血に染まる白冠2
ホワイト・ティアラ隊には、まだ怪我人が運ばれていなかった為に、一真の叫んだ声に反応して、各々が自分の判断で逃げ出す事が出来た。
それぞれの判断で荷物を纏め、アルパスターのいる本隊へと走り出して行く。
アルパスターのいる本隊とは、それ程距離は離れておらず、なんとか逃げれそうなタイミングだ。
(急げば、アルパスター隊と合流出来る。足音からの距離を考えても、落ち着いて行動出来れば大丈夫の筈だ!!)
一真は自分に言い聞かせ、副隊長として逃走の準備を急がせる。
一真の指示でホワイト・ティアラ隊が部隊として逃走を開始した、正にその瞬間!!
後方の林から、ヨトゥン兵が飛び出してきた!!
「やっぱり、出てきたか!!攻撃魔法が使える人は、敵の足止めをするので、部隊後方に集まって下さい!!」
一真はホワイト・ティアラ隊の面々を逃がしながら、攻撃魔法が使えるメンバーと共に殿を努める。
エリサも一真の横に付いて、後ろに下がりながら魔法の準備を開始した。
「エリサ!!ここは私と一真に任て、あなたは隊がスムーズに逃走出来るように、前で指揮をとって!!」
「そんな…………私も攻撃魔法が使えます!!ここに残って、敵の足止めをします!!」
医療班であるホワイト・ティアラ隊に配備されている馬の数は少ない。
攻撃魔法の体勢をとろうとするエリサに、ネイアは自ら引いていた数少ない馬の手綱を渡す。
「副隊長が2人とも残ってどうするの!!先に逃げている仲間達も、混乱してる。誰かが指揮して、スムーズに逃がしてあげなきゃ……………それに、ティアとルナも一緒に逃がしてあげて!!」
運動神経の無いティアと幼いルナも、一真達と行動を共にしていた為、まだ部隊後方に残っていた。
この2人は先に逃がしてあげないと、敵に捕まる可能性が高い。
「エリサさん、俺達は大丈夫!!ここで、一戦交えようって訳じゃない!!皆が確実に逃げ切る為の、ただの足止めだから…………直ぐに追い付く!!」
一真の力強い言葉にエリサは決心して頷くと、ティアとルナを馬に乗せ、自らも跨がる。
「一真、無理しないでね!!」
「カズ兄ちゃんなら大丈夫だよ。だってフェルグス様より強いんだから、あのぐらいの兵隊なんて楽勝だよねー」
ルナの言葉に冷汗を流しながら、一真は笑って親指を立てた。
「隊長、一真、先頭を落ち着かせて、2人を安全な場所まで運んだら戻って来ます!!それまで、よろしくお願いします!!」
「よろしくね、エリサ。コッチは任せて!!」
ネイアの言葉にエリサは頷くと、馬を走らせる。
馬は速い…………一真達は攻撃魔法の準備をしながらも、走って逃げていた。
それでも、馬の姿はみるみる小さくなっていく。
敵の部隊に騎馬隊がいたら…………林の中では歩兵の方が速いが、平地に出てきたら一瞬で追い付かれる……………
そして、その予感は的中した。
足音に交じって、馬の蹄の音が聞こえて来る。
「くそっ!!林の中で馬を使うなんて…………ネイアさんっ!!敵に騎馬隊がいる!!このままじゃ、確実に追い付かれる!!」
「分かった…………魔法部隊は止まれ!!ここで敵の足止めをする。一真は、全力で逃げなさい!!あなたが逃げ延びる程度の時間は稼ぐからっ!!」
ネイアの言葉に、一真は決意した瞳で首を横に振った。
「逃げるのはネイアさん達だ。あの程度なら、全滅させられる。そうすれば問題ない!!」
「何言ってるの??周りは林に囲まれてる。どこで誰が見ているか分からない場所よ!!私との約束、忘れたとは言わせないわよ!!」
ネイアの言葉に、一真は迷う。
しかし、迷っている事を許される状況では無かった…………もの凄いスピードで、蹄の音が近くなって来る。
「やっぱり駄目だ!!ネイアさん達を見殺しにするなんて出来ない!!」
一真が決意し、ネイアから預かった剣を握った…………正にその時、近付いて来た足音が止まり、同時に金属のぶつかり合う激しい音が聞こえて来た。
ガヌロンの捜索を任されていたアデリア・ホーネの部隊が、林から出て来たヨトゥン兵の後方から襲いかかったのである。
ガヌロンの捜索中に不穏な動きをする部隊を確認し、後を追っていたのだ。
近付いていた騎馬隊の歩みも、後方の異変に気付き引き返している。
しかし、アデリア隊はガヌロン捜索の任務中であった為、その兵数は少ない。
が、ホワイト・ティアラ隊が逃げる時間ぐらいは稼げそうである。
「ネイアさん、今のうちだ!!アデリアさんが戦ってくれてる間に、本隊と合流しよう!!」
一真はネイアを促すと、走り始めた。
自分達が早く逃げなければ、助けに来てくれたアデリアの部隊が全滅してしまう可能性がある。
「きゃあああぁぁぁぁ!!」
しかし、今度は一真達が逃げている方角…………先程、エリサ達が馬で逃げた方角から、女性の悲鳴が聞こえてきた…………




