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2-6 男は夜にどこへ行く

 部屋に着くなり、サヴィトリは勢いよくベッドに倒れこんだ。優しく抱かれるように毛布に身体が沈みこむ。昨日の安宿の硬いベッドとは大違いだ。


「あの人に同行してもらうことにしてよかったでしょ、サヴィトリ?」


 毛布と戯れているサヴィトリを見おろし、ジェイは恩着せがましく言った。

 今夜泊まるのは広い六人部屋だった。しかも宿泊料金はいっさいかからない。魔物討伐で遠征の多い羅刹のために、各所にこういった提携の宿があるのだという。


「でも好きじゃない」


 サヴィトリはきつく枕を抱きしめ、眉間に皺を寄せる。

 上から物を言われると、どうしても喧嘩別れしてしまった養父のクリシュナ思い出す。ヴィクラムとクリシュナに類似点はないが、なぜか脳裏によぎった。なんとなく気に食わないと思うのもそれが一因だろう。普段の精神状況であれば、きっとここまで毛嫌いはしなかった。


「ふーん? でもあの人、クベラの大衆誌アンケートで『抱かれたい男』の常連だよ。どんな性格かは詳しく知らないけど、外見と家柄は一流だからね」


 若干羨ましさの混じった風にジェイは言う。


「ジェイは入ってないの?」


 サヴィトリはからかうように微笑んだ。


「近衛兵っていっても俺なんか一般人と変わんないもん。勤務時間も超変則だし、彼女の一人も――」


 言いかけて、ジェイは慌てて口元を押さえた。なぜかサヴィトリの方を窺うように見る。

 サヴィトリには、どうして途中でやめたのか、どうしてこちらを見ているのか、どちらの理由もわからない。


「そういえば、あの男はどこに行ったんだ」


 なんとなく、サヴィトリは話題をすり替えた。ヴィクラムの行き先について興味はないが他にこれといった話題もない。

 食事を終えた後、ヴィクラムとは別れた。野暮用がある、とだけヴィクラムは言い、どこかへと行ってしまった。ジェイにも、行くか? と誘っていたが、ジェイは顔を赤くして全力で首を横に振っていた。


「あー、いやー、なんだろねー? ちょっと俺にもわかんないかなー?」


 あの時と同じように、ジェイの顔が真っ赤になる。

 顔が赤い自覚があるのか、ジェイは白々しく暑いなーなどと言い出し、ベッド脇に用意されていたコップと水差しをべたべたと触った。そんなにも焦っているのか、持ちあげたりなどして四方八方から眺めるだけで、いっこうに水を注ごうとはしない。


「風俗か」


 サヴィトリはこともなげに言った。

 ジェイの手からぽろりと水差しが落ちる。地面に激突する寸前で、ジェイはかろうじて注ぎ口の部分をつかむことができた。


「師匠が夜一人で出かける時は、たいていそうだったから」


 これといった拒絶もなく、サヴィトリは淡々と続ける。


(サヴィトリ連れてきちゃってよかったかな~、なんて迷ってたけどやっぱ正解だったかも。絶対女の子の生活環境的によくないって、色々。つーか、あの人も空気読めないな。初対面の女の子がいるんだからもっとこっそり行けよ)


 ジェイは水差しを抱え、しみじみと毒づいた。


 その間に、サヴィトリはすでに床についていた。微かな寝息が静かな室内に響く。散々言い含めた甲斐あって、ちゃんと服を着て寝ている。

 ジェイはため息をつき、自分もベッドの中に潜りこんだ。

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