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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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ゼークの怒り

 雨でぬかるんだ道を、航太達は本隊と合流する為に歩いていた。


(智美も言ってたけど、ただヨトゥンと戦ってるだけじゃ戦争は終わらない気がするな……………悲しみが増えていくだけだ!!けど、どうすればいい??)


 航太は考えながら顔を上げると、前を歩くネイアを背負った一真とティアが視線に入る。


「一真さん…………さっきは取り乱しちゃって…………ごめんなさい…………」


 少し頬を赤らめて声をかけてきたティアに、一真は笑顔を向けた。


「色々な事があったんだから、泣きたくもなるよ………………気にしないで。それよりティア、ルナがいる時は呼び捨てなのに、いなくなると【さん】が付くね」


 優しい笑顔を向けてくれる一真に、ティアが「あっ」と両手で口を隠す。


「【さん】なんて付けないでイイよ。普段から呼び捨てにしてね」


 一真の柔らかい物言いに、ティアは嬉しそうに頷く。


(おーおー、あんな事あった後なのに、イイ雰囲気作りやがって…………)


 航太は戦争についての思考を止め、大きく息を吐くと2人を見ながら温かい空気を楽しむ事にした。


(ネイアさん……………泣いてるより、コッチの方がいいよな…………恨みを晴らすとか、そんな事は出来ないけど、この戦争を終わらせる為に努力するよ。一真を助けてくれて、ありがとうございました…………)


 航太は小雨の降る空を仰ぎ、感謝の気持ちと決意を心に刻む。


 航太の決意に呼応するように空は少しずつ青が多くなっていき、雨が止んでいく。


 少しずつ晴れていく空のように、航太の戦争に対する思いも晴れていく感じがした。


(悪いのはガイエンでも、ヨトゥン兵でもねぇ…………戦争を始めた奴………戦争で利益を得ている奴………戦争を拡大しようとしてる奴が悪いんだ………そいつらを倒せば戦争は終わる…………そいつらは、オレが必ず討つ!!)


 航太はエアの剣…………神剣を使える者として、必ずやり遂げなければいけないと思う。


 ガイエンもそうだったが、個人個人であれば分かり合う事が出来るかもしれない。


 だが、そんな個人の恨みや感情を操作して、戦争を拡大させている奴が必ずいる。


 自分達のいた世界の戦争の無い日常……………それが幸せな事だったんだと、航太は改めて思い知らされた。


 そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にかベルヘイム軍の幕舎の近くまで来ている事に気付く。


 ネイアがガイエンに殺された事は、アルパスターの耳に届いていなかった。


「ネイア…………まさかお前が…………」


 アルパスターはネイアの亡骸を見て、瞳に涙を溜めながら悲痛の声を上げる。


 ネイアの亡骸を優しく地面に下ろした一真は、アルパスターに戦闘の一部始終をアルパスターに伝えた。


「ネイア……………一真を守ってくれて、ありがとう…………よく頑張ってくれた………お前の命は無駄にしないぞ…………」


 アルパスターは流れそうになる涙を必死に堪えながら、ネイアの亡骸を抱きしめる。


 悲壮な面持ちのアルパスターを見て、航太達は何も言えずにアルパスターとネイアの別れを見守った。


 しかしゼークだけは、普段の優しい表情からは想像も出来ない程の怒りの形相で一真を睨んでいる。


「ネイア…………お前が命を賭けて守った一真は、我々の期待に応えてくれる筈だ………俺もその為に、全力で戦い抜く!!彼は、私達の希望なのだから…………」


 ネイアの亡骸ゆっくりと抱き上げながら、アルパスターは決意を語った。


 まるでアルパスターが、自分自身を鼓舞している様にも見える。


 その姿を見ていたゼークは、怒りが頂点に達していた。


 あの夜…………レンヴァル村がスリヴァルディに襲われていた時に、1人で村を助けに行ったのは、フードを被ってはいたが間違いなく一真だったはず。


 ネイアに口止めされていてゼークは誰にも話していなかったが、たった1人でヨトゥン軍とスリヴァルディを打ち倒して、村を救った英雄は一真だ。


 それに、フェルグスのゲッシュを知っているゼークには腑に落ちない点がもう1つある。


 フェルグスの母がヨトゥン側の人質になっていたならば、フェルグスはゲッシュの為にスリヴァルディに逆らえない筈なのだ。


(つまり一真は、フェルグスとスリヴァルディと村を襲える程のヨトゥン兵を相手に、無傷で倒して来た事になる…………私と航太が2人がかりでも、フェルグスとスリヴァルディ相手に手も足も出なかったのに………)


 その2人相手に無傷で勝てる程の実力者ならば、ガイエン相手にネイアを守る事ぐらい容易のはず…………


 そう思ったゼークは、無意識に一真の前に歩み寄る。


 そして、ゼークは怒りの形相のまま、一真の襟首を掴んでいた。


「一真…………あなた力があるのに、なんでネイアさんを守ってくれなかったの!!あなたなら……………」


「黙れ!!ゼーク!!」


 予想もしてなかったアルパスターの大声に、ゼークは言いかけた言葉を飲み込む。


 バシーン!!


 更に人の頬を叩く乾いた音が、テント内に響き渡った…………

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