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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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コナハト城にて2

 

「ガヌロンか…………確か、ランカストを殺す為にロキを利用した男だな。ベルヘイム軍に戻ったと聞いたが、逃げ出してきたか…………」


 そう言うと、クロウ・クルワッハは伝令に視線を向ける。


「ガヌロンは、我が軍に有益な情報を持ってきたと申しておりました!!」


「有益な情報か………ロキだろうが人間だろうが、我が軍に脅威など無いからな…………面倒臭いから殺してしまうか…………親父は、どう思う??」


 伝令から報告を受けたクロウ・クルワッハは、本当に面倒臭そうにバロールに意見を求めた。


「何を考えてるか分からんが、力のある存在ではないからの…………しかし、このタイミングでの投降だ。本当に良い情報を持ってるかもしれんぞ??それに、これからベルヘイム軍を攻撃するなら、その布陣やら状況を聞くのも悪くないと思うがのぅ。まぁ、判断は任せる」


 バロールの意見に少し考え込んだクロウ・クルワッハだったが、1つ頷くと伝令の方を向く。


「よし、では通せ。ここに普通に連れて来ていいぞ。我々が直接話を聞く」


 クロウ・クルワッハの言葉通り、ガヌロンは縛られもせずに城内に通された。


「あなたが、クロウ・クルワッハ殿ですか。私はベルヘイム遠征軍で軍師をしておりました、ガヌロンと申します」


「ふむ。挨拶など、どうでもいい。我々に有益な情報とやらを、早速聞かせてもらおうかのぅ…………それによって、貴様を取り立てるか殺すか決めるんでな………」


 バロールの魔眼で睨まれると、力を発動してない状態とは言え身がすくむ。


「はい。今、私を見ている魔眼………その力は、神と邪龍の力を持つ者には効果が半減すると聞いております。今回の遠征軍にはフレイがいる事はご存知だと思いますが、更にもう1人……………ノアの血族が力を解放しました」


 少し声を震わせながら、それでもガヌロンはバロールをしっかりと見て言葉を発した。


「貴様…………バロール殿が、力を取り戻したばかりのノアの一族に敗れるとでも思っていたのか??馬鹿にするなよ…………やはり、殺してしまうか!!」


 スルトが、神剣レーヴァテインの柄に手をかける。


 その姿を見たガヌロンは、恐怖で思わず尻餅をついた。


「はははっ!!スルト、脅かさんでもよい。確かに、皇の目の持ち主が現れた事は、情報として有益であろぅ??そいつの成長力にもよるが………危険な芽は、早めに摘み取るに限るからのぅ………」


 バロールの言葉に、ガヌロンは安堵の表情を浮かべる。


「ガヌロン…………私は、力ある者にしか興味はない。とりあえずは生かしといてやるが、我が軍で信用されたければ力を見せよ。まずは親父………バロールと共にベルヘイム軍と戦い、その力を示せ」


「はっ………私の投降理由などは、お聞きにならないのですか??」


 部屋を出て行こうとするクロウ・クルワッハに、ガヌロンは問いかけた。


 投降理由を聞くのは当然の事であるし、普通は、それによって自軍に迎え入れるか決める。  


「貴様の投降理由など、どうでもいい。それよりも、今回の作戦で力を示せなければ、不要と判断し殺す。我が軍で使えると思ったら、投降理由を聞いてやるよ」


 そう言い放つと、クロウ・クルワッハはスルトと共に部屋を出た。


 部屋に残されたガヌロンの両横を囲むように、バロールとガイエンが腰を下ろす。


「さてガヌロンとやら、アルパスター軍の戦力を詳しく教えてもらおうかのぅ」


 ガヌロンは用意してあった紙に、現在のベルヘイム遠征軍の布陣を答え始めた。


 まず話を聞いてもらい、うまくクロウ・クルワッハに取り入ろうとしていたガヌロンにとって、予想外の展開である。


(まぁよい。どうしたって人間側には戻れないし、デュランダルを覚醒させる為にソフィーを殺したというのなら…………その命令を出した憎きロキを許してはおけん。その為には、今はバロール取り入るか………)


 そう考えたガヌロンは、詳しくアルパスター軍の編成についてバロールに話し始めた。


 ベルヘイム軍の布陣を見たガイエンは、ホワイト・ティアラ隊の位置を確認する。


 ガイエンはティアと出会った事によって、過去の記憶を思い出せていた。


 村人が全員敵になった時、ティアだけが小さな体で自分の両親を守ろうとしていた………その記憶が蘇る。


 人間に対する恨みしかなかったガイエンだったが、今にして思えばティアは恨みの対象ではなく、感謝の対象だという事に気付く。


 そして初恋の相手、エストに面影が似ているその容姿に、ガイエンは仄かに恋心を抱き始めていた。


(オレは、あの時の真実をティアにも伝えなきゃいけない。ティアにも人間の醜さを伝えないと…………人間は、自分達の都合のいいように物事を捉える。その本質を見ようともせずに…………)


 ガイエンは、なんとかティアにもヨトゥン側に来て欲しいと願わずにはいられない。


「おいガイエン!!聞いてるか??」


 バロールの声で我に返ったガイエンは、バロールの広げた地図を覗き込んだ。


「私とガヌロンは、アルパスター軍を正面から迎え討つ。ガイエンは、手薄な後方から攻めてくれ。奴らの対応力も見ておきたいし、皇の目を持つノアの末裔の力も見ておきたいしのぅ」


 その命令にガイエンは、心の中で喜んだ。


(これでティアに近付くチャンスがある!!)


 斯くして、バロール軍は出陣した………

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