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雫物語~Myth of The Wind~  作者: クロプリ
ロンスヴォの戦い
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デュランダルに集まる想い

「お父さん…………私が死んだあの日から、お父さんは変わってしまった…………ううん、違うね。もっと前から変わっていたのかもしれないね…………」


 そう言うと、ソフィーアは何かを思い出すかのように瞳を閉じる。


「でも、私が死ぬ前の日に話をした…………ランカストを紹介したいって話をした時、お父さんはベルヘイムの為に尽くせる男なら良いって言ってたね??あの時のお父さんの言葉、本心だと思った…………私には本当だと思えた…………」


 そこまで話すとソフィーアは瞳を開いて、傷口から絶え間無く血を流し、倒れて動かないランカストに視線を向けた。


「その通りだ。だから私は、ベルヘイムの為に力を尽くした。天才軍師とまで言われるようになり、姫を奪還する為の大切な部隊の参謀にもなった。私は、今だってベルヘイムの…………いや、ミッドガルドの為に知恵を絞っている」


「なら…………なんでランカストを殺したの??ランカストは、ベルヘイムの為に必死に戦ってたでしょ??私が死んだ時だって、ランカストだけが、ベルヘイム騎士の誇りを捨てなかったでしょ??お父さん…………昔のお父さんなら、分かった筈だよ…………お母さんが亡くなってから、私の事を1人で必死に育ててくれてた時のお父さんなら…………」


 ガヌロンの言葉に被せるように、ソフィーアは言葉を発する。


 光に包まれたソフィーアは、その瞳からも光輝く涙を落とした。


「お母さんがヨトゥンに殺されて…………そんな悲しい事を少なくしたいって、前線で指揮をとっていた時のお父さんは、輝いてた。お母さんの時は復讐なんて思って無かったのに、どうして今は復讐とか恨みとかに捕われてしまっているの??」 


 力強く話すソフィーアの身体は、その言葉とは裏腹に薄くなっていく。


「ソフィー、お前…………身体が…………」


 ソフィーアの言葉を聞きながらも、ガヌロンは薄くなっていく自分の娘が心配で仕方なかった。


「お父さん…………私は死んだ身…………ドニ様の毛髪の力で、魂を現世に戻しているに過ぎないの…………もう、時間が無い…………」


 ソフィーアはガヌロンの前から離れると、ランカストと、その傍らに居るテューネに歩み寄る。


 そして、倒れているランカストの横に跪くと、干からびていくその頭をそっと抱いた。


「ソフィーア様……………」


 その姿に、テューネは泣かずにはいれない。


 その瞳からは、涌き水のように涙が溢れてくる。


「テューネ………ゴメンね…………もう時間が無いみたい…………ランカストの力と私の想い…………受け取ってくれる??」


 ガヌロンに問い掛けていたいた時とは違い、優しい口調でソフィーアはテューネに聞く。


 テューネは涙を流しながらも、力強く頷いた。


「ありがとう…………テューネ…………ランカストのデュランダルに、私の想いを托すわ…………」


 そう言うと、ソフィーアはデュランダルの柄に額を当てる。


「テューネ…………ランカストを殺したのは、お父さんの策略かもしれない。でも、お父さんを欺き、意のままに動かしていた黒幕がいるわ…………だから、お父さんを恨まないで…………そして、本当の私達の敵を討って…………こんなお願いを残して逝く私達を許してね…………」


 デュランダルの柄に額を当てていたソフィーアの身体が、更に強い光に包まれ…………そして光の中で毛髪に変わり、剣の中に吸い込まれた。


 その瞬間……………それまでデュランダルの中心に現れては消えを繰り返していたルーン文字が青白く光輝き、剣腹に縦にルーン文字が浮き出て定着する。


 そして、大地が震える…………それまでのデュランダルとは、明らかに違う威圧感が周囲に広がった………


「デュランダル…………第3形態か…………」


「あのデュランダルと皇の目の力なら、割れるかもしれませんね…………」


 ロキの呟きに、ビューレイストが応える。


「まぁ…………この状況で、直ぐには無理だな。とりあえず、事態を収拾するか…………」


 ロキは言うと、オルフェの横まで歩を進めた。


「オルフェ殿、如何にこの場を収拾するかを考えなければいけないな。我々としては、ランカスト殿の遺体と智美殿を返す事で決着とさせてもらいたいんだが…………」


 ロキはオルフェに言うと、視線でビューレイストに指示を出す。


 頷いたビューレイストは、ランカストの側まで歩み寄り、ダーインスレイヴを掲げる。


「何するつもり!!」


 睨むテューネを、ロキが手を広げて制す。


「悪いようにはしない。このままの姿では、ランカスト殿が不憫であろう。弔うならば、普通の姿が良い………」


 ビューレイストがダーインスレイヴを一振りすると、ランカストの周りに流れた血が身体に戻っていく。


 干からびていたランカストの身体は、少しずつ瑞々しくなっていった。


「ランカスト様!!」


 生気を取り戻しつつあるランカストの身体は、生きていると思える程になり……………思わずテューネはランカストの心臓の音を聞く…………が、やはり心臓は動いていない。


「スマンな…………身体は元に戻せても、死んだ人間を生き帰らす事は出来ない。我々に出来るのはここまでだ」


 ロキの元に戻っていくビューレイストの背をテューネは睨む事しか出来なかった。


 ランカストを殺した男…………許せない………でも、ここで斬りかかったら、左紀ほどロキを傷つけた時と同じく戦闘になりかねない。


 敵地であるこの場所で、そんな事は出来ない…………テューネはデュランダルを強く握りしめる。


 その思いは、オルフェも同じだった。


 しかし、このまま引き下がる訳にもいかない。


「ガヌロンの身柄も、こちらで預かりたい。ランカストを策に嵌めた罪は重い。我々が罪を償わせる」


「ガヌロンの策で、こちらも被害が出ている………ロキ様も傷を負っている。我々もガヌロンを許せんのだが??」 


 オルフェの言葉に、ビューレイストが直ぐに反応する。


 やはり…………ガヌロンの身柄は、コチラに渡したくないのか??


 ガヌロンから、自分達の関与が知られるのが怖いのか…………


「いや、ビューレイスト。ガヌロンの身柄は、ベルヘイムに渡すのが筋だろう。彼等は将軍1人を、この戦いで失っている。我々よりも被害は甚大だ。このままでは、収まりもつくまい??」


「ぐっ…………」


 ガヌロンの身柄は渡して来ないだろう…………そう思った矢先のロキの提案に、オルフェは歯軋りした。


 上手い…………あまりにも………… 


 こなままガヌロンを無理矢理にでも連れて行かれれば、ロキ側の関与を全面的に疑う事が出来る………つまり、今後のロキ側の要求を却下出来る。


 この状況でガヌロンの身柄を渡して来る…………当然、ガヌロンはロキの関与について言って来るだろう。


 しかし…………確実な証拠でも無い限り、ロキの関与を確定するのは困難だろう…………


 そうすれば、再びロキの要求を飲まねばならない事態になるかもしれない。


 オルフェが却下出来る案件ならいい…………政治が絡み、国王がロキの要求を受け入れた場合…………


 今度は、テューネが危険に晒されるかもしれない。


「また、テューネ殿には力を借りる事もあるかもしれん。その時は、また交渉させてもらうよ」


 オルフェは、思い切り地面を殴った。


 自分の事が、情けなくて、情けなくて、仕方ない。


「うわああああぁぁぁぁ!!」


 突然、テューネは叫びデュランダルを振った。  


 悲しき悲鳴の…………その1振りは、大地を割った…………


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