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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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捕われのガヌロン

 その日の夜……………


 月が煌煌と辺りを照らしている時間、草叢を1人の人影が走り抜けていく。


 皆が寝静まって、静寂が支配する時間……………


 その人影は物音一つ立てずに、しかし素早くある場所へ向かっていた。


 目的の場所に着くと、人影は身を潜める。


 その視線の先には、木に縛られてるガヌロンの姿があった。


 その人影の瞳は、憎悪に溢れている。


 周囲を見渡すと、ガヌロンの近くに3人の見張りが立っているだけで、それ以外の見張りは見当たらない。


 見張りの1人は角笛を持っており、異常事態があれば、直ぐに知らせを送れる準備をしている。


 そこまで確認すると、人影は見張りの兵に気付かれないように、少しずつガヌロンに近付いていく。


 そして、角笛の持っている兵の目と鼻の距離まで木陰に隠れながら接近し、他の2人も視線に入るポジションをとった。


 角笛を持つ兵に対し他の2人の兵が背を向けた瞬間、人影は行動を開始する。


「………………っつ!!」


 他の2人の兵に見つからないように、角笛を持っている兵の喉に剣を突き刺した!!


 喉を貫いた事で、叫び声は上がらない。


 しかし、その物音で2人の見張りの兵が振り向く。


 人影は角笛の持つ兵士の喉に剣を残したまま、その兵で自分の体を隠す。


 暗がりの為、2人の見張りの兵は一瞬何が起きたか分からない。


 刹那!!


 2本のナイフが、2人の兵の喉に正確に突き刺さる!!


 一瞬出来た隙を付き、人影がナイフを投げたのだ!!


 喉を潰された為に叫び声をあげる事も出来ず、見張りの兵は地面に倒れる。


 月明かりに照らされた人影の顔を、ガヌロンはしっかりと見た。


「シェルクード!!お前…………何しに来た!!」


 ガヌロンが小声で、しかし驚いた声を出す。


 そう……………人影の正体はシェルクードだった。


 シェルクードは投擲の名手であり、ランカスト隊の大隊長…………ランカスト将軍の副官を努めていた男である。


 大火傷を負って戦線を離れてはいたが、2つの目標を正確に射抜く事など、シェルクードには簡単な事だった。


 シェルクードは、角笛を持った兵の喉から剣を引っこ抜き、ガヌロンに近付く。


「ガヌロン殿、お静かに……………助けに来ました」


 そう言うと、シェルクードはガヌロンを縛っている縄を切り始めた。


「どういう風の吹き回しだ??お前は、ランカストに恩義がある身だろ??」


 ガヌロンが当然の疑問を口にする。


 ランカスト隊の人間が、まさか助けに来るとは思っていなかった。


「いや、我等ランカスト隊の内部では、ランカスト将軍に不満を持つ者は沢山いました。理不尽な命令があったりもしたし、態度も横柄だった…………そもそも、見習い騎士から一気にベルヘイム12騎士に抜擢されるなど……………我々が、どれだけ努力し武功を重ねても到達出来ない地位を…………」


 さも悔しそうな表情をしながら、シェルクードは縄を切り続ける


「あちらに馬も用意してあります。走れますか??」


 縄を切り終わり、シェルクードが林の奥を指差した。


「木に1日中縛られてたんだ…………速くは走れんぞ……………」


 そう言いながらも、ガヌロンは走り始める。


 シェルクードは、ガヌロンの前を先導するように走った。


 ガヌロンは早くこの場を離れたかった為、シェルクードの後を必死に付いていく。


「結構走ったが……………どこに馬を隠してあるんだ??」


 息を切らし走るガヌロンが、前方を走るシェルクードに問う。


「だいぶ走ったし、この辺りでいいだろう………」


 急にシェルクードが走るのを止め、振り返った。


 ??????


 ガヌロンも走るのを止め、シェルクードの目の前で止まる。


「どうしたシェルクード??馬の姿は見えないが………………」


 ガヌロンが後ろを気にしながら、シェルクードに声をかける。


 アルパスター隊の兵は優秀だ……………もたもたしていれば、異変に気付いた追っ手が来るかもしれないので、ガヌロンは早く馬で逃走したかった。


「本当に、馬があるとでも思ったか??オレはこの手で…………誰にも邪魔されず将軍を窮地に追いやった貴様を殺したいだけだ!!」


 シェルクードは今までの声とは違い、明らかに殺意の籠もった声でガヌロンに答える。


 そして、ガヌロンの喉元に剣先を付けた。


 先程、見張りの兵を殺した時の血糊が刀身を朱く染め、不気味な雰囲気を醸し出している。


「な…………何を馬鹿な事をしている!!私を殺しても、見張りを殺してるんだ!!もはやベルヘイム軍には戻れないぞ!!」


 ガヌロンは後退りながら、シェルクードに訴える。


「分かっている。オレは………邪魔の入らない所で貴様を殺したかっただけだ!!殺した後の事は、どうでもいい!!」


 ガヌロンが後退った分、シェルクードは追うように前に出てる。


(こやつ…………慰霊碑で花を見たな…………仕掛けをしておいて、正解だったな…………)


 ガヌロンは、少し口元を緩ませてしまう。


(おっと…………いかん、いかん…………演技を続けなければ、折角の仕掛けが台無しになるのぅ…………)


 ガヌロンは真剣な表情に戻し、シェルクードを見る。


「私とて、ランカスト程の将を失いたくなかった。しかし、テューネが…………勝手に付いて来た小娘が、ロキに挑みかかってしまった…………私の責任にされてはいるが、実際はテューネの責任だ!!」


「テューネに責任をなすりつけたのは、貴様だろ!!とっとと死ね!!」


 シェルクードは、ガヌロンが喋り終わる前に怒鳴っていた。


 ガヌロンは、感情的になったシェルクードを薄く笑いながら見て、左手の親指にはめた指輪に付いている宝石を少し回す。


「笑うか…………やはり…………確信犯としか思えん!!ここで、死ね!!」


 シェルクードが、剣をガヌロンに突き刺さそうとした瞬間!!


 ガヌロンの指輪から、赤い光りが広がる!!!


 その光りがシェルクードを包み込んだと思ったら、宝石に光が吸い込まれるように消えた。


 その直後、宝石は砕け散る。


「シェルクード、ご苦労さん。次の君の相手は、私を捕まえに来る追っ手だな」


 ガヌロンの仕掛けた罠…………


 テューネがロキに斬りかかってしまった時と同じ術…………


 仕掛けた物を使って、相手に暗示をかける術…………それが慰霊碑の花である。


 ガヌロンは、ランカストの暗殺が成った後、ベルヘイム軍に自分が捕まる事を予測していた。


 その為、慰霊碑に供えた花に自分の縄を切る暗示をかけ、ガヌロンを意識した者が花を持つと術が発動するように仕掛けた。


 その感情が強ければ強い程、暗示の力は強くなる………


 そしてシェルクードは罠に嵌まり、ガヌロンを助け、今再び術にかけられた。 


 今度のは、人の認識を操作する術…………


 ガヌロンがいなくなった事に、いち早く気付いたテューネが迫っている。


「ふん…………追っ手はテューネか…………シェルクードが、どれだけ頑張るか…………まぁ、早めに逃げておくか…………」


 ガヌロンは、テューネに向かって走り出すシェルクードの反対側に向けて歩き出す。


(さて…………ベルヘイムに戻るのは不可能、そしてデュランダルを覚醒させる為にレンヴァル村を襲わせたロキ…………ソフィーが死んだ原因を作ったのがロキならば、次はロキを殺す!!その為には…………)


 ガヌロンは、まだ復讐に心が苛まれていた…………

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