1 どう見ても頭が重症です
「うわー!! おそらくきっと昨日の晩に食べた怪しげなキノコのせいで大声で叫び散らしてのた打ちまわるほどお腹が痛いー!! あーもーだーめーだー!
そんな憐れなジェイ君を助けるにはこの村の近くの山の頂上にだけ生えている薬草を心優しいサヴィトリとヴィクラムさんの二人が力を合わせて採ってくるしかない! ああどうかおーたーすーけーをー」
シーツから小刻みに震える手だけを出したジェイを見た後、サヴィトリとヴィクラムは図らずも互いの顔を見合わせる。
いつまでたっても起きる気配のないジェイを心配し部屋に入ると、いきなりわけのわからないことを叫びだした。病気か怪我かは不明だが、とにかく末期症状に違いない。
サヴィトリは、
・右ストレートで鼻っ柱をぶっ叩いてやることにした。
・膝蹴りをジェイの鳩尾に叩きこんでやることにした。
・ベッドごと窓から投げ捨ててやることにした。
「臥せっている者に何をする」
実行しようとしたサヴィトリの腕をつかんで止めたのはヴィクラムだった。
「どう見ても仮病だろう」
サヴィトリは必要以上に強い力でヴィクラムの手を振りほどく。
「それに、山の山頂に生えている薬草採取という化石並みにステロタイプなおつかいイベントなど誰がやるか! 本当に腹痛なら乳酸菌を摂取して治せ!」
「あばばばばばばばばばばばばばばば」
サヴィトリに肩を押さえつけられ、ジェイは容赦なく口にヨーグルトを注ぎこまれる。
「やめろ」
ヴィクラムが間に入り、二人を引き離した。
「乳酸菌は経口摂取してもそのほとんどが胃酸で死滅する。無駄な事はするな」
なんとなく真実味のあるヴィクラムの物言いに、サヴィトリは思わず押し黙る。
「ジェイ殿の言うとおり、近くの山の山頂付近には、胃酸でも死滅しない乳酸菌が多量に含まれた特殊な薬草が自生している。それがジェイ殿の腹痛に効果があるかは不明だが、必要とあらば採取してこよう」
(うわー、適当に言ったことが半分くらい本当だった。っていうか俺、ヴィクラムさんにジェイ殿って呼ばれてたんだ)
ジェイの額にじっとりとした汗の珠が浮かぶ
「……やっぱり仮病じゃないのか、ジェイ?」
「あーーー! 鼻の穴にスイカねじこまれるくらい痛いーーー! 早く二人で採って来てー! ジェイの一生のお願いー!!」
「――と言っているが、俺一人で問題ない。お前はどうする?」
興味なさそうにヴィクラムが尋ねてきた。
「私のほうこそ一人で問題ない。今すぐ行って採ってきてやる」
ヴィクラムの言葉を待たず、サヴィトリは一人で部屋から出た。あんな男と二人で行動するなど論外だ。
「場所は知っているのか?」
うしろの方から声がかけられる。嫌味なのかお節介なのか。
「関係ないだろう」
サヴィトリは歩みを速める。
だがあっさりと並ばれ、ヴィクラムに腕をつかまれた。
「同行すると決まった以上、身勝手な行動をされては迷惑だ」
正論。クベラに土地勘のないサヴィトリが一人で動きまわるのは非効率かつ危険が伴う。わかってはいるが、ヴィクラムに言われると素直に言葉を飲みこめない。
サヴィトリはつかまれた腕を強く振り払う。
「案内する。ああやって出てきた手前、戻りにくいだろう」
ヴィクラムは特に気にした風もなく歩き始めた。サヴィトリがついてくるかは確認しない。
サヴィトリは眉間に皺を寄せ、ヴィクラムの後を追った。