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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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陽炎ー1

 俺とルシフェルは繁華街から公園へと移動した。

 曇り空の下、生き生きと遊ぶ子供達やそれを見守りつつ世間話に花を咲かせる母親達、犬を散歩させている老人、ベンチで眠るスーツ姿の男など。

 この中から誰か一人の命をフェアビューランドに飛ばす……。

 子供を狙うのはやっぱり気が引ける。

 仲良く遊ぶ男の子と女の子を見て、自分にもああいう頃があったなと思う。

 ガキの頃は悩みも何もなくて良かった。

 ……まあ、今もガキなんだけど。

 幼なじみの美夕とよく近所の公園でブランコに乗ったっけ。砂場遊びも楽しかった。

 身体の弱かった美夕は外遊びの時間に制限があって、すぐに家から迎えが来たけれど。

 美夕のお母さんはよく俺を家に招いてくれた。

 料理上手のおばさんの作る甘い焼き菓子やハンバーグやオムライスなどをごちそうになり、夏の暑さが厳しい時期や雨の日は、一日中美夕と家の中で遊んだ。

 美夕は近所でも評判の美少女だったし、おばさんも美人で優しかった。おじさんはウチの父親と同じで仕事が忙しかったようで、何度か会ったことはあるけれど顔は全然覚えてない。

 美夕……もうずいぶん会わないけど、元気にしてるかな。

 俺が中学に上がってからはほとんど顔を合わせることはなく、気が付けば美夕の一家は何処かへ引っ越してしまっていた。

 不動産業者に連れられて物件を見に来た人達が美夕の住んでいた家に入っていくのを見て、初めて美夕が引っ越したことを知ったんだ。

 だけどその時は学校生活が楽しくて忙しくて、気にも留めなかった。

 今頃どこでどうしてんのかな。

 思い出すのはおかっぱ頭の幼い美夕。痩せっぽちで、生白い病弱な女の子。

 だけど目だけはいつもらんらんと輝いていた。

 絵を描くのが好きだった美夕は、入院している間は一日中画用紙にクレヨンで絵を描いていた。

 描くのはいつも王子様とお姫様が草原や花畑で笑っている絵。

 動物が好きだけど病室じゃ飼えない。そう嘆いた美夕に俺は犬や猫、うさぎの絵を描いてあげた……。

 退院したらまた遊ぼうねって、あの約束……どっちが言ったんだっけ……?

「ナツキ、ナツキ」

 物思いに(ふけ)っていると、ルシフェルがくいくいと俺の服を引っ張ってきた。

「ほら、見てナツキ。あの人、ゆらゆら変な風に見えるでしょ?ああいう人は死にたいの」

 ルシフェルが指差す方を見ると、若い男がベンチに座ってスマートフォンを弄っていた。

 その男は、体全身がもやもや揺らいでいるように見えた。

 まるで陽炎かげろうだった。

 よく晴れて日射が強く風がない日に、道路のアスファルト上や車の屋根の上などに立ち昇る、もやもやとしたゆらめき――――それがその男を覆っているように見えた。

「あの人に決めた」

 そう言うとルシフェルは颯爽とその男に向かって歩いていった。

 ルシフェルに話しかけられ驚いた顔をした男だったが、やがて立ち上がりルシフェルと共に公園を出た。

 ルシフェルに目で合図され、俺は慌てて二人の後を追った。

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