消えたガヌロン
「貴様!!何をやっている!!犯罪者を逃がすなど…………しかも、ランカスト将軍が死んだ原因を作った男だぞ!!」
シェルクードを見つけたテューネが、その脇を通り越してガヌロンへ向かおうとする。
そこに、ナイフが飛んで来た。
「なっ…………私にまで攻撃をっ!!」
飛んで来たナイフに対し、テューネはデュランダルを盾のように使い、弾き返す。
「正気か…………貴方もランカスト隊だったのだろう??何故、ガヌロンを助ける??」
一瞬、テューネの瞳が青く輝き、シェルクードに向けてデュランダルを振るう。
「うわあああぁぁぁ!!」
間一髪……………剣でデュランダルの一撃を防いだシェルクードだが、あまりの破壊力に吹き飛ばされて、大木に激突し倒れ込む。
テューネは吹き飛んだシェルクードを振り返りもせず、ガヌロンを追う。
「ちっ!!シェルクードの奴め……………全然、頼りにならん。賢者の石は、あまり使いたくないんだが…………」
ガヌロンは指にはめた赤い指輪…………賢者の石を見る。
賢者の石…………魔導師数人分の魔力を封じ込めた石…………つまり、魔導師数人分が自らの命を投げうって完成される石。
ガヌロンは、その賢者の石を何個も精製していた。
自らの命を守る為だけに賢者の石を使うガヌロンは、もはや人の心を無くしているのかもしれない。
賢者の石の数は限られている為、ガヌロンは極力自力で逃げようとしていた。
しかし、体力の無いガヌロンの足で、馬で追うテューネから逃げきれる筈もない。
「ガヌロン!!大人しく縛につけ!!」
迫るテューネに観念したガヌロンは足を止め、指輪に付いた宝石を回す。
「残念だったな、テューネ。賢者の石は、所有者から無理矢理に奪い取ると、その者は死ぬ。私を魔封じの縄で捕らえたのは良かったが…………魔力を使わずに縄を切れば、どうという事もない。私から、無理にでも賢者の石を奪い取っとくべきだったな!!」
「くそっ!!デュランダル!!」
テューネの瞳が青くなり、高速で大剣デュランダルが振り下ろされる。
しかし、別の場所に転送され始めたガヌロンの身体を裂くには、一歩遅かった………
デュランダルは空を斬り、大地にヒビを入れるに留まる。
「魔導師の命を使って作られる賢者の石………それをポンポン使って…………奴はもう、人間ではない…………ソフィーア様の父であっても、戦場で会ったら、もう容赦しないわ………」
テューネの瞳は、青から黒へと戻っていく。
その頃、気を失っていたシェルクードは、ようやく起き上がった。
「オレは……………ここで何をしているんだ??」
大木に激突したからか、ガヌロンに強い暗示をかけられたからなのか…………
シェルクードは、記憶障害を起こしていた。
シェルクードは周りを見回した後、自らの剣が地面に落としていた事も気付かず、茂みに消えて行く。
今までの事を全て忘れ、ガヌロンの事も、テューネの事も気にもとめていない様子であった。




