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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
孤独な旅立ち
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そして温泉へ……

「もーエリサったら、本気で叩くんだもん…………痛かったー」


「だから謝ってるでしょ??あの時は、まだ感情が高ぶってたから…………一真から、ネイアさんや私達を助ける為に必死だったのは伝わってきたし……………」


 ゼークは叩かれた頬を摩りながら、当時の事を思い出していた…………



 幕舎内に乾いた音が響き渡り、周囲のザワついていた音が静まり返る。


 ゼーク頬を叩いたのは、哀しみと怒りと…………複雑な表情をしたエリサだった。


「ゼーク、一真がどんな思いで戦わなかったか知ってる!!ネイアさんが刺された瞬間、どんな表情してたか知ってる??自分の出来る精一杯で私達を守ろうとしてくれた気持ち…………分かるの??」


 一真が戦う決意を見せた時、ネイアは必死に止めて自らガイエンの刃の前に飛び出したように見えた……………その時の事を思い出したのだろうか……………最後はゼークの肩を掴みながら、もたれ掛かるようにエリサは泣き崩れる。


 頬を赤く染めたゼークは、振り上げた拳の終着点が分からずに立ち尽くした。


 ただエリサの紡いだ言葉の重みが、その真実を物語っている。


 その沈黙を破ったのは、ゼークと同じ疑問を持った航太だった。


「一真が……………希望??将軍、何を言ってるんだ??」


 航太は立ち尽くすゼークを見ながら、一真には何か秘密があるのではないかと、直感的に感じる。


 義理の弟であり、ずっと一緒に生活していたが、何かを隠しているようには見えなかった。


 しかし…………である。


 日常生活を送っている時は気付かなかったが、神話の世界があるという確信や、夜遅くに1人で出かける事や、1人の筈の部屋で会話のようなモノが聞こえた事や…………専門学生ぐらいの歳であれば夜出かける事も普通だし、携帯のハンズフリーなら部屋から会話が聞こえてきても不思議ではない。


 それでも、一度気になると全てが怪しく感じてしまう。


 問い掛ける航太の視線を受け流しながらアルパスターは首を振り、もはや何も話すつもりはないと口を噤む。


(一体…………何なんだ??また隠し事かよ………姫や王子の時といい、隠し事多過ぎだぜ!!)


 航太は釈然としない気持ちを抱え、アルパスターへの視線に敵意にも似た感情が篭ってしまう。


「おいおい……………何だ、この雰囲気は??今は、ネイアとの別れの時だぜ………………仲間同士で言い争ってどうするんだ!!ネイアに安心して旅立ってもらおうって気持ちには、ならないのか??」


 オルフェの呆れた感情が伝わり、言い争っていた面子は恥ずかしそうに俯く。


「オルフェの言う通りだな…………皆、すまない。色々と聞きたい事はあるかもしれないが…………今はネイアを静かに送りたい……………」


 確かに、このままではネイアは安心して旅立てない…………特にホワイト・ティアラ隊の面々は、ネイアを大切に送り出したかった。


 軽い葬礼の後、ネイアの身体は焔に包まれる。


 この世界では大切な人の魂を受け継ぐ為に、関係の深い人達が炎の魔法で火葬にするのが慣わしであった。


 エリサやアルパスターは、涙を流しながら炎の魔法を唱える。


 ホワイト・ティアラ隊の面々やゼークなど、この儀式に多くの人々が参加した。


 航太ら魔法を使えない者達は、手を合わせて目を閉じる。


 参加している多くの人達の瞳から、涙が零れていた。


「将軍…………エリサ…………こんな時に感情的になってしまって、申し訳ありませんでした…………」


 小さくなっていく焔で瞳を赤く染めながら、ゼークは謝罪の言葉を述べる。


 疑問はあるが、何もこんな時に言うべきではなかった……………


「なぁ、ゼーク。この近くの村には、温泉があるそうだ…………女性陣を連れて、少し疲れをとってきてくれ。我が軍は村を囲むように布陣してるから安全だし、英雄ゲイン・ドーマが守り続けた村だ。人間を温かく迎えてくれるだろう………」


 ネイアに燈された焔が消えかけた頃、謝罪してきたゼークにアルパスターが言う。


「こんな時に……………温泉ですか??バロールとの決戦も近いし、遊んでいる場合では…………」


「オレも…………そう思っていたんだがな…………これは、ネイアの提案でもあったんだ。智美が捕虜になったり、テューネがデュランダルを托されたり…………そしてゼーク、お前もフェルグスと戦う事になったりした。辛い事がありすぎたし、男性が多いのが当たり前の軍で、数少ない女性達で結束を固めたいって言ってたんだ。医療班、実践部隊関係なく…………な」


 アルパスターの言葉からネイアが話している姿が想像出来て、その優しさを改めてゼークは感じる。


 アルパスターは、精神的支柱だったネイアの死もあり、女性陣の体力も精神力も限界がにきていると感じていた。


「将軍……………心遣い、ありがとうございます!!皆を誘ってみます!!」


 ゼークはそれまでの険しい表情ではなく、笑顔をアルパスターに向けていた。


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