信用もしてる。てか、何でそんな事を??」


 ティアの言葉にティアの感情が詰まっている感じがして、一真の心は揺れた。


「今日、ゼークとエリサに聞いたの………レンヴァル村を救った英雄は一真だって………バロールと戦う切り札も一真だって………信じたくないけど、それならネイアさんが一真を必死に守った事が理解出来る…………一真がガイエン兄さんの剣を防げたのも分かる………」


「…………」


 ティアの言葉を聞きながら、一真は何も言わず満天の星空を再び見上げる。


「一真………私、怖いの………もう、一真に会えなくなる気がする………私の心が安らぐその笑顔を、二度と見れなくなりそうで不安なの!!」


 星空を見上げる一真に、ティアは思わず抱き着いた。


「お願い………バロールとは戦わないで!!また、好きな人を失いたくないの!!お願い………」


 胸の中で泣くティアを、一真はゆっくりと両腕で包み込む。


「ありがとう………ティア………そして、嘘をついててゴメン…………けど、バロールは多くの人々を苦しめてる。そして、そんな人々を解放する為に戦っているベルヘイム軍の皆も、バロールと戦えば全滅してしまうかもしれない。そんな多くの人達を助けられる可能性が、オレにはある。多くの人達の未来を守る………それがオレを助けてくれたネイアさんの願いだったから………だから戦う。でも、オレは生きて帰ってくるよ!!約束する!!」


 それまでの弱々しい一真からは想像出来ない力強さの篭った声に、ティアは悟った。


 一真の決心を変えるのは難しいと………


「一真………これを持っていってくれる??姉さんが死ぬ間際に私にくれたお守りなの………心を強くしてくれる、魔法のお守りなんだって!!」


 そう言うと、ティアは赤い宝石のついたペンダントを自分の首から外し、一真の首にかけた。


 服の中に隠れてて分からなかったが、その宝石は深紅の輝きを放っている。


 一真は首にかかったペンダントに輝く深紅の宝石を握りしめ、瞳に涙を溜めているティアの目を真っ直ぐ見つめた。


「ありがとう………大切な姉さんの形見を、オレの為に………心を強く、か………今のオレには、最高に力の出る贈物だよ。必ず………必ずティアに、このペンダントを返しに来るよ!!だから、安心して待っていてくれ!!」


 それを聞いたティアの瞳から、溜めていた涙が溢れ出る。


「約束だからね………絶対に、生きて帰ってきて!!今の優しい一真のままで、帰ってきてね!!」


 2人は、もう一度抱き合った。


 満天の星空と月明かりが、2人を優しく包み込んでいた………


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ