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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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血に染まる白冠4

「カズ兄ちゃんと、ネイア姉ちゃんを虐めちゃ駄目!!」


 ネイアと一真の前に、両手を広げたルナが割って入ってきた。


「なんだ??」


 ネイアに向けて突っ込んでいたガイエンは、思わずその動きを止める。


 ガイエンには、ルナが両手を広げて2人を護ろうとする姿が、かつて自分の両親を庇おうとしたティアの姿と重なって見えていた。


「ルナ!!戻って来なさい!!」


 ルナを助ける為に大声を上げながら向かって来るティアに、ガイエンが気付く。


「ティア…………良かった…………君に会う為に、わざわざ出向いて来たんだ…………」


 ガイエンは、ネイアやルナの事を忘れたかのようにティアに近付いていった。


「いや……………来ないで……………」


「ちょっと、ティア姉ちゃんも虐めたら駄目だよ!!」


 ルナが恐怖で無意識に後づさりするティアの前に飛び出し、再び両手を広げてガイエンの前に立ち塞がる。


 ガイエンはルナの姿が目に入っていないのか、気にしていないのか…………ティアのみを視野に入れて、どんどん進んで行く。


「ティア、オレの話を聞いてくれ!!あの時の君は幼くて、事情が分からなかったと思うが、今なら人間の醜さに気付ける筈だ!!」


「いやっ!!昔の事なんて覚えてない。やっぱり…………貴方と話すのなんか無理!!」


 ガイエンは必死に語りかけるが、ティアは首を横に振りながらガイエンとの距離をとる。


「忘れてしまっているかもしれないが、君はオレの両親を唯一庇ってくれた。あの時の事、思い出してくれ!!人というのは、自分が危機に陥った時、仲間や恩人も平気で裏切れる…………そんな中にいたら、君も不幸になる!!」


 ガイエンは、かつての幼なじみで自ら殺してしまった…………大好きだったティアの姉に抱いていた、人を好きになる感情を取り戻していた。


 先の戦闘でティアの胸元に輝く赤いペンダントの光を浴びてから、自らの感情が変化した事にガイエンは少し戸惑いもある。


 その感情の対象が今はティアであり、自らの戸惑いを抑える為にも一緒にいたいと思う。


 だからこそ、ティアに何とか話を聞いてもらおうと必死のガイエンは、ここが戦場という事を忘れていた。


「ティアとルナから離れなさい!!」


 ティアしか目に入ってないガイエンに向かって、再びエリサの放った火の玉が襲う!!


「くをっ!!」


 反射神経の良さで火の玉を辛うじて弾いたガイエンだが、左腕に火の玉を受けてしまう。


 皮膚の焼ける嫌な臭いが、辺りに充満した。


「くそっ!!やはり貴様らは全滅させないと、ゆっくり話もできん!!ティア、少し待っていてくれ。直ぐに終わらせる」


 ガイエンは再び一真達の方を向き、剣を構える。


「オレが足止めする!!皆、逃げてくれ!!もう少し粘れば、本隊が異変に気付いて援軍を送ってくれる筈だ!!」 


「貴様如きに、オレの足止めが出来ると思っているのか??だが、まぁいい。望み通り、貴様を先に殺してやろう!!」


 ネイアとエリサの前に出て吠えた一真に狙いを定め、ガイエンは一気に間合いを詰める!!


 一真の瞳が薄く…………徐々に黒から赤に変化しようとした、正にその時!!


 ドンっ!!


 突然横から押され、一真はバランスを崩す。


「一真は、絶対に戦っちゃ駄目!!逃げて!!」


 一真を押したのは……………ネイアだった…………


 一真を押し出した事で、ガイエンの剣はネイアに向かって突き出される…………


 グサッ…………


 まるでスローモーションのように…………ネイアの胸に、ヘルギが押し込まれていく…………


 そして嫌な音と共に、一瞬の静寂が訪れる…………


 その静寂を破るかのように、ポチャッ………ポチャッ………と水滴が地面に落ちる音が、定期的に聞こえ始めた。


 ヘルギを伝ってネイアの胸から血液が流れ落ち、その度に地面を赤く染めていく。


「なんで…………ネイアさん………なんで…………なんで………なんで!!」


 真っ先に声を上げた一真が、最後は叫びのような声を発した。


「きゃあああぁぁぁ!!!!」


 一真の声に呼応するように、ティアが絶叫する。


 ガイエンがネイアの胸から剣を引き抜くと、その身体は糸の切れた人形のように、力なく地面に崩れ落ちた。


 その身体を抱きかかえ、一真はネイアの頭を支えて横にする。


「ネイアさん…………どうして…………オレなら戦えた…………皆を救う事が出来たんだ!!」


「あなたの事は……………命を懸けて守るって…………約束…………したでしょ………私の事は…………置いて…………逃げて……………私達の世界………を…………お願い…………します…………バルドル…………さま…………」


 腕も瞼も動かせない…………呼吸をするのも辛いであろう程の身体で搾り出したその言葉に、一真は驚く。


 自分がバルドルの生まれ変わりと知っていた事も、それを知っていても1人の人間として接してくれていたも…………


「オレの本名は、バルデルスだよ。もう、神の時の名前は捨てた。でもネイアさん、約束する…………いや、元神として誓うよ。この世界は、消滅させない…………」


 ネイアの耳に届いているかは分からない…………それでも、一真は自分の秘密と覚悟を伝えたかった。


 誰の耳にも聞き取れない程の小さな声で発した言葉は、それでもネイアには届いたのだろうか…………最後に柔らかな微笑みを一真に送る。


 そして、その瞳が閉じていく…………


「そんな…………ネイア姉ちゃん…………目を開けてよ…………立ち上がってよー!!」


 ルナが崩れ落ちたネイアに近付き体を揺すり泣き叫ぶが、もはや全く動かない。


 ネイアの形見となってしまった細身の剣を握りしめ…………懐にしまった副隊長任命の時にお祝いで貰ったナイフを触りながら、一真はガイエンを睨んだ。


 そんな一真の前に、エリサが踊り出る。


「一真、逃げて!!私には、隊長があなたを庇った意味は分からない。でも、隊長の…………ネイアさんの意思は、残った私達が繋げてみせる!!」


 気丈に叫ぶエリサの瞳からは、涸れる事のない涙が流れていく。


 しかしその瞳からは、ガイエンと刺し違えても構わない…………そんな覚悟が感じられた…………

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