遠征軍の運命2
「将軍…………この戦いは、ベルヘイム遠征軍の犠牲で姫を救出する事が目的だった…………王子がバロールと戦い、将軍が遠距離攻撃をしかける。他の兵は全て、魔眼の囮に使われる筈だった…………」
「ん??ちょっと待てよ!!それじゃあ、戦いが終わった後の部隊の生存者って、将軍と王子だけって事になるじゃねーか!!それを覚悟して、皆は戦ってたってのかよ!!」
静かに話すゼークとは対照的に、航太は感情を剥き出しにした。
「その通りだ…………そもそも、姫を救うには他に方法が無い。魔眼に耐えれる者と牽制出来る者…………だが、それだけではバロールに勝てない。王子がバロールと戦う舞台を整える為、戦っている間に魔眼の意識を逸らす為…………兵の犠牲は必要だった…………」
「姫がいないとロキを倒せないってヤツだろ??だから、バロールを倒して姫を救う必要がある。ケド、この話は他の兵は知らない筈だ!!そんな兵達が全滅すると分かってて、この作戦を立案したのかよ………」
ロキを倒す為に、姫とミステルテインが必要なのは充分承知している。
しかしアルパスターの話だと、兵を魔眼に晒すような作戦で姫を救出しようとしているように聞こえた。
魔眼で見られた人間は、簡単に命を落としてしまうのに…………
「そう…………この部隊は死んでも問題ない人員で構成されているの…………ランカスト将軍は人望の厚い騎士だけど元は騎士の家系じゃないし、私は7国の騎士の末裔だけど神剣が使えない…………他の兵達も、腕は立つけど性格に問題があったり…………この部隊は、王子と将軍の力を最大限に発揮させる為の人柱だった…………私は、それでもいいと思ってた。誰かが成さなければいけない事だったから…………」
ゼークの静かで悲しい言葉を聞いて、航太は出そうになった否定的な言葉を飲み込んだ。
「でも智美がロキに捕まった辺りから、部隊を生存させるように変更していった…………純正な騎士であるオルフェ将軍の参戦や、ノア家のテューネまで戦場に残った。ランカスト将軍の救出に必要だったとしても、その作戦が終わったら、普通は国に返す…………2人とも、これからのベルヘイムには必要な人材だから…………」
「つまり、アルパスター将軍とユングヴィ王子を一瞬で倒してしまうって奴がバロールを退治してくれるから、部隊が全滅しないで済む訳だ。兵が全滅するくらいなら、そいつにバロールを倒して貰うのが1番じゃねーか」
航太は、それしかないと思った。
王子とバロールを戦わせるなら、今話をしたように犠牲が沢山でる。
バロールの魔眼に耐えられる王子を、そもそもヨトゥン軍が簡単に城に入れるとも思えない。
だとすれば、ヨトゥンに力を見せてない謎の人物が戦うのが最善の策だと誰もが思うだろう。
しかし、ゼークは首を横に振った。
「航太、いいの??それが大切な義理の弟クンでも…………」
「な…………んだっ…………て??」
ゼークの思いがけない回答に、航太は言葉を失う。
「そうでしょ、アルパスター将軍??一真が凰の目を持っていて、レンヴァル村も救った!!ネイアさんが命懸けで守ったのも、医療班にいたのも、ヨトゥン軍に悟られないように力を隠して…………全部バロールと戦わせる為だったんでしょ??」
航太は、ゼークの声が遠くに感じた。
まるで、話が入ってこない。
一真がバロールと戦う??
いやいや、戦える筈がない…………人を殴った事も無い優しい人間が、人を簡単に殺せるバロールと戦うなんて……………
「いや…………ちょっと待てよ………レンヴァル村を救ったのは、オレだろ??エアの剣は、オレにしか使えない筈だ…………一真がレンヴァル村を救える筈が無い…………」
朦朧と話す航太の肩を、ゼークが優しく抱きしめた。
「凰の目が発動中は、全ての神剣・神槍が使えるようになる。エアの剣も例外じゃない。一真の持っているグラムも、本来は航太にしか使えない筈なんだ…………エアの剣とグラムは、元々一つの剣なのだ。全ての武器の頂点に立つ剣…………Sword of Victoryという名のな」
アルパスターの説明も、航太の耳には入って来ない。
「昔から…………一真の強いトコなんて、見た事がない…………強い筈はないんだ…………」
航太は、小さな子供の頃を…………幼少期の頃を思い出す。
一緒に遊んだ記憶は沢山ある……………しかし、一真と喧嘩をした記憶は勿論、強気で言い返された事も無かった。
そんな男が実は強くて、たった今自分を負かした2人より圧倒的に強いと言われても、全く理解出来ない。
「以前、ロキに殺された神の話をしたが、覚えているか??その時の神…………バルドルの生まれ変わりが、一真なんだ。生まれ変わった身体は7国の騎士達に預けられて、そして邪龍ファブニールの血を浴びてしまった…………」
「ファブニールの血は、浴びたり飲んだ者に死を与えると言われている。7国の騎士であるアスナは、トライデントの治癒の力で一命を取り留めた。ミルティはファブニールの血を体内に入れたが、ノア家の治癒の力で助かった。そして一真だが………ファブニールの血を浴びたのは、生まれ変わった直後の可能性がある。その治癒過程で何かのトラブルがあり、航太の家に養子として来たのだろう…………」
アルパスターとユングヴィ王子の話を聞きながらも、航太には何を言っているのか理解出来なかった。
この人達は、何を言っているのだろう…………
一真が神の生まれ変わりで、自分と出会う前に7国の騎士と旅をしていて、邪龍だかの血を浴びて…………
いやいや…………この世界に来る前も来た後も、一真は一真だ…………だが、あの優しさは神と言えば神らしいのか??
ゼークに抱かれながら、航太は余計にパニックになっていた。
「航太………君達が始めて我々と出会った日、一真が左腕を怪我していたの…………覚えているか??」
そんな航太を見て、アルパスターは優しく問う。
航太はその時の事を思い出し、少し考えてから頷く。
「その時の話をしよう…………それで、その不安や混乱が消えるかは分からないが…………」
アルパスターは、そう言うと話始めた………………




