血に染まる白冠3
「やはり、この部隊にいたか…………こいつらは、戦闘部隊じゃない。全員生け捕りにしろ!!」
ホワイト・ティアラ隊の後方より出てきたのはガイエン部隊の本隊だったが、隊長であるガイエンと精鋭数名は更に林の中を馬で駆け抜け、馬で逃げるエリサ達の前に突然現れた。
エリサの馬は、ティアとルナの2人を追加で乗せている為に馬足は落ちている。
それでも林の中を普通に走る馬に追い付く事は、並大抵の事ではない。
ガイエンの運動能力は、普通の人間を遥かに凌駕していた。
「おい貴様、ティアを置いて行け。そうすれば、ガキとお前だけは逃がしてやってもいいぞ」
エリサの馬の前に立ち塞がったガイエンは、ティアを確認すると少し安堵した表情を浮かべる。
「エリサ……………私を下ろして…………このままじゃ、皆捕まる。誰かが助けを呼びに行かないと…………」
言葉とは裏腹に、ティアは震える手でエリサの背中の部分の服をギュッと摘む。
「ティア……………あんな殺人鬼に捕まらせる訳にはいかないわ…………なんとか切り抜けて、逃げる手段を考えましょ」
ガイエンを睨みながらエリサは考えを廻らせるが、良い考えは浮かんで来ない。
ガイエンと普通に戦うだけでも勝機は薄いのに、ヘルギという厄介な神剣も持っている。
ヘルギの力を使われたら、恐怖で逃げるどころではなくなってしまう。
「おじさん!!格好を付けても、女の人ばっかり狙ってる時点でダサイわよ!!ティア姉ちゃんと話したいなら、堂々と前から来なさいよ!!」
エリサの前に座らせていたルナが、ガイエンを指差しながら大声を出した。
若干的外れな事を言っているが、ガイエンの気を逸らすには充分である。
その隙に、エリサは火の魔法をガイエンに浴びせた。
エリサは、一真から海辺の花火で使う予定だったライターを貰っている。
その為、火を扱う魔法なら準備なしで使えるのだ。
魔法を使うには、その拠り所となるアイテムが必要である。
例えば火の魔法なら、松明の火を使うのが一般的であるが、今回は松明が消える心配をしたり火をつけたりする手間がない。
ノーモーションで繰り出された火の魔法に、ガイエンの反応は遅れる。
それでも……………辛うじてではあるが、その火の魔法を間一髪でガイエンは避けた。
「ちっ!!どんなカラクリか知らないが、何も無くても魔法が使えるのか??だが、あまり舐めるなよ!!」
ガイエンはヘルギを構えると、エリサ目掛けて突っ込む。
その勢いと迫力に、エリサは思わず目を瞑る。
「ひゃあっ!!」
目を閉じて暗闇の中、突然横から衝撃が走り、エリサは馬から転げ落ちた。
その直後……………
ガァキキキキィィィィン!!
激しい金属音が、耳に飛び込んで来る。
「うわぁぁぁっと!!」
そして、なんとも気の抜けた男の声…………
「エリサ、大丈夫??」
倒れたエリサに、ネイアが手を貸した。
全速力で逃げていた結果、ネイアと一真は足止めされていたエリサ達に追い付いたのだ。
そして、ガイエンの剣がエリサに届く直前、一真はエリサの横腹を蹴って馬から落とし、迫る剣を受け止める。
しかし、ガイエンの振る剣の威力は凄まじく、一真は吹っ飛ばされた。
「お前は………オゼス村付近で、風のMyth Knightと一緒にいたな。オレの剣を受け止めるとは…………お前も奴の関係者か??」
そんなガイエンの問いを起き上がった一真は無視して、逃走を最優先にする。
だが…………近くにいたホワイト・ティアラ隊の隊員を捕まえながら、少数だが精鋭のヨトゥン兵達が、一真達の近くまで迫ってきた。
(くっそ…………ここまでか…………仕方ない、戦わないと皆を守れない………)
一真はネイアから借りた細身の剣を握りしめ、集まって来るヨトゥン兵の方を向いて立ち止まる。
「皆、林を利用して逃げて!!将軍の元に辿り着いた人は、援軍要請を!!」
一真は普段の声からは想像もつかない大声で叫び、そして剣を構えた。
そんな一真の後方から火の玉が飛んできて、ヨトゥン兵を攻撃する。
「一真!!立ち止まっちゃ駄目!!逃げて!!あなたは、戦っちゃ行けない!!」
火の玉を放ったエリサの横で、ネイアが懇願するように叫ぶ。
そんなネイアの絶叫も虚しく、自らの攻撃を逸らされたガイエンが面白くい表情で一真に喰い付いた。
ガギィィィィ!!
ガイエンが振り下ろした剣と、一真の受けた剣が擦れる音が周囲に響く。
「ほう…………オレの剣を受けれるとは……だが、Myth Knightではないお前に勝ち目はない!!」
ガイエンは力任せに押し込むが、一真はその力に逆らわず後ろに跳んだ。
「一真!!戦っちゃ駄目!!」
ネイアはそう言うと、ガイエンと一真の間に立つ。
「オレは女だろうが容赦しないぞ。邪魔をするなら、まずは貴様から殺してやる」
ガイエンはヘルギを握り直すと、ネイアに突っ込む。
そのガイエンに、再び火の玉が襲い掛かる!!
「うおっ!!」
ガイエンは驚きながらも、ヘルギで火の玉を叩き落とす。
「さっきもそうだったが、火も持ってないのに何故炎属性の魔法が使える??」
ガイエンは勿論、ライターの存在を知らない。
掌に火種を持っている事など、予想すら出来なかった。
しかし、エリサはガイエンにそれを教える必要はない。
無言でガイエンを睨む。
「まぁいい…………貴様ら如きにヘルギの能力を使うのは、プライドが許さんが…………ティアと早く話しもしたいしな…………仕方ないな」
ガイエンはヘルギの剣先をエリサに向けて、力を込めた。
「いやっ!!」
ヘルギがら発する赤い光を浴びた瞬間、強気だったエリサの腰が急に落ち震えだす。
強気の表情は、恐怖に脅える弱々しいものに変わっていた。
「もはや邪魔する者はいない。宣言通り、貴様から殺してやる!!」
再びネイアに狙いを定め、ガイエンが飛び込む!!
その時………
「ルナ!!そっちに行っちゃ駄目!!」
と言うティアの声と同時に、ガイエンとネイアの間に飛び込む小さな影があった……




