バロールとの戦い1
ベルヘイム遠征軍の左翼を任された航太達は、林の中に身を潜めバロール軍の側面を叩く為に待機していた。
「ねぇ、航ちゃん………この戦いって、私達にとって何の意味があるんだろうね??」
突然呟いた智美の言葉に、航太は驚いて振り向く。
「いやいや…………オゼス村の惨状を見て、苦しんでる人を助けなきゃって…………智美が言い出したんだろ!!急にどうしたんだよ??」
航太は当たり前の事を聞くなって顔をしながら、智美に答える。
「うん…………そうなんだけどね…………ただ、漠然と戦争しててもいいのかなって……………」
「一度考えだしたら、すぐ深くまで考えるんだから…………これから戦わなきゃいけないのに、そんな調子じゃやられちゃうよ!!」
歯切れの悪い智美に、絵美が強い口調で言う。
「ロキさんの所に捕まってた時、ロンスヴォっていう城下街を見てきたんだけど、街には活気があって、皆幸せそうに生活してたんだぁ………ヨトゥンの全てが悪いように思えないし、私達が頑張って戦っても、世界を変える事は不可能だし…………」
「智美クン、そんなの当たり前だろ!!俺達が助けられるのは、自分達の目が届く範囲だけだ。いや、逆に俺達が助けられる側になるかもしれない。けど、それでいいだろ!!世界は変えられる………たった1人でも無駄に死ぬ人を助けられたら、その人の世界は変わるじゃねーか!!」
航太が、イイ事言っただろ??的なドヤ顔をした瞬間、頭に絵美の平手が飛んできた。
「いてぇ!!一体なんだ??お前はオレに、恨みでもあんのか??」
「大声で叫ぶな!!敵を待ち伏せしてる時に指揮官が叫ぶって………アホだろ??しかもバロールは、視界に入っただけで人を殺すんだろ??死にたいの??ってか、私達を巻き添えにして死にたいの??」
(いや…………その前に絵美さんも、結構大きな声で叫んでましたよー)
小声で呟いた航太を、絵美が睨む。
「何か言った??」
「いえー、何も言ってないっス。さっ、気合い入れて潜むぞー」
そんな2人のやりとりを見ていた智美は、思わず笑ってしまった。
「あのー、智美クン…………オレが叩かれたの、キミの責任でもあるんだよ。少しは反省というモノをだなぁ…………」
「にゃはは、ゴメンゴメン。なんだか2人のやりとりを見ていると、戻ってきたんだなぁーって実感しちゃって。航ちゃんの言う通り、私達が戦う事で1人でも命が救えたら、それは凄い意味のある事だよね!!うん、私頑張る!!」
細い腕に小さな力こぶを作る智美を見ながら、航太はフェルグスのエピソードを思い出す。
(フェルグスも、智美みたいに感じてたのかな……………人間にも、コンフォバル王やガヌロンみないな奴が沢山いる。そしてヨトゥンにも、民衆の事を想える奴がいる。戦いの本質ってヤツを考えなきゃいけないんだろうな…………)
しかし航太は首を振って、考えていた事を脳内から吹き飛ばす。
(オレは兵を任されてんだ!!今は………とにかく戦いに集中しないと!!他の事は、それからだ!!)
航太は迷いを捨てた瞳で、智美を見る。
「今は、とりあえず戦いに集中しよう!!ロキはともかく、クロウ・クルワッハの部隊は残虐だ!!何があっても叩かないと、哀しみが増えるだけだ!!」
航太の力強い言葉に、智美も頷く。
「そうだよね!!ガイエンやクロウ・クルワッハは悪そのものって感じだから、自信を持ってやっつけちゃおう♪♪」
絵美が雰囲気を変えようと、明るい声で智美に声を掛けた。
「ゴメンね絵美……………もう大丈夫。ねぇ、少し思い付いた事あるんだけど…………」
航太と絵美に、智美が小さな声で思いついた事を耳打ちする。
「それ、いい考えかも♪♪」
それを聞いた絵美が、顔を綻ばせた。
「確かに、やってみる価値はありそうだ!!」
航太も、智美の意見に賛同する。
「皆、聞いてくれ!!」
航太が自分の後ろに控える千の兵に、智美の案を伝えた。
全ての兵に伝達された頃、バロール軍の先鋒隊が航太の視界に入ってくる。
兵達はもちろん、今までは少し笑顔もあった航太達も真顔になり息を殺す。
(いよいよだな………オレの隊からは犠牲者は出さない。皆で生きて帰るんだ!!色々考えるのは、その後だ!!)
航太は、エアの剣を握りしめた。




