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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
血に染まる白冠
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慰霊碑の花に仕掛けられた罠

 

「オルフェ、肉体的にも精神的にも辛いのに、色々と済まないな………」


 アルパスターの言葉に、オルフェは少し疲れた表情をしながらも、首を横に振る。


 オルフェと航太はアルパスターに呼ばれて、軍議を開く大きな天蓋に来ていた。


 アルパスターにネイアにオルフェにユングヴィ王子にゼーク、いぶし銀の働きをするアデリアの姿もある。


「そうそうたるメンバーが集まってますね。会議すんなら、外に出ますよ」


「おいおい…………呼ばれて来てるのに、話をする前に外に出るな」


 外に出ようとした航太はオルフェに呼び止められ、しぶしぶ末席に座った。


「揃ったようだし、始めるか。今日の議題は、航太に兵を率いてもらうかどうかだ。航太、以前からランカストとは話をしていた事なんだが、そろそろ部隊全体の事を考えて動けるようになってもらいたい」


「は???????」


 アルパスターの言葉に、航太は目が点になる。


「何を仰有っているのかな??オレが兵を率いるって…………出来るわけないっしょ!!」


 あまりの驚きに、思わず返答がふざけた口調になってしまう。


「確かに少し早い気もするが…………先のレンヴァル村の戦いで、兵の心は掴んでいる。それにランカストから、それとなく聞いていただろ?」


 オルフェはランカストから、飲み会の席で航太には軽く伝えてあると聞いていた。


「酒飲みの場所で聞いただけですよ!!しかも、ランカスト将軍笑ってたし…………冗談だと思うぢゃん!!」


 テンパってる航太は、思わず【ぢゃん】とか口走ったが、自分でも気付いていない。


「ランカスト将軍が亡くなって、ガヌロンが裏切った…………指揮官が足りないのは事実よね…………確かに、航太さん1人では少々不安ですが、副将に智美さんと絵美さんを据えれば…………」


「まぁ、確かにね。絵美は実戦を積んで兵の心を掴み始めているし、智美は捕虜の期間が長かったけど、部隊の状況を冷静に判断出来そうだしね」


 ネイアの話を聞いて、ゼークは頷く。


「って、おいおい。絵美と智美って…………むしろオレが、オルフェ将軍とかの副って立場でイイんじゃないっスかね??」


 指揮官の心得は、レンヴァル村の酒場でランカスト将軍から聞いている…………だからこそ、多くの命を預かる立場と責任に耐えられないと、航太は感じた。


「いや、航太。君にだからこそ、頼みたいんだ。ランカストの力を受け継いだのは、テューネかもしれんが…………ランカストからの期待と希望を受けていたのは君だ」


「そうね。ランカスト将軍は、航太さんにその背中を見せてきた。強い部分も弱い部分も…………たからこそ、ランカスト将軍の抜けた穴を埋めるのは、貴方しかいなんじゃない??」


 ランカスト将軍を持ち出されると、航太は何も言えなくなる。


 短い間だったが、ランカスト将軍から沢山の事を教わった。


 その教わった事を、発揮しないままでいいのか??


 アルパスターとネイアの言葉に、航太は腹をくくった。


(レンヴァル村の戦いは記憶にないけど、周りがオレを慕ってくれるなら、それはそれで受け入れよう。オレが強くなれば良いだけの話だ………)


 航太は気持ちを切り替えて、その心を奮い立たせる。


「オレやゼークが、しっかり鍛えてやるよ!!安心しろ!!」


 目の色が変わった事に気付いたオルフェが、航太の背中を叩く!!


「うをっ!!」


 航太は驚いた声を出すが、同時に気合いも入った。


(酒場でも、ランカスト将軍に叩かれたな…………あの時は、ランカスト将軍と別れる日が来るとは思わなかったケド……………将軍の気持ちは、オレが引き継ぐぜ!!)


 航太は、自らの拳に誓いを立てる。


「あとはガヌロンの処分だな。明日にはベルヘイムに向けて発ってもらわないといかんが………」


「私が行きますよ。誰かが護衛しないとマズイですからね。既に、ここはヨトゥンの勢力圏内だし」


 オルフェが、腕を組むアルパスターに向かって言った。


「いや、オルフェは傷を負っているし、疲労もある。今はしっかり休んでくれ。アデリア、任せていいか??」


 アルパスターはそう言うと、アデリアは静かに頷く。


「このまま、何もなければいいが……………」


 少し不安そうな表情を見せるオルフェが、航太は気になった。


「何か…………あるんですか??」


 航太の質問に、オルフェは首を横に振る。


「いや…………色々とありすぎて、考え過ぎなだけだ…………」


 オルフェは、そう呟いた。



 航太達が会議をしていた同時刻…………


 シェルクードは、慰霊碑を訪れていた。


「ここか…………ま、何も無いか…………当然だな…………」


 シェルクードは慰霊碑に背を向けて、段差に腰掛ける。


「ランカスト将軍…………私は…………どうすれば、貴方の敵を討てるのでしょうか…………」


 呟いたシェルクードは、慰霊碑に手向けられた花に気付いた。


 もはや枯れている花が、何故かシェルクードは気になり手に取る。


 その瞬間、シェルクードの心に何かが入ってきた。


「なんだ…………別に考える事もない…………ガヌロンを殺してしまえば、全て解決するじゃないか…………」


 握り拳を作ったシェルクードの手の中で、枯れた花は粉々になっていく。


 粉々になった花を撒き散らし、シェルクードは歩き出す。


 まるで、何かに操られるかのように…………

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