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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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過ちと許しと戻れぬ心

「ガイエン…………オレ達が戦う理由は、無くなったんじゃないか??今度は、人の為……………戦争を終わらせる為に、その力を使うってのはどうだ??」


 項垂れるガイエンに、航太は手を差し出した。


「ふざけないで!!私は許せない!!」


 エリサの声が林の木々を揺らす勢いで響き渡り、航太は差し出した手を思わず引っ込める。


「航太………冗談でしょ??ガイエンを許すなんて!!コイツはネイアさんを殺したんだよ…………ティアだって、旦那を…………お姉さんを殺されてるんだよ??許せる筈ない!!」


 声を荒げるエリサの瞳は、怒りと憎しみを訴えていた。


 ガイエンがしてきた事を考えれば、エリサの言葉は当然だろう。


 そんなエリサに、ティアがゆっくりと近付く。


「エリサ………………私も記憶が戻るまではガイエン兄さんが怖かったし、憎かった。でも、憎しみ合うだけじゃ戦争は終わらない……………どこかで憎しみを許して、分かり合う努力もしないといけないと思うの…………私達がガイエン兄さんを殺したら、今度はガイエン兄さんを慕う人達が私達に復讐しに来る…………どこかで、この連鎖を断ち切らなきゃ…………」


 ティアは赤く輝くペンダントを服の上から握り締め、そして一真を見た。


「??」


 一真は何故ティアに見られたか分からずに、首を傾げる。


「殺戮を繰り返した人間を許せる訳??大切な人を目の前で殺されて…………それでも許せって言うの!!」


 エリサは、泣きながら叫んだ。


 一真は、エリサの感情が人としては当然のモノだろうと思う。


 それでも……………


 一真はティアの胸元で…………服の下で仄かに輝くペンダントの発する光に目を向けながら口を開いた。


「人には、それぞれ過去がある。その過程で人生を歪められて、道を外してしまう人がいるかもしれない。でも、その人が心から正しい道に戻ろうとした時……………道を誤ったと認めた時は、受け入れてあげなきゃいけないんじゃないかな??」


 ティア言葉を肯定するように、一真は自分の考えをエリサに伝える。


「でもっ…………!!」


 エリサが言葉を発しようとした、その時!!


 ガキィィィィ!!


 ガイエンがエリサに斬りかかり、辛うじて航太がその斬撃を受け止めていた。


「ガイエン兄さん!!何してるの??」


 ティアは信じれない表情で、ガイエンを見つめる。


「つくづくと…………つくづくと甘い奴等だな!!今さら人間側につけるか!!オレは…………ヨトゥンとして生きてく道を、自ら選んだんだ!!それに勘違いしているようだが、貴様達の命を握っているのは、この俺だっ!!許されようが許されまいが、俺には何1つ関係ないっ!!」


 ガイエンがヘルギを持つ手に力を込めると、再び紅い光が刀身から溢れ出す。


「な…………今までのティアさんの言葉を聞いてなかったのか??ティアさんは親父と旦那と姉と…………家族を失っても、お前を受け入れようとしてんだぞ!!なんで分からない!!」


 叫ぶ航太の熱意に、エアの剣が反応する。


「ぐおっっっ!!」


 凄まじい勢いの突風が、ガイエンの体を…………ヘルギから発する光さえも吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたガイエンは、地面に叩きつけられた身体を起こそうともせず両手で顔を覆う。


「ティアの話を聞いて…………事実がどこにあるかは理解したさ……………だが、バロール様はオレの第2の父親だ…………スルト殿は剣の師匠…………もう後戻りは出来ないんだ!!俺は…………俺はっ!!」


 ガイエンは震えた声で、魂が震えるままに叫んでいた。


 もしかしたら、泣いているのかもしれない……………


 その涙を見せない為に、顔を覆っているのかもしれない…………


 しかし、ガイエンの遣り切れない想いは、航太達に伝わった。


 誰も声を発する事も出来ず、静寂の時が流れる。


 その静寂を破ったのは、ヨトゥン軍の敗走の音だった。


 航太の隊にアルパスターの隊が合流し、ガイエン隊を押し返し始めている。


「ちっ!!」


 ガイエンは立ち上がると、航太達に背を向けた。


「ここは…………引かせてもらう。1人で少し考えてみるさ。ティア、今更謝っても遅いが…………エストも俺も、父を失って気が動転していた。立ち止まって考える余裕さえあれば……………な」


 ガイエンはそう独り言の様に呟くと、他のヨトゥン兵に合流し走り去っていく。


「ガイエン兄さん…………」


 呟くティアに、一真がその肩を抱いた。


「ティアの想い……………きっと伝わったよ。今は気持ちの整理が必要なんだと思う」


 優しい一真の声に、今まで堪えていた物が溢れ出す。


 ティアは思わず一真に抱きつき、声を漏らしながら涙を流した。


「ネイア姉ちゃん…………動かなくなっちゃった………」


 ネイアの側を離れなかったルナの赤く腫れ上がった目から、再び一筋の涙が頬を流れる。


 そんなルナの小さな体を、エリサが後ろから包み込むように抱きしめた。


「ネイア姉さんはね……………天使になったんだよ。人には見えないけど……………大空から私達を見守ってくれるようになったの。だからルナ……………悲しまなくていいんだよ……………」


 そう言うエリサの声は震え、瞳からは大粒の涙が流れ続ける。


「エリサ姉ちゃん………………変なの~~。エリサ姉ちゃんだって…………泣いてるよ…………」


 ルナが涙を流しながら笑い、エリサにしがみつく。


「だって……………だって……………」


 エリサは思わず、ルナの体を抱く腕に力を込める。


 込み上げてくる思いが、エリサの言葉を封じ込めていた。


「エリサ姉ちゃん……痛いよ……」


 そんな2人の遣り取りを見て、航太も胸が痛くなっていくのを感じる。


 ポツリ…………ポツリ…………


 天も涙を流したのだろうか…………


 小粒の雨が降り出した。


「行こう…………アルパスター将軍に報告しなきゃ……………ネイアさんは、アルパスター将軍にとっても大事な人だから……………」


 ネイアを背負って歩き出した一真の言葉に、エリサとルナが力無く立ち上がる。


 小雨の中を、無言で歩く航太達。


 航太は歩きながら、戦争って何だろう………………と、真剣に考え始めていた…………

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