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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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陽炎ー2

 異世界フェアビューランドへ転生させる人間は決まった。

 ルシフェルから話を持ち掛けられた標的(ターゲット)は簡単についてきた。

 こんなに簡単にいくもんなのか。見知らぬ女の子から勧誘されてホイホイ、ノコノコと……。

 俺以外にも適当な生き方をしている奴がいると思うとちょっと安心する。

「えー、それでは今から転生の儀式を行います」

「は……?」

 物陰から現れた俺に男はきょとんとしていた。

「何よ、儀式って。キスすればいいだけよ?ホラ、早く!」

 ルシフェルから背中を押され、俺は男に近付いた。

 大丈夫なのかな、こんなことして……ええい、ままよ!

「う、わあっ。何す……」

「あ、コラ、逃げるな!」

 標的(ターゲット)捜しは簡単。

 難しかったのは唇を奪うことだった。

 人気(ひとけ)のない路地裏で後退(あとずさ)りする標的(ターゲット)ににじり寄る俺は、どっからどう見ても痴漢だ。

「なあルシフェル、お前がやれよ。お前なら可愛いし、この人もすんなり……」

 ルシフェルの方を見ると両腕で大きく×(バツ)を作っていた。

「しょーがねえな、もおっ」

 無理矢理唇を押し付け、あっちでは金髪碧眼(パッキンブルーアイ)でナイスボディなおねーさんに生まれ変わるんだぞ!そのうち俺が抱いてやっからな!と念じる。

「!!」

 触れた瞬間、俺の頭の中に、いや全身に相手の人生が流れ込んでくる。

『嘘でしょ!?そんな大金……』

『さっさと金返せ、オラァ!』

『ミゾグチ君、会社に変な連中が…君、借金があるそうだね。困るんだよね、そういうの』

『当たりを引ければ、借金なんてすぐに返せるんだ。今日こそ、今日こそ……』

 様々な声と、ジャラジャラと金属がぶつかり合う音……見えるのは、チカチカ光る電飾とパチンコ玉だった。

 最後に聞こえたのはルシフェルの囁き声。

『新しい人生をあげる……あなたに』

「ひっ」

 声を上げたのは彼だったのか、それとも俺だったのか。

 目を開けると、男の姿は消え失せていた。

「お、終わったのか……?」

「終わったわ。上出来よ、ナツキ」

 振り返るとルシフェルが満足げに微笑んでいた。

「はああ……」

 ふがいなく、俺はその場にへたり込んでしまった。

 あっけない。なんてあっけないんだ。

 これが俺の初仕事だった。

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