バロールとの戦い2
バロール軍の中隊が航太の隊の目の前を通り始めた時、反対から土煙が上がり鬨の声が聞こえ始める。
「ゼーク隊の方角だよ!!始まったの??」
絵美の声を聞くまでもなく、航太はゼークが戦闘を開始したと確信した。
「こっちも突っ込むぞ!!敵の腹に風穴を開けてやれ!!」
航太がエアの剣を掲げ、大声で突撃の合図をする。
ゼーク隊に気を取られていたバロールの部隊は、突然現れた伏兵…………航太の部隊に、一時混乱した。
しかしバロール軍は一万を超える大軍であり、対する航太とゼークの隊は二千の兵である。
側面から強襲された為、最初は混乱したバロール隊のヨトゥン兵だったが、数で勝るヨトゥン軍は徐々に落ち着きを取り戻していく。
「くそ!!ただでさえ強いヨトゥン兵に、数でも負けてるんじゃ話になんねぇぞ!!」
航太は必死にエアの剣を振るが、混戦になっている為に鎌鼬は使えない。
航太の部隊は、徐々にヨトゥン兵の波に飲まれていく。
そんな中、絵美は天沼矛の尖端から出る水を刃に変えて、その広くなった攻撃範囲でヨトゥン兵を斬り倒す。
智美は水の玉を作り、次々にヨトゥン兵の顔に張り付ける。
「んー…………」
窒息状態になったヨトゥン兵達を、一般兵がいとも簡単に倒していく。
更に智美の作り出す水の玉は航太の隊の兵に纏わり付き、ヨトゥン兵の剣撃を予測し受け止め弾き返し、傷つけば回復までする。
「航ちゃん、数が何だって??」
「私達がいる限り、誰も死なせない!!」
絵美と智美、2人の活躍でヨトゥン兵の隊列が徐々に崩れていく。
(おいおい、やべぇ……………2人とも成長しまくってる…………)
数で劣る人間の部隊が、数で勝るヨトゥン兵を押していく光景は、おそらく過去に無い。
ヨトゥンの力は人間の数倍あり、それを考えれば、今起きている事は異常だ。
「やっぱり、Myth Knightの部隊を選んで正解だぜ!!これなら勝てる!!」
士気が上がっている航太の部隊は、バロール隊の分断に成功する。
「こうなりゃ、オレも本領発揮だっ!!混戦になってなけりゃ、コイツで!!」
分断したヨトゥンの部隊に向かって、航太は鎌鼬を放つ。
その鎌鼬に触れてヨトゥン兵の身体が弾け飛び、隊列の乱れた所に航太の隊の兵が飛び込んでいく。
(これならいける!!中軍をさっさと片付けて、他のフォローに行けるぞ!!)
航太が視線を上げた、その時……………
「ぐわぁぁぁ!!」
航太の視線の先にいた数人の兵が、突然倒れた。
「えっ??何が起きたの??」
「多分、魔眼だっ!!みんな、智美の近くに集まれ!!」
驚く智美の背中を叩き、航太は大声で自分の隊の全員を近くに呼び寄る。
背中を叩かれた事で冷静さを取り戻した智美は、直ぐに航太の部隊が覆えるだけの水の防御球を作りあげた。
その水の球の表面は波打っており、外から中の様子はよく見えない。
(これでバロールからは、俺達の事を認識されない筈だ。魔眼の効果さえ届かなければ、やれる!!)
航太は、水の球の中からバロールを探す。
「航ちゃん、あれじゃない??」
いち早く智美が、丘の上にいる黒い馬に乗った男を指差した。
茶色をベースに金で縁取りされてる鎧は、大将らしい独特の雰囲気を醸し出している。
「間違いなさそうだな!!絵美!!」
「ほいきた♪♪」
促された絵美は、航太の前に水の玉を作り出す。
「当たれっ!!」
その水の玉を航太がエアの剣が作り出す風圧で、バロール目掛けて打ち出した。
水の玉は水の壁を摺り抜けて、バロールに向かって弾丸のように飛んでいく。
「ふん!!」
バロールがいとも簡単に、剣で水の玉を打ち落とした……………かに見えた。
しかし剣に触れた途端、水の玉は弾け飛び、散弾の如くバロールに襲いかかる!!
「うおっ!!」
バロールはガードするが、その重厚そうに見える鎧には無数の傷がつく。
(ダメージが小さくても、遠距離攻撃なら魔眼の被害は出なそうだ。それに、コッチにバロールの意識を向けさせとけば、ゼークが戦いやすくなる筈だ!!)
「航ちゃん!!バロールを釘付けにしちゃえ!!」
「おっしゃ!!次から次へと、打ち込んでやるぜ!!」
魔眼を…………バロールの視線をコチラに向けさせておけば、他の隊に被害は出ない。
航太は確信し、2射目を撃つ!!
高速の水の玉が、再びバロールに襲いかかる…………かに見えた。
水の玉がバロールを強襲する直前、バロールの目の前の地面が盾のように盛り上がる。
盛り上がった地面に水の玉は次々に当たって、何も出来ないまま消滅していく。
「直ぐに対策を立ててくるのは、流石ね。魔眼には、まだまだ知らない力がありそう…………航ちゃん、どうする??」
智美が考えながら、航太に聞いてくる。
「分かんね!!ケド、とりあえずバロールをあの場所に足止めしとけば、魔眼の脅威がなく他の隊が戦える!!それだけでも!!」
航太は言いながら、3射目を放つ準備に入った。
その間にバロールは盛り上げた地面を元に戻し、智美が作っている水球を魔眼で見る。
その瞳が青白く輝いた瞬間、水球が凍り始めた。
「何これ??水が凍ってくよ!!」
智美が凍っていく水球に、驚きの声を上げる。
「マズイ!!このままじゃ攻撃手段が無くなる!!」
航太は慌てて水の玉を風圧で飛ばすが、既に氷と化した水球に阻まれる。
もはや氷の球体に閉じ込められた航太達に、攻撃手段は無い。
それどころか、球体内の温度が徐々に下がり始める。
「これ、まずくない??メチャ寒くなってきてるケド…………」
絵美の口から、白い息がハッキリ見えた。
兵達も凍え始めている。
「寒さもそうだけど…………酸素が無くなる気がするよ…………」
智美の声は、寒さなのか恐怖なのかは分からないが、震えていた。
(正直、打開策が見当たらねぇ…………どうする??)
氷の球を破壊しても、恐らく出た瞬間にバロールの魔眼が狙っているだろう。
外に出るのは、自殺行為である。
しかし氷の球の中にいれば、寒さと酸素不足でこちらも未来はないだろう。
(こんな事で、大切な兵の命を失う訳にはいかない!!だが、どうする??)
航太は必死に考えるが、直ぐに答えは出ない。
さらに氷の球体の中では、水の時より視界が悪くなり、外の状態が全く分からなかった。
(コッチの攻撃が止まったら、ゼークや他の皆が…………)
航太の額からは、冷たい汗が流れていた。




