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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
孤独な旅立ち
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孤独な旅立ち

「………まぢかよ………将軍が不意打ちで勝てないなんて………」


 アルパスターの話を聞き終わり、航太は愕然とした。


「不本意な話だがな………航太は光の槍を躱すので精一杯だったと思うが、一真は躱すのと同時に攻撃した場所を特定し、攻撃に転じるまでを一連の動作で熟してしまう。ちなみに、一真の傷もその程度だったな………」


 アルパスターは、ブリューナクの光の槍でついた航太の左腕の傷を見る。


 航太も自分の傷を見ながら、一真の傷を思い出す。


「あの時………すでに将軍と戦ってたんだな………」


「てゆーか、一真がアスナ様や7国の騎士と旅してたの??それにアスナ様と同じ凰の目って………半信半疑だったけど、本当だったなんて………てか、ヤバイ!!私、智美がロキに捕まった時の一真の態度に嫌悪感を覚えてたから、態度に出ちゃってたかも??嫌われてないかなぁ………」


 過去の記憶を呼び起こし、噛み締めるように呟いた航太の言葉に覆い被せるように、ゼークが大声を出す。


「そういえば、ゼークはアスナに憧れてたな。一真の力はアスナに匹敵すると思うぞ」


「ひゃ~~、ヤバイ!!これから一真と話す時、緊張しちゃいそう☆」


 アルパスターの言葉に先程までの深刻な表情から一変し、ゼークが手を胸に当てて跳びはねる。


「これだから女は………だがよ、いくら戦っちゃいけないって言われてたとしても、智美が捕まった時の態度は余計に許せねーし、ネイアさんを守れたのに守らなかったのは納得できねー!!」


 強いなら、それは大切な人を守る為に………助ける為に使うべきだろう………そう思うと、航太は叫ばずにいられなった。


 いくら存在をバレないようにして、バロールに苦しめられている人々を救い、ベルヘイム軍の全滅を避ける為と言っても、大切な人を見捨てるような………守る力があるのに救いの手を差し伸べなかった一真に余計腹が立つ。


「航太………お前は義理とは言え一真の兄貴だろ………智美が捕まって、一真が平気な顔してたと思ってるのか??ネイアが死んだ時、一真が何も感じなかったと思うのか??一真はそんな人間か??」


 苛立っていた航太だったが、アルパスターの言葉に頭に上っていた血が落ちていき、冷静になる。


(確かに、一真は大切な人を失って平気な人間じゃない。昔、智美が転んで血が少し出ただけで大騒ぎしてたっけな………それに、看護師を目指していたぐらいだ。命の重さが分からない筈がない。1人だろうが100人だろうが、アイツなら全ての命を助けに行きそうだしな………)


 口元が少し緩んだ航太の表情を確認して、アルパスターが言葉を続けた。


「フェルグス相手にお前が苦戦してると聞けば、飛び出そうとする。智美が捕まったら、助けに行こうとする。ネイアが死んだ後、必死にエリサが力を使うのを抑えた………オレ達が必死に一真を止めた。だが、助けられる力を持ってるのに助けられない者のもどかしい気持ち、お前に分かるか??」


 確かに………大好きな人達が窮地に陥っている時、自分が行けば助けられるのが確実なのに行けないと考えると………


 考えた航太だったが、結局は助けに行くという答えしか出せない。


 そんな時に、じっと待つなんて不可能だ。


「一真は………どうして耐えれていたんだ??オレなんかより、何倍も優しい一真が………」


「一真は耐えれていた訳ではないんだ………航太がフェルグスと戦って苦戦してると伝令が来た時、一真はオレを薙ぎ倒しても助けに行くと言って飛び出そうとした。だからあの時、総大将であるオレがお前の救出に前線に出た。一真が自分を責めて泣いているところを見たのは、1回2回どころじゃない。一真は常に歯痒い思いをしながら………見過ごさなければいけない自分を責めながら、それでも最後は必ず全体を考えて、自分の気持ちを抑えてくれていたんだ………」


 航太は、アルパスターの説明で全てを理解した。


 バロールを叩かなければ、アルパスター隊の全滅は免れない。


 更に、バロールを生かしておけば魔眼による恐怖は人々を苦しみ続ける。


 だから一真は、苦しみながらもバロールを倒す方を選んだのだろう。


 唯1人、バロールと戦える者として………


 そう、唯1人………他の件は、他の誰かが代われる事だ。


 だが、バロールに警戒されずに近付き、魔眼の相手が出来るのは一真だけである。


(一真………航太や絵美………それに、私にも嫌な態度をされて………周りの兵にも酷い事を言われてたのに………それでも、そんな人達を守る為に自分を押し殺してたなんて………ホワイト・ティアラ隊の皆は、きっと一真の本質を見抜いていたから、事実を知らなくても一真を守ろうと必死だったんだ………それに比べて、私は………なんて愚かなんだろう………)


 アルパスターが一真の事を話す度、ゼークも自分の心を痛めていた。


「将軍………一真が強いのも、今まで力を隠してた理由も分かった。だが、そうまでバロールやヨトゥンに力を見せなかったって事は、一真を1人で城に侵入させる気か??」


 航太の言葉に、ゼークは思い出してハッとする。


 そう………自分は、その真実を聞きに来たのだ。


 航太とゼークの睨むような視線に、アルパスターは2人の顔から視線を逸らす。


「一真の動きに合わせて兵を動かしたら、城に入る前にヨトゥンに気付かれる。当然、Myth Knightであるお前やオレが護衛に付けば、不信に思われ同じ結果になるだろう………一真には、単身で乗り込んでもらうしかない………」


「ふざけんな!!」


 航太は、怒りの咆哮をアルパスターにぶつけた。


 敵の城内に、たった1人で乗り込む………


 敵の1部隊に1人で突っ込むのだって自殺行為なのに、敵の城に忍び込んで大将の首級を取ってくる………


 城内のヨトゥン兵の数は、万は超えるだろう。


 この話だけ聞けば、ただの自殺志願者だ。


「航太の怒りは、もっともよ!!将軍、自分の言ってる事が分かってる??一真に死ねって言ってるのと同じじゃない!!今までズット辛い思いさせて………最後はそれ??あんまりだよ!!」


 ゼークの瞳には、涙が溜まり始める。


 しかし、そんなゼークをアルパスターは見ようともせず、航太に歩み寄った。


「航太………ユングヴィ王子をバロールと戦わせると言った時、ユングヴィ王子を単身で城に向かわせるつもりだっただろ??義弟以外なら、誰が犠牲になろうが構わないって事か??」


 航太は唇を噛みながら、地面を蹴る。


 アルパスターの言ってる事は、確かに間違っていない。


 バロールに魔眼がある以上、バロールに戦いを挑むのは魔眼に耐えれる者だけになる。


 それ以外の者が行っても、アルパスターの言うように城に侵入前に気付かれれば魔眼によって全滅。


 城に侵入後も、それは変わらないだろう。


 結局のところ、現実的には一真しかバロールに近付ける者はいない。


 ユングヴィ王子をバロールにぶつけると言った時、確かに航太はユングヴィ王子を単身で城に向かわせるしかないと思っていた。


「一真には、不死の身体に凰の目もある。一真が城に入る直前に兵を動かし、ヨトゥン兵の目を我々に向けさせるんだ。魔眼の効果範囲外で待機し、一真が城に侵入したら直ぐに進軍する。我々は一真を信じて、フォローするんだ!!」


 アルパスターの力強い言葉に、航太は諦めて頷く。


「ちょっと!!航太いいの??」


「もう、一真も了承済みなんだろ………それにバロールは、一真を救った7国の騎士達の(かたき)なんだろ??バロールに勝つ事も、この世界に来た理由の1つに違いない。将軍の言うように、出来る範囲で一真をフォローするしかない………だが………」


 慌てて問いかけるゼークに小さい声で航太は応えると、アルパスターに背を向けて歩き出した。


(すまない航太………強すぎる力には、代償が伴う。ヨトゥン兵より、内なる力に一真が勝てるか………)


 アルパスターは航太の後ろ姿を見て、心の中で謝罪の言葉を呟いた。

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